第91話 久しぶりの祖国
僕たちはホウオウに乗り、ローランド王国に帰還した。
帰ってくるのは数ヶ月ぶりだが、今日までに色々なことがあり、実に濃い時間を過ごした。
そのため、久々の祖国が懐かしく感じた。
ホウオウを壁の外に泊め、王都の中へ入った。
「ようやく着いたか」
「久しぶりの故郷よ! 懐かしい!」
「そうですね。私にとってローランドは半分故郷みたいなものです」
「ここがローランド王国か。実際に来るのは初めてだぜ!」
そんな会話をしながら、まず向かったのは城である。
旅での出来事を、国王ゼフィールに報告するためだ。
城門前では見覚えのある人物たちがいた。
その一人が、アポロ・セラフィーである。
そして、その息子にしてローランド王国騎士団であるサンとフレアもいた。
「あっ! お父様、お兄様!」
「ルナじゃないか!? それにみんなも! 帰って来ていたのか?」
「うん。たった今帰って来たところよ」
「おかえり、ルナ」
「おかえり!」
「ただいま、サンお兄様、フレアお兄様!」
ルナと兄弟が話していると、セラフィー公爵は僕に話しかけて来た。
「久しぶりだなファイン君。少し見ない間に随分逞しくなったようだな」
「お久しぶりです、セラフィー公爵。お元気そうで何よりです」
「はっはっはっ、頑丈さだけが取り柄だからな」
「僕たちは、このまま国王陛下に報告を行いたいと思います」
「そうか。では私たちも同行するとしよう。私も陛下に報告したいことがあるのでな」
僕たちは城に入ることにした。
そして、玉座の間にて。
玉座に座している、国王ゼフィールの前に跪いた。
「よくぞ戻って来た。面を上げてくれ」
顔を上げると、セラフィー公爵が報告を始めた。
「まずは私から報告をさせていただきます。北部の都市【ノスト】に、水のエキドナ率いる帝国軍が攻めてまいりました。我が軍は何とか帝国軍を撃退しましたが、こちらも被害は少なくはありません。しかし、この戦いで水のエキドナは負傷し、帝国へと撤退しています。報告は以上です」
「うむ、ご苦労であった」
セラフィー公爵の報告は終わった。
続いて、僕はこれまでの出来事を国王ゼフィールに報告することにした。
「私たちは各国を旅し、カグラ公国、フォースター王国、ジャズナ王国を味方につけることに成功しました。これで戦力が揃えば、帝国に対する反撃のきっかけとなるでしょう」
「うむ、大義であった。カグラ公国や、フォースター王国からも使者が来て、ローランドとも同盟を結びたいと申してきた。彼らが協力してくれるのは実に心強いことだ」
「ですが、悪い知らせもあります。死んだと思われていた、かつての私の友人だったディオーラン・ブラスターが帝国に寝返っていました」
「そうか……」
「どうやら彼は3年前の魔物群との戦いの最中、どさくさに紛れてアッカス・ヴァカダノーに攻撃されたようです。彼は一命を取り留めたようですが、その後は帝国軍に救助され、そのまま帝国軍所属の騎士となったようです。そして、今では六大帝将の一人【地のディーン】として活動しています」
「そうか。かつての友人が敵に回る……辛いことだな」
国王ゼフィールは感嘆としていた。
一方、僕は既に覚悟はできている。
例え、かつての友が帝国に寝返るというのなら、僕は躊躇わない。
それから、僕は最も重要なことを報告することにした。
「それから陛下、道中強力な魔物たちとも戦いました。中でも、フォースター王国で戦った【蛇大臣】が、魔王アガレスが復活したと言っておりました」
「うむ……」
僕の言葉に、場が静かになる。
「陛下、この件に関してはルナの手紙にも書いておりましたな」
「今はまだ力を蓄えている時のようで、幸いにもまだ時間はあると思われます。しかし、魔王が完全に力を取り戻したら、いずれ世界はまた混沌に呑まれます。300年前の人魔大戦のように」
「うむ、そうだな。既に我が国でも対策は考えているところだ。だが、帝国との戦いで我が軍は消耗しており、仮に魔王が復活しても、今は魔王軍に戦力は割けぬ。いずれにせよ、まずは目の前の現状である帝国軍を何とかせねばならぬ」
魔王の件に関しては、既にルナが手紙を送っていたらしい。
殊勝な心掛けだ。実に行動が早い。
しかし、今は帝国との戦いで戦力を消耗している。
そのため、いざ魔王軍との戦いになっても、現状の戦力ではどうにかできる問題ではないだろう。
「それから、ジャズナ王国で妙な男に出会いました」
「妙な男とは?」
「その男はフードを被っており、僕たちにキマイラをけしかけてきました。状況からして、そいつは帝国に協力していたように見えました。しかし、もしかしたらそいつは【魔王の下僕】かもしれません」
「なるほど、魔王はまだ力を取り戻しておらぬが故、下僕を用いて行動するか。報告ご苦労だった。皆の者、今日は休暇を与えてやろう。命令があるまではゆっくり休んで構わん」
「ハッ、ありがたき幸せ」
「特に星の英雄たちは、長旅で疲れているであろう?」
「ありがとうございます」
僕たちは、国王から休みの許可をもらった。
そして、その場は解散となった。
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解散後、僕たちは神殿に行くことにした。
とある目的のために。
「ヒューイ、そろそろクラスチェンジできるんじゃないか?」
「え? お、おう……」
それなりの長旅を経て、ヒューイも強くなった。
ということは、ヒューイもそろそろクラスチェンジができるはずだ。
神殿に着くと、神官が出迎えてくれた。
「ようこそ、いらっしゃいました。星の英雄たちの皆さん。今日はどういったご用件で?」
「ヒューイ・サウスリーのクラスチェンジの件でお伺いに参りました」
「なるほど。ヒューイさんはなかなかに強くなられているようです。早速ですがヒューイさん、こちらへお越しください」
「お、おう」
神官の誘導により、ヒューイは恐る恐る前へ出た。
「では、早速クラスチェンジの儀式を始めます。さあ、神に祈りなさい」
「これでいいのか……?」
ヒューイは跪き、両手を前で組んだ。
「どちらか一方のクラスを選びなさい」
10秒ほどが経過した頃、神官の問いに対してヒューイは答えた。
「オレ、【護り手】にするぜ。オレはこの旅で学んだんだ。攻撃することだけでなく、仲間を守ることも必要だとな」
なるほど。それがヒューイなりに考えて出した答えなのだろう。
ヒューイが答えると、彼の周囲は光に包まれた。
「おめでとうございます。これであなたは護り手となりました」
ヒューイは無事、戦士から護り手にクラスチェンジした。
タンクとは、仲間を守ることに特化したクラスで、その守備力は並の攻撃なら通さない程だと聞く。
しかも、ヒューイの体力や筋力を加味すると、より高い守備力が期待されるだろう。