第92話 休暇
国王ゼフィールから休暇の許可が出た。
城を出ると、空はすっかり夕暮れ時だった。
「改めてみんな、長旅お疲れ様。今夜はセラフィー公爵家に来るといい。大したもてなしはできないが、頑張ったみんなに夕食をご馳走しようと思う」
「ありがとうございます」
「ありがとう、お父様」
「中でもファイン君は特に頑張ったそうだな。自ら率先して仲間たちを引っ張り、幾多の戦いを勝利へと導いた。やはり君は凄いな」
「大したことではありませんよ。僕はそれほど凄い人間ではありません」
「そう謙遜するな。普通の人間はそれほどの戦い、そう簡単に勝利することはできないだろう。何よりファイン君、ルナを……娘を守り抜いてくれてありがとう」
「お父様……!?」
セラフィー公爵の言葉に、なぜかルナは顔を赤くしていた。
「それは逆ですよ。ルナが僕の騎士として、いつも僕の傍にいてくれました。それに、勝てたのは仲間たちがいてくれたからこそです。決して、僕だけの力ではありません。みんな、改めてありがとう」
「う、うん!」
「おう!」
「どういたしまして」
その後、セラフィー兄弟たちがルナに話しかけた。
「ルナ、何か顔赤くねぇか? 何照れてんだ?」
「可愛いね、ルナは」
「もう、やめてよ……!」
「あははははっ、ごめんごめん」
その後、しばらくしてセラフィー公爵家に到着した。
屋敷ではセラフィー夫人とヒナタ、それに数人の使用人が迎えてくれた。
「あら、あなた! おかえりなさい」
「おかえり、パパ!」
「ただいま。今日は久しぶりに娘たちが帰って来たぞ」
「あっ、お姉様だ! おかえり!!」
「ただいま、ヒナ」
ヒナタはルナに思いっきり抱き着いた。
「久しぶり! 元気にしてた?」
「うん! ヒナは元気だったよ」
「ミシェル、今日の夕食はいつもより豪勢に頼む」
「かしこまりました」
セラフィー公爵は、メイドのミシェルさんに指示を出した。
ミシェルさんは返事をすると、厨房のほうへと向かった。
「みんな、こっちだ」
セラフィー公爵の案内で、僕たちは食堂へと向かった。
「夕食まで時間はあるが、それまで好きな席でゆっくりしていてくれ」
「お父様は?」
「私はまだ軍務が残っているのでね」
「大変なのね」
セラフィー公爵はそう言うと、食堂を後にした。
すると、ヒナタはおもむろにルナの足元でしゃがんだ。
「どうしたの?」
「えへへ、お姉様、今日は“薄いピンク”なんだ!」
「「なっ!?」」
ヒナタは、ルナの下着の色を突然暴露してきた。
ルナは恥ずかしそうに顔を赤らめると、両手でスカートを押さえた。
見てはいないが、なぜか僕まで恥ずかしくなってきた。
「もう! やめてよ、みんなの前で! 恥ずかしいわ!」
「まあ、ルナったら、可愛らしい下着を穿いているのね。さすがは愛娘だわ~」
「お母様まで何を言い出すのよ!?」
ソレイユ氏はニコニコしながらそんなことを言う。
傍で見ていた次兄・フレアも大声で笑っていた。
「ところでルナ、旅での出来事、聞かせてくれないか? 何か面白い事あったんだろ?」
「そうだね、僕もルナの話聞きたいな」
「いいわよ。まずはね……」
ルナが兄たちに旅の出来事を話した。
それから30分後、料理が運ばれてきた。
食卓にはスープやサラダ、それにステーキなどが並べられていた。
随分と豪勢な夕食である。
貴族の食卓はいつもこうなのだろうか。
そして、飲み物として瓶に入ったワインやジュースが並べられた。
一度は出て行ったセラフィー公爵が食堂に入って来た。
「みんな、おまたせ。それじゃあ、食べようか」
セラフィー公爵の合図と共に、料理をいただくことにした。
ルナとセレーネは、女の子らしくお行儀良く食事をしている。
特にルナの笑顔が可愛らしい。
旅の時も食事中はよくあんな顔をしていたが、本当に食べることが大好きなんだな。
一方、ヒューイは男らしく食事にがっついていた。
「おう、こいつはうめぇ!! 貴族のメシもなかなか行けるじゃねぇか!!」
「ヒューイ、マナー……!」
「そうかてぇこと言うなよ、ファイン!」
僕が注意するも、ヒューイは構わず食事を続ける。
「お前、面白いヤツだな! 名前は何ってったっけ?」
「ヒューイ・サウスリーだぜ! アンタは?」
「俺はセラフィー公爵家の次男、フレア・セラフィーだ。よろしくな!」
何か熱血漢同士が意気投合していた。
その後、みんなで楽しく食事を続けた。
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夕食後、ヒューイやセラフィー兄弟と一緒に風呂に入った。
公爵家のお風呂は広くて驚いた。
セラフィー公爵家にお邪魔したことは何度かあったが、さすがにお風呂に入ったのは初めてだ。
孤児院にも狭いながら、風呂があった。
余談だが、入浴するときはみんな一緒だった。
ジャンやネオなどは一緒に入浴していたのだが、フランだけは毎回一緒ではなかった。
まあ、後で知ったことなのだが、フランは女の子だったからな。
当然と言えば、当然か。
入浴後は、与えられた部屋で寛ぐことにした。
ちなみに、ヒューイとフレアはあの後意気投合し、お互い特訓をするようになった。
頼むから、責めて夜は静かにしてくれ……。
部屋で読書をしていると、誰かがノックしてきた。
「ファイン、今いい?」
「どうぞ」
そう言うと、ルナが入室してきた。
ちなみに、ルナはミニ丈のワンピースを着ていた。
「どうしたんだい?」
「その……これから帝国との戦いを迎えることになると思うけど、ファインは怖くはない?」
「怖くはない、と言ったら嘘になるかな」
「ファインでも怖い事はあるの!?」
「そりゃあ、人間だからね。ルナは怖いのか?」
「そりゃ怖いわ。できれば戦いたくはないのだけれど……」
ルナは俯きながらそう言う。
ルナは帝国との戦いを恐れているようだ。
いくら強くても、ルナは人間で、しかも女の子だ。
怖くないはずはないだろう。
ジャズナでは、帝国と一戦を交えた。
戦いの辛さをルナも感じたはずだ。
しかし、僕はルナに少々厳しい事を言ってやることにした。
「怖いのなら、ローランドに残るといい。僕は例え一人でも戦う」
「そんな……そんなのダメよ。だったら、私もファインと一緒に戦うわ。だって私はあなたの騎士になることを誓った女よ。ファインにだけ辛い想いはさせないわ!」
「ありがとう。ならこれからも一緒に戦ってくれ」
「うん、わかったわ! 私、頑張るわ!」
ルナはいつもの笑顔を取り戻した。
「じゃあね、ファイン。あんまり遅くまで夜更かししちゃダメよ?」
ルナはウインクしながら、そんな事を言った。
「わかっているよ。おやすみ、ルナ」
「おやすみなさい、ファイン」
ルナは笑顔で手を振ると、部屋を出て行った。