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002.際田天雨②

 玄関で喋っていると、際田お母さんが「そんなところにいないで中に入ってもらったら?」と声をかけてくるが、さすがの天雨もいきなり俺を部屋に上げるのは憚られたようで、町内を散歩しながら話すことになる。


 天雨が訊いてくる。「私達の学年って、小学校のとき何人だったか覚えてる?」


 俺は答える。「全然。少なかったのは覚えてるけど」


「男子七人、女子七人で……合計十四人だよ。ただし、途中で湊太くんと癒智子が転校しちゃってるから、卒業時は十二人だったけど」


「少ないなあ」

 最乃宮の小学校の1クラスの男子の人数よりも少ない。しかも最乃宮の小学校は学年ごとに複数のクラスがあったから、スケールがまったく異なってしまっている。改めて、栂下は田舎で、人口も少ないんだと実感させられる。


「女子七人の内の誰かが、湊太くんの『思い出の子』なんでしょ?」


「そういうことになるな」


「顔とか覚えてないの? 顔は忘れたにしても、身長は高かったかとか、髪型はどうだったかとか、何かヒントはない?」


「顔も名前も忘れたんだよなあ」不甲斐ない。「髪は短めだったと思う。身長は……小二の記憶だから信憑性がアレなんだけど、そんなに大きい子じゃなかったと思うんだよな。小柄だった……気がする」


「あ、じゃあカヨチと舞夢じゃないな」と天雨はすぐさま候補を減らす。「カヨチと舞夢は保育所の頃から丸々としてて大きかったから」


「うん。ぽっちゃりな子じゃなかったな。それは間違いない」


「で、私も違うし、転校しちゃった子はもう除外するしかないし……そうなるとあと三人だけだよ」


「一気に絞られたな」だけど、俺は先に確認しておく。「俺以外にも転校しちゃった子がいたんだな」


「うん。五年生だったか六年生だったかの頃に。湊太くんといっしょで、家の都合で」


「ふうん。その子のことは覚えてるんだな」


「根に持つね」と天雨は少しあきれたふうに笑う。「高学年の頃のことはさすがに覚えてるでしょ。小二の頃の話とはだいぶ違うじゃん?」


「まあなあ……」

 小六だったら最近……とまでは言わないが、そこそこ鮮明に記憶が残っている範囲か。


「とにかく、転校していなくなっちゃった子のことは考えても仕方ないでしょ?」


「そうだな。栂下町にはもういないわけだし」あきらめるしかない。「残りの三人がどうなのかを確かめてみるか」


「湊太くん、桃岡高校って言ったよね?」


「ああ……休み明けから桃岡高校に通うよ」


「だったらちょうどいいよ」天雨がビシッと俺を指差してくる。「その三人の女子は桃岡高校生だから。心行くまで調べることができるよ」


「マジか」

 都合がいい。だけど、まあ必然とも言える。桃岡高校は栂下町から通うのにもっとも適した進学校なので、そこに栂下小学校の卒業生がたくさん集まっていてもあまり不思議じゃない。俺だって、アクセスが比較的ラクだから桃岡高校への転入を決めたのだ。


「それから、私も」と天雨は自身を指す。「この春から桃岡高校に通ってるので。よろしくね」


「そうなのか」

 つまり、思い出の子の最終候補四人と同じ高校へ通うことになるのか、俺は。


 天雨のことも、俺は候補から外していない。『カヨチ』や『舞夢』が昔から丸々としていたのが本当なら、その二人はおそらく思い出の子ではないが、天雨の場合は候補から外される条件を満たしているわけではないのだ。記憶にないから違う……と本人が言っているだけで、ひょっとしたら……という可能性はある。


「誰が思い出の子なんだろうね」面白いことが好きだと嘯いていただけあって、たしかに天雨は楽しそうだった。「見つけ出せたら告白しちゃう?」


「や、そういうんじゃないよ……」と俺は否定するけれど、この急激な胸の高鳴りはなんだろう? たぶん天雨に煽られて当てられているだけだと思う。俺はあくまでも、思い出の子と再会できたらお礼が言いたい……それだけを目的として、軽い気持ちで探しているだけなのだ。昔は両思いだったからって、今更また付き合いたいなんて、あの頃の続きをしていきたいだなんて、そんなことは考えていない。


 伊炭佳代(いずみかよ)今井舞夢(いまいまいむ)は商業高校へ通っているとのことで、念のため、天雨の方からスマホでササッと確認だけしてもらうようにする。俺の方には桃岡高校へ通う三人を直接確認するミッションが言い渡される。この三人に関しても天雨が連絡してさえくれれば即座に判明するのだが、そこはそんなにあっさりしていてはつまらない、と天雨は言う。まあ俺としても、天雨一人にすべてを任せても申し訳ないし、たしかにつまらないし、俺自身のためにもならない。本当に思い出の子と再会できるなら、そのときは、俺の目の前でそうなのだと、この子こそが思い出の子なのだと、そういう感じで明らかになってもらいたいものだ。そう思う。


 それに、俺は友達を増やすこともしたいのだ。また同じ学校へ通うことになる三人くらいには、天雨に頼らず俺が直々に声をかけてみたい。そうやって交流の機会を設けていきたい。


「あー、なんかワクワクしてきたかも」と天雨が言う。「ようやく高校生になったけど、けっきょく中学までとなんにも変わらないし、なんか退屈だなーって思ってたんだよ。湊太くんが栂下町に帰ってきてくれてよかったかも」


「そっか」そう言われると、嬉しい。


「湊太くんのことは全然ちっとも覚えてないんだけど、真っ先に私を訪ねてくれて、ありがとね。全然ちっとも覚えてないんだけど、また昔みたいに仲良くしようよ」


 覚えてないと言われると悲しいが、それなのに仲良くしてくれるのはありがたいことなのだ。俺は改めて「ありがとう」と「よろしくお願いします」を言う。

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