第8話 冒険者登録試験
僕はディオーランと共に本来の目的である冒険者登録を行うために、カウンターへと向かった。
「おいファイン、あそこにしようぜ。あの受付嬢、可愛いしデカくていいよな!」
ディオーランが指をさす方向に、黒髪ポニーテールの若く小柄な受付嬢がいた。
名札には【アイリーン・エイル】と書いてあった。
ディオーランは、アイリーンという受付嬢に現を抜かしていた。
「こんにちは! 初めての方々ですか?」
「はい。冒険者登録をしたいのですが……」
「冒険者登録の試験を受けに来られた方々ですね! まずはこちらの書類にご記入ください」
僕とディオーランは、アイリーンさんの用意した書類に氏名や住所などの個人情報を記入した。
「ファインさんと、ディオーランさん。アドヴァンスド学園在学中の学生さん方ですね。ご記入ありがとうございます。これから、冒険者登録の試験について説明を行います。試験の内容は、試験官と模擬戦をやっていただきます」
試験の内容は、学園の入学試験に近いものなのか。
説明が終わった直後、奥から先程の壮年男性が現れた。
「私がギルドマスターのジョージだ。今回は君たちの試験監督も務めさせてもらう。よろしく」
「よろしくお願いします」
「早速だが二人とも、ついて来たまえ」
何と、その男性はギルドマスターだった。
僕とディオーランは、ギルドマスターに試験室らしき場所へ連れて行かれた。
「これから二人には、この木剣を使って私と『模擬戦』を行ってもらう。勝てとまでは言わんが、剣の扱い方や戦い方によって合否を決めさせてもらう。何か質問はあるかね?」
すると、ディオーランが質問した。
「この試験には、どう言った意図があるのですか?」
「ちゃんと戦えるかどうかを見極める為の試験だ。冒険者になってダンジョン等に行ったら、常に死と隣り合わせと言っても過言ではない。事実、毎年多くの冒険者が命を落としている。だから、こういった試験を行うのさ」
ディオーランの質問に、ギルドマスターは的確に答えてくれた。
「早速だが、まずはディオーラン君からだ!」
ディオーランは名前を呼ばれると、木剣を持ってギルドマスターの前に立った。
「準備ができたら、いつでも来たまえ」
「はい。では行きます!」
ディオーランはギルドマスターに立ち向かった。
右から、左から、あらゆる方向から攻撃を入れるも、その全てが見切られてしまった。
「そこまで。戦い方はまだまだだが、剣筋はなかなかだな。」
「くっ……。何か気を付けるべき点はありますか?」
「あまり力を入れ過ぎないように気を付けたまえ。それと相手の動きを観察しながら戦うといい」
「ありがとうございました」
ディオーランは一礼して下がった。
次は僕の番だ。僕は木剣を持って前に出た。
「いつでも、いいぞ」
「では行きます」
僕は剣を構えて、ギルドマスターに肉薄した。
「は、速い!」
僕はそのまま、左下から斬撃を繰り出した。
しかし、ギルドマスターに剣戟を受け止められた。
やはり、一筋縄では行かないか。
ならば、【身体強化】!
「何だ、このパワーは!?」
僕はギルドマスターの剣を徐々に押し始めた。そして……。
カァーン!
僕はとうとうギルドマスターの剣を弾き飛ばした。
「し、信じられん。まだ10代半ばの若者が私の剣を弾き飛ばすなど……」
ギルドマスターは驚いていた。
そりゃそうだ。15歳の少年が、筋肉質の成人男性が持つ剣を弾き飛ばしたのだから。
「ゴホン。では気を取り直して、結果発表をする。冒険者登録試験の結果だが……、おめでとう。二人とも『合格』だ! 特にファイン君、君は文句なしに合格だ!!」
「ありがとうございます」
「やった! やったぞ、ファイン! これで俺たちも晴れて冒険者デビューだ!」
僕とディオーランは見事、合格した。ディオーランは大喜びしていた。
「それにしても、今年に入り私に打ち勝つ者が二人も現れるとはな。数日前に冒険者試験を受けた女の子が、ファイン君と同様に私の剣を弾き飛ばしたのだ。ギルドマスターをやって20年弱だが、冒険者試験で私を打ち負かした者は過去5人とおらん」
ん? ちょっと待てよ。ギルドマスターを打ち負かした女の子って、まさか……。
僕は少し胸騒ぎがした。
ギルドマスターは話を続けた。
「二人とも、これから冒険者カードを渡す。しばらく表で待っていてくれ」
それから10分後くらいに、冒険者カードを渡された。
「これが冒険者カードだ。ギルドでの依頼を受ける際に必要になる。ちなみに、これは身分証明書も兼ねているから、くれぐれも無くすなよ」
冒険者は、最初はFランクからのスタートで、E→D→C→B→Aの順にランクが上がっていく。
最も高いランクはSだが、そこまで辿り着ける冒険者は滅多にいないらしい。
ディオーランは順序通り、Fランクからのスタートである。
しかし、僕はというと……。
「あれ? 僕はEランクからのスタートですか?」
「うむ。本来ならば、ファイン君は実力的にDランクからのスタートでも良いのだが、最初からランクを高くし過ぎると色々と問題があるのでな。そういうことも考慮してのEランクだ」
「おめでとう、ファイン。少し悔しいが、お前の実力なら当然のことだ。これからお互い頑張ろうぜ!」
「あ、ああ」
「しかし、君たちはまだあくまでも新米冒険者だ。くれぐれも無茶だけはするなよ!」
「「はい!」」
僕とディオーランは無事、冒険者デビューを果たすことができた。
しかし、時間は既に夕方だったので、今日は寮に帰ることにした。