第98話 帝国軍精鋭部隊
傭兵たちを倒した後、僕たちは再び森を駆け抜けた。
そして、森を抜けると平原に出た。
馬を走らせて、しばらく進んでいた時だった。
前方に大軍が待ち構えていた。
よく見ると、帝国の紋章を掲げている。
どうやら、帝国軍の精鋭部隊のようだ。
しかし、やってくるのがいくらなんでも早すぎる。
「雇った傭兵どもがやられたか。やはり傭兵どもは使えぬな」
「その口ぶりから察するに、あの傭兵たちを雇ったのは、貴様か?」
「如何にも、傭兵どもを雇ったのは俺だ。しかし、我らは帝国軍の正規部隊だ。そう簡単には倒せぬぞ」
僕の問いに、敵将らしき男は答える。
男は炎のようなオレンジ色の頭髪に浅黒い肌、そして恵まれた体格の巨漢であった。
背中には大剣を背負っていることから、見た目どおり接近戦を得意としているのがわかる。
「俺はヴォルト・ブレイズ。帝国軍六大帝将の一人で、【炎のヴォルト】とも呼ばれている。もとは冒険者稼業をやっていたが、実力が認められ、皇帝陛下より六大帝将の一人として呼ばれた経緯を持つ」
巨漢の男は、炎のヴォルトと名乗る。
炎のヴォルトは、大剣を使った接近戦を得意とする戦士タイプだと聞く。
圧倒的なパワーと守備力を誇り、接近戦においては無類の強さを誇るという。
その強さを誇る一方で、正々堂々を重んじている。
そのため、自身が強いと認めた相手に一騎討ちを挑むという。
「おい、そこの屈強そうなお前」
「えっ? オレ?」
炎のヴォルトは、そう言ってヒューイを指差した。
「確か名をヒューイ・サウスリーと言ったな。俺と1対1で戦え。ただし、部下たちには手を出させず、残りの3人だけの相手をさせると約束しよう」
「いいぜ。お前なかなか強そうだしな。丁度ザコばっか相手してて退屈してたところだったぜ!」
炎のヴォルトは、ヒューイに一騎討ちを挑む。
ヒューイもそれに同意する。
「ヒューイ、律儀に応じる必要はない。奴とは僕が戦う!」
「いいや、ファイン。ヤツはオレに任せな。オレもそろそろ強いヤツと戦いたいと思っていたところだぜ!」
「……わかった。無茶はするなよ」
「おう!」
ヒューイはそう言って、炎のヴォルトとの一騎討ちに臨む。
「よーし、お前らはファイン・セヴェンス以下3名の相手をしろ!!」
ヴォルトの指示により、一般兵たちが前に出た。
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ヒューイがヴォルトに挑まれた為、僕たち3人は帝国軍の兵士たちと戦うことになった。
しかし、数はかなり多く、ざっと見ただけでも数百はいる。
僕たちを襲撃するにしても、数が多すぎるのではないかと思う。
兵種は剣士や騎士、それにアーチャーなどのオーソドックスなものが多いようだ。
そして、帝国軍精鋭部隊なだけあって、なかなか強そうだ。
これは気を引き締めて行かないといけないな。
「行くぞ、ルナ、セレーネ。ヒューイがいない分、負担は大きいが、やれるか?」
「大丈夫、いけるわ」
「任せてください」
僕から先制攻撃を仕掛けることにした。
まずは、上級魔法の稲妻撃で前衛の敵を減らす。
雷雲から無数の雷が敵陣めがけて降り注いだ。
「「「ぐわあああああああっ!!!」」」
悲鳴が聞こえたかと思うと、前衛の敵が何割か倒れた。
この機を逃さず、僕は剣を抜いて、敵陣に馬を突っ込ませる。
そして、すれ違いざま敵を次々と切り捨てる。
敵もなんとか応戦しようとするが、馬のスピードについてこれず、次々と倒れていく。
僕が仕掛けると同時に、ルナも攻撃を開始したようだ。
後方から、馬に乗った騎士たちが突撃してきた。
とは言え、まともにやりあうと面倒なので、接近される前に、疾風刃を放った。
騎士たちは、真っ二つになった。
しかし、敵の数が如何せん多すぎる。
一体、ヴォルトはどれだけの兵力を投入したのか。
逆に言うと、一網打尽のチャンスでもあるのだが。
「くそっ、こうなったら、魔鎧騎兵部隊を投入せよ!!」
敵の副将らしき人物が、指示を出した。
すると、全身に分厚い鎧を纏った騎士の集団が出てきた。
手には槍と盾を装備している。
「魔鎧騎兵部隊、前進せよ!!」
魔鎧騎兵と呼ばれた集団は、横一列に並んでゆっくりと前進する。
18年前の王帝戦争でも、その高い防御力で他国の騎士団を圧倒したらしい。
物理攻撃に対する防御力は高いようだが、重装備な分動きは非常に遅い。
とは言え、剣でまともにやりあうのは面倒だ。
そこで、僕は火球を放った。
火球は魔鎧騎兵に直撃するものの、ダメージを与えた様子はない。
続いて、稲妻矢を放ったが、やはり効かなかった。
なるほど、あの鎧と盾には防御魔法が施されているのか。
僕は剣を横に薙ぎ、風斬刃を放った。
すると、魔鎧騎兵部隊の首は真っ二つになって倒れた。
「バカな!? 魔鎧騎兵部隊がやられただと!? こうなったら魔導弓部隊、前へ!!」
敵指揮官の指示で、今度は魔導弓を持った兵士たちが現れた。
僕は魔導弓の弱点となる接近戦に持ち込むべく、馬を突撃させる。
「魔導弓部隊、撃ち方用意、始めッ!!」
指揮官の指示により、兵士たちは魔導弓を一斉に発砲する。
赤い光線状の弾が無数に発射される。
帝国軍が使う魔導弓は、エリシアさんが持っていた物とは異なるタイプのようだ。
僕は何とか弾と弾の合間を縫ってを回避する。
しかし、帝国の魔導弓は連射が可能なようで、次から次へと光線弾が発射される。
僕はたまらず結界を展開して防御する。
接近することすら、ままならないとは。
しかし、僕の作戦が変わることはない。
「なっ!? き、消えただと!?」
「一体ヤツはどこに行った!?」
敵兵たちが僕を見失い、混乱している。
その隙に、僕は魔導弓兵たちの首を次々と刎ねて行く。
そう、僕は瞬間移動を使い、馬ごと敵陣へと移動したのだ。
僕はそのまま馬を走らせながら、魔導弓兵たちを次々と斬り捨て行った。
「バ、バカな!? いつの間に目の前にッ!?」
間合いに入られた敵は、成す術もなくただただやられて行くだけであった。
帝国軍の精鋭部隊と言えども、この程度のものか。
僕はそのまま、敵の指揮官の首を刎ねた。
「ぐ、軍師殿がやられただと!? も、もうだめだぁ!!」
指揮官を失った現場は、一気に混乱状態となった。
戦場では阿鼻叫喚の声がこだまする。
散り散りになって逃げ出す兵士たち。
僕は残存勢力を掃討することにした。
「な、なんだ!? この先に進めないぞ!」
「見えない壁のようなものがあるぞ!」
僕は結界を展開し、敵が逃げられないようにした。
逃げられなくなった敵を、一人残らず掃討する。
これでは、まるでただの虐殺に見える。
しかし、ここはローランド王国領内である。
自国内に少しでも敵兵が紛れ、無関係な民に危険が及ぶことは避けたい。
仕方のないことだが、殺されるくらいなら殺した方がまだマシである。
それにしても、この短期間でこれだけの戦力を僕たちに仕向けることができるとは……。
帝国には、何らかの“カラクリ”があると見て間違いないだろう。