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英雄たちの物語 -The Hero's Fantasy-  作者: おおはしだいお
第3章 帝国との戦い
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第94話 可愛いお客さん

 ローランド王国に帰還した翌日。

 久しぶりに、一人で王都エストを巡ろうと思う。

 ちなみに、ルナは数ヶ月ぶりに実家へ帰ってきた為、今日は家族と過ごすようだ。

 また、ヒューイは王都エストを観光したいと言うので、セレーネに案内してもらっているそうだ。

 僕は最低限の身支度を済ませ、セラフィー邸を出た。

 今日の天気は快晴で、非常に過ごしやすい日だ。


 久しぶりの休憩だが、特にすることがなかった。

 とりあえず、商店街へ向かうことにした。

 商店街には様々な売店が並んでおり、今日も人で賑わっている。


「ねえお兄さん、ちょっといいかな?」


 後ろから少女の声が聞こえたので、振り返ってみた。

 そこには、小柄な女の子が満面の笑みを浮かべて立っていた。

 容姿は色白肌に赤い瞳で、ポニーテールに結った黒髪が特徴的である。

 推定年齢は10代半ばか。

 身長は150cmくらいで、まだあどけなさを残している。


「えっ、僕?」

「他に誰がいるの? よかったら、私に街を案内してくれないかな? 私、ここに来たばかりで街のことがよくわからないの。あっ、私の名前はノゾミ・ノワールだよ! 私のことはノゾミって呼んでね!」


 ポニーテールの少女は、明るくノゾミと名乗る。

 容姿こそ違えど、明朗闊達な性格がルナに似ていた。


「いいよ、僕で良ければ案内してあげるよ。僕はファイン・セヴェンスだ」

「よろしくね、お兄ちゃん!」

「お兄ちゃん……!?」


 ノゾミは、僕を『お兄ちゃん』と呼んだ。

 それにしても、初対面の僕にわざわざ声をかけるなんて、随分と人懐っこい子だな。

 せっかくなので、僕はノゾミと一緒に商店街を巡ることにした。


「ノゾミはどこから来たの?」

「私は、もともとはノストに住んでいたの。だけど帝国が攻めてきて、お父さんと一緒に避難してきたんだ。これからエストに住む予定だけど、とりあえず今はお宿を取っているんだ」

「そんなんだ、大変だね。お父さんは、今仕事?」

「そうだよ。だから、今日は私一人で遊びに行っていいんだって」


 先日、北の都市ノストに帝国軍が侵攻してきた。

 王国軍が、何とか帝国を撃退したから良かったが。

 ノゾミは父親と共に、王都エストに避難してきたと言う。

 こんな幼い子供が戦禍に巻き込まれるなんて、不憫だなと思う。


「ところで、お兄ちゃんは何やっている人?」

「僕? 僕は冒険者をやっているんだ。【星の英雄たち(スター・ヒーローズ)】というBランク冒険者パーティーのリーダーなんだ」

「Bランク!? それはすごいね!」


 僕はノゾミと他愛ない会話をしながら、商店街を歩く。

 すると、ノゾミはある場所に興味を示し、そこで立ち止まった。

 その場所とは、射的コーナーである。

 この商店街には、こういった子供向けの店もある。

 ノゾミは、射的コーナーを指さした。


「お兄ちゃん、射的やってもいい?」

「いいよ」

「ホント? やったー!」


 ノゾミは喜んで射的コーナーに向かった。


「いらっしゃい。遊んでいくかい?」

「うん、遊んで行く!」

「オーケー。一回10ゴールドだ」


 僕はおじさんに銅貨1枚を渡す。

 すると、おじさんはノゾミにダーツの矢を三本渡した。


「一度に遊べる回数は、三発までだ。ダーツの矢を投げて、的に当てた分の数だけ景品をあげよう」

「やったー!」


 ノゾミは、右手にダーツの矢を構えた。

 まず、一投目。ノゾミは的に向かって矢を投げた。

 矢は見事に的に命中した。


「やったー!」


 二投目。再びノゾミは矢を投げた。

 矢はまた的に命中した。


「やったー! また当たったよ!」


 二回連続で命中させるなんて、すごいな。

 どこかで練習でもしたのだろうか?

 そして、最後の一発。

 ノゾミは当然の如く矢を命中させた。


「やったー! やったよ、お兄ちゃん! これで景品ゲット!!」


 ノゾミは笑顔でピースしてきた。


「おめでとう! 三発も命中させるなんて、お嬢ちゃん凄いな! さあ、好きな物を持って行きな!」


 ノゾミは景品として、クマのぬいぐるみ等をもらったいた。

 景品をもらったノゾミはご満悦の様子。


「三発も当てるなんて、凄いな。どこかで練習したの?」

「ううん! 運よく当てただけだよ!」

「そうなんだ。凄いね」

「あっお兄ちゃん、ソフトクリーム食べたい! 買って!」

「いいよ」


 ノゾミはそう言いながら、突然僕の袖を引っ張った。

 僕はノゾミにソフトクリームを買ってあげることにした。

 せっかくなので、僕も分もついでに買った。


「いらっしゃい」

「すみません、ソフトクリームを2つください」

「はいよ」


 僕は計200ゴールド払い、ソフトクリームを2つ買った。


「美味しいね!」

「そうだね」


 ノゾミは、笑顔でソフトクリームを食べている。

 ソフトクリームを食べた後、移動を再開した。

 途中でヒューイとセレーネに会った。


「あら、ファイン様。ごきげんよう」

「よう、ファイン! ……って誰だ、その子は?」


 ヒューイとセレーネは、不思議そうにノゾミを見る。


「こんにちは! 私はノゾミ・ノワールだよ。よろしくね!」

「こんにちは。私はセレーネ・ホープと申します」

「オレはヒューイ・サウスリーだぜ」


 みんなで自己紹介しあう。

 セレーネとノゾミの身長が並んでいる。

 その光景が、何だか少しだけ微笑ましかった。

 エルフの血を引くセレーネは、成長が緩やかなようだ。


「ノゾミ、ヒューイとセレーネは星の英雄たち(スター・ヒーローズ)の仲間なんだ。あともう一人いるんだけど、今日は家にいるみたいだ」

「へえ、そうなんだね」

「ところでヒューイとセレーネはどこへ行くんだい?」

「オレたちは今から商店街に向かうところだ」


 ヒューイとセレーネは、商店街へと向かって行った。

 その後も、僕はノゾミと共に色々な場所を巡った。

 そして、時間はあっという間に過ぎ去り、気が付いたら夕方になっていた。

 僕はノゾミが泊まっているという宿へと送った。


「今日は楽しかった! 遊んでくれてありがとう、お兄ちゃん!」

「こちらこそ、今日は楽しかったよ。じゃあね、ノゾミ」

「また会おうね、お兄ちゃん!」


 別れ際、ノゾミが手を振ってきたので、僕も手を振って返す。


■■■■■


 日が沈み、エストは夜を迎えようとしている。

 街を歩いていると、偶然ルナと会った。


「やあ、ルナ」

「昼間家族と出かけていたら、偶然ファインを見かけたんだけど、あの小さい女の子は誰?」

「今日知り合ったノゾミっていう子なんだけど……どうしたの?」

「ふーん、ファインってああいう小さい女の子が好きなのね?」

「そ、そんなんじゃないよ!」


 ルナはなぜか、ムッとした表情で話しかけてくる。

 僕は何か悪いことでもしたのだろうか。

 その直後、ヒューイとセレーネも合流してきた。


「よう、ファイン! また会ったな!」

「ああ」

「あの子はどうした?」

「宿に帰ったらしいよ」

「そうか」


 会話をしていると、とある人物を見つけた。

 その後ろ姿には、見覚えがあった。

 それは、黒いマントを羽織った長身で金髪の男であった。


「あの人は、まさか……!?」

「どうしたの? ファイン」


 僕は金髪の青年を追いかけた。


「アレンさん!」

「やあ! ファイン君じゃないか」


 僕が声をかけると、アレンさんは振り向いた。


「久しぶりだね。元気にしていたかい?」

「ええ。アレンさんもお元気そうで何よりです」


 ルナたち仲間が追いかけてきた。


「お知り合い?」

「ああ、以前にフォースター王国で会ったことがあるんだ。アレンさん、以前話した僕の仲間たちです」

「ルナ・セラフィーです」

「セレーネ・ホープと申します」

「ヒューイ・サウスリーだぜ」

「そうか、君たちがファイン君の仲間たちか。俺はアレン。よろしく」


 アレンさんは、軽く自己紹介した。

 すると、仲間たちもいつものように自己紹介する。

 それにしても、何だか懐かしい感じだ。

 アレンさんと会ったのは、一回だけだと言うのに。


「いつローランドに帰って来たんだい?」

「色々なところを旅して来て、昨日帰って来たばかりです」

「へえ、そうなんだね。旅は楽しかったかい?」

「困難も多かったですが、色々な人々と出会えて楽しかったですよ」

「それは良かったね」


 僕はアレンさんと、他愛のない会話を繰り広げる。

 そう言えば、コミュ力の高いルナが珍しく大人しい。

 どうやら、男性は苦手なようだ。

 すると、アレンさんは急に気難しそうな顔をした。


「……もうじき、世は戦乱を迎えるだろう。18年前にも人々は争いを繰り広げたと言うのに、人々はまた同じ過ちを繰り返すのか。全く嘆かわしいことだ」

「ええ、そうですね」

「ところで、君たちも戦いに向かうのか?」

「帝国が攻めてくるのなら、僕たちは戦うまでです」

「そうか。だが大丈夫、君たちならきっと勝つだろう」

「どうしてそう思うのですか?」

「だたの勘だよ。君たちは強そうだからな」

「当ったり前よ! オレたちは今までにどんな強い敵もぶちのめしてきたんだぜ! だから、オレたちはすっげぇ強いんだぜ!!」

「はっはっはっ、ヒューイ君がそう言うのだから、間違いないだろう」


 ヒューイはここぞとばかりに自分たちの強さを誇示してくる。

 すると、アレンさんも笑ってヒューイの言葉を肯定した。


「ではファイン君、みんな、また会おう」

「ええ、また会いましょう」

「君たちの健闘を祈っているよ」


 そう言うと、アレンさんは踵を返して去って行った。

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