第90話 その後
第2章ラストです。
次回からは、いよいよ第3章を予定しております。
「……そうか。アンシャントを吹雪と極寒に閉ざした犯人は、雪女こと、シャーロットという娘だったのか」
「はい」
首都コルディアに戻った僕たちは、今回の事を教皇に報告した。
すると、ローゼン伯爵夫妻が玉座の間に入ってきた。
「何でしょうか、教皇陛下」
「この者たちより、貴公の妻が5年前にシャーロットという少女を誘拐し、そして山麓の屋敷に閉じ込めた犯人だと聞いた」
「なんのことでしょうか? 私にはさっぱり……」
ローゼン伯爵夫人は、白々しくとぼけた。
「そ、そのようなことがあろうはずがございません!! 妻がそんな事をするはずはありません。何かの間違いでは?」
「貴公の妻がシャーロットを殺したせいで、アンシャントは吹雪に閉ざされていた。したがって、貴公の妻がアンシャントを吹雪に閉ざしたも同然だ。兵たちよ、ローゼン夫人を捕らえよ!」
「あなた達、離しなさい!」
ローゼン伯爵は妻を擁護するも、夫人は兵士たちに連行された。
その後に聞いた話では、ローゼン夫人がシャーロットを誘拐したと言うことを認めたそうだ。
その時の発言がこうだったそうだ。
『そうよ。私がシャーロットを誘拐して、あの屋敷に閉じ込めたのよ。あの“力”で私の愛しいシルヴィアに危害が加えられたら嫌だし、何より私は貧乏人は嫌いですもの!』
……と言った具合に、半ば開き直りだったらしい。
ローゼン伯爵もまさか、自分の妻が犯人だとは思っていなかったようで、真実を知った時は嘆いていた。
「……そうですか。ああ、なんということでしょうか。母がシャーロットを殺した犯人だったなんて……」
「……」
ローゼン伯爵邸にて。
真実を知ったシルヴィア嬢は、嘆き悲しんでいた。
当然のことだろう。まさか、自分の母親がこんなことをするとは夢にも思っていなかったはずだ。
悲しむシルヴィア嬢に、何て声をかけようか。
そう思っていた矢先。
「顔を上げて、シルヴィア」
そう言って、ルナはシルヴィア嬢の涙を拭った。
「大丈夫よ、シルヴィア。シャーロットはあなたが仲良くしてくれたことを感謝していたわ」
「シャーロットさんが?」
「ええ。それに、私たちもついているわ。だって私たち、友達でしょ?」
ルナは笑顔でシルヴィア嬢を慰めた。
「そうでしたわね。私には皆さんがいます。例え離れていても、あなた方のことは決して忘れません。シャーロットさんを救っていただき、ありがとうございました」
こうして、シルヴィア嬢は笑顔を取り戻した。
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教皇から光の神殿に行き、光の精霊【ウィル・オ・ウィスプ】との契約を勧められた。
さすがに聖教国を名乗るだけはあって、神殿には数人の神官やシスターがいた。
神殿に入ると、神父と思われる年配の男性が声をかけて来た。
「ようこそ、【星の英雄たち】の皆様。教皇陛下よりあなた方の話は伺っております。さあ、どうぞこちらへ」
神父に連れられて、神殿の奥に進んだ。
「光の精霊ウィル・オ・ウィスプ様よ、どうかおいでください」
神父が精霊の名を呼ぶと、眩い光と共にウィル・オ・ウィスプが現れた。
ウィル・オ・ウィスプは色白肌に白い長髪、そして白いローブを身に纏っている。
光の精霊だけあって、全身真っ白で神々しい。
ちなみに、ウィル・オ・ウィスプは男性である。
「何用か?」
「この方々に、あなたのお力を貸してあげて欲しいのです。どうかよろしくお願いします」
「汝らからは強き力を感じる。よかろう、汝らに私の力を貸してやろう」
ウィル・オ・ウィスプは無条件で、僕たちに力を貸すと言った。
「私の力を貸して欲しければ、いつでも呼ぶがいい」
ウィル・オ・ウィスプは姿を消した後、そう言った。
僕たちは、光の精霊【ウィル・オ・ウィスプ】と契約することができた。
その後はコルディアを去り、ホウオウのもとへ戻ることにした。
「一旦、ローランドに戻ろう。国王に色々と報告しなければならないことがあるからな」
「ふふっ、そうね」
「オレも一緒に行くぜ! 例え、地の果てだろうとな!」
「私もお供させてください」
「ありがとう。みんながいると心強い。どうかこれからも一緒に来てくれ」
僕たちは、ホウオウでローランド王国に帰還することにした。
これから先は、帝国との戦いを本格的に迎えることになると思う。
きっと、今まで以上に長く険しい戦いが待ち受けていることだろう。
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魔大陸にある魔王城にて、魔王アガレスが玉座に座していた。
「オロチにエビルフラワー、それに雪女までもが倒されたか」
「勇者たちの力は、想像以上に強力なようです」
「だが、まだ切り札となる『あやつ』が残っている。ヤツの力は、これまでの魔物たちよりも強大な力を誇る。例え勇者たちと言えども、そう簡単には倒せまい」
魔王アガレスと、その側近であるカミラ・ブラッディスは不穏な会話をしていた。
「300年前もそうだった。人間とは、実に愚かで欲深い生き物だ。自分が欲しいと思ったものは、例え他人を傷つけてでも奪おうとする。ゆえに“争い”はいつの時代でも起きる。実に解せぬ事だ。だが、我が完全に復活したら、そんな世界も終わらせてやる。今度こそ、我の手で人類を完全に滅ぼしてやろう!」
「魔王様、私はどこまでもあなたのお供をいたします」
「頼むぞ、カミラ」
魔王は人類を滅亡させることを誓った。
「だが、人類を滅ぼす前に、勇者たちは確実に始末せねばならぬ。あの者たちは、我が計画において確実に邪魔者となるであろう。そやつらもじきに我が始末してやろう」
「魔王様、私たちが世に台頭するのは些か早いかと存じ上げます。ここは様子を見た方がよいかと」
「うむ、そうだな。もうじき、人類同士の大きな戦争が勃発するであろう。我々が出るのは、人間どもが大きく消耗し、疲弊したところでだ」
魔族は、人間に比べ圧倒的な力と魔力を誇っている。
ゆえに、普通の武器や魔法では簡単には傷つけられない。
一方で、繫殖力では劣っている為、個体数は人間に比べて少ない。
そのため、物量作戦では魔族が劣勢になる。
これから、王国と帝国は再び本格的な戦争に突入するだろう。
だが、人類は気づいていなかった。
魔王の掌で、踊らされていると言うことに。