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波打ち際のトレース  作者: 林檎飴
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♪Ⅱ ファーストコンタクト

 僕が小学校5年生の頃、学校帰りによく海岸に遊びに行っていた。その理由は今にしてみれば恥ずかしいもので、自分の遊んだ痕跡が残るコトが嫌だったからである。経緯はよく覚えてはいないけれど、小学校低学年の頃の僕は休み時間に自由帳にマンガを描いていた。それが、なんか、クラスメイトに見つかり、からかわれ、気づけば僕は知人の行動が凄く気になる子供になっていた。家でゲームをするにも親の目が気になり、漫画を読むのも気になる。自分の楽しんでいた事が周囲とズレ、それが今後、会話の種として嫌な風に扱われるのが恐ろしかったのである。

 ともすれば、と砂浜で一人遊ぶのが最適解だと当時の僕は判断した。案外、僕の同級生は海岸で遊ばなくて、家でゲームをするヤツが多かった。


 ♪♪♪


 海は広い。ボクはちっぽけな存在だ。でも寂しくなんかなくて、むしろ嬉しいくらいなんだ。だってボクを馬鹿にするヤツなんかいないんだから、自由気ままに、思う存分に一人遊びが出来るんだ。だから寂しいわけないんだ。

 今日作るのは怪獣・ヤマタノオロドラゴン。三つ首のあるドラゴンだ。オリジナルだ。さっそくボクは頭の中にあるカッコいいイメージを、手探りで再現していく。つめは以外と丸くて、体も丸みを帯びていて、それでいながら首にかけて段々ギザギザな部分が出て来て、最後には……。


「って思ったよりガチガチになってる!」


 頭の部分を想像しながら胴体を砂浜に書いていたところ、いかにも力強そうな足になっていた。けれどそれはどうでも良かった。だってどうせすぐ、波に消されるんだから。

 そんな平常運転な遊びを初めてしばらく経ったときだった。夢中になってしばらく、僕の真横で一人の女の人が、かがんでボクの描いている絵を眺めていた事に気付いた。


「うわ!?」

「ってな、わ!!?」


 ボクの驚く声と同時に女の人は尻もちをついた。セーラー服を着た、年上の女の人だった。髪の毛は長く、色白で、それでいて、なんていうか……。


「いきなり叫んでびっくりしたなぁ。どうしたの?」

「どどっ……どうしたってなんだよ!!人の絵覗き込んで。お前がオカシイんだろ!」


 と、それと同時に、まだ波でまだ絵が消されていない事に気付く。とっさに足でかき消した。が、その動向もどうやら見られてしまった。


「え、何で消すの」

「うるさい!消してない!!幽霊女!!」

「なに幽霊女って。失礼!」


そういうとお姉さんは悪い人の顔をして、僕の脇腹をくすぐり始めた。その表情はボクを心底楽しそうにからかっている風で、僕より年上のクセにボクの同級生より無邪気に笑っていやがった。


「なんだよお前、高校生だろ!大人げないぞ!!」

「逆よ逆。高校生は君みたいな年頃より、こーいうとき純粋に笑えるんだぞ?」

「なに変なこと言ってんの!子供っぽいぞお前!!」


いまいちよく分からない話に返す言葉もなかった。でも不思議と、このお姉さんを殴る気にはなれなかった。そんなボクがジタバタしてしばらく、一通り楽しんだ彼女はふーっと息をついた。


「そんな事より少年。さっきからずっと絵を描いてて喉乾いてないかい?」

「うるせえ乾いてない!」

「君は本当にアベコベだなぁ……。っほい麦茶」


ペットボトルの麦茶を投げ渡される。太陽の陽射しがほどよく差し込み、お茶の割には明るい色をしていた。実際、この真夏の暑い中ずっと何も飲まず食わず遊んでいた訳だから、しぶしぶペットボトルの蓋を開けて早々に口をつけた。その様子に満足したのか彼女は、カバンから何やら取り出し始める。サイダーだった。


「ちょそっち寄こせよ!!」

「えーなにこっちの方がお好みだった?」

「普通そうだろ」

「でも私子供っぽいしぃ……対して君の方が大人なんだろぉ?」

「うざい!」


ボクの反応を楽しみながら、彼女はとうとうサイダーに口を付けてしまった。


「一口やろうか?」

「ばっ!」

「んーというかサイダー単品なんて普通に飽きるなぁ。こんないらないだろ。交換する?」

「するか!!!」


ボクが焦ると彼女は口角を上げ始める。ほんと、ムカつく人だと思った。


「それより君、絵描いていたんだろ?」

「だから描いてないってば!」

「君の絵、けっこう可愛かったじゃん」


そんな事を、彼女は先ほど同様、無垢な感じで浮かべて喋った。その笑みにはクラスメイトがボクに見せた悪意に満ちたものではなく、なんというか綺麗で。じゃない、なんか、こう、恥ずかしかった。


「なんでこんな波打ち際で描いているの?」


そんな純粋な質問に対してボクは黙るしかなかった。沈黙の時間が長ければ長くなるほど、コイツの顔は優しくなっているように感じた。別に責められている訳じゃないのに、体が熱くなって、汗も出てきた。


「まぁなんとなく分かるよ。君とちょっと話したら」

「え?ってええ!!」


コイツは、ボクの方にゆっくりと近寄ると、顔をボクの高さに合わせて頭を撫でてきやがった。周りに人がいないか気になったけれど、幸い、大人も同級生も誰もいなかった。


「それってどういう……」

「こういう事でしょ」


その言葉の意味が分からないまま立ち尽くしていると、「じゃあね少年。また会おう!」と彼女は立ち去るのであった。

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