第85話 国境攻防戦
アポロ・セラフィー率いる王国騎士団は、帝国の国境付近の砦を侵攻しようとしていた。
騎馬隊に加え、弓兵や魔道士を含めた総勢5万の軍勢を動員した。
ここを帝国への本格的な侵攻の足掛かりにしようと言うのだ。
アポロは、ローランド王国騎士の最高位である【白金騎士】の数少ない一人だ。
約18年前の王帝戦争において、数多くの功績を残した凄腕の騎士だ。
それ以来、若くして白金騎士に任命されており、同時に王国騎士団長をも任されている。
「セラフィー将軍! 全隊、準備完了しました! いつでも出撃できます!」
「行くぞ。これ以上、帝国の好きにはさせない! 今こそローランド王国騎士団の底力を見せてやるのだ!!」
「「「ハッ!!」」」
アポロの指示により、王国騎士団は突撃を開始した。
対する帝国軍は、防衛のために【水のエキドナ】率いる軍勢を派遣していた。
兵の数は約5万。数だけで言えば、王国軍とは互角だ。
水のエキドナは、王帝戦争で活躍した賢者で、六大帝将では数少ない古株だ。
また、六大帝将の中で唯一の女性将軍で、紫色の瞳と髪が特徴的だ。
性格は残忍かつ狡猾で、他の将と比べて知略に長けた人物だ。
水のエキドナの隣にいるのは、エリスと言う軍師である。
年齢は21歳で、青髪セミロングと青目が特徴的な若き女性軍師である。
エリスは、数か月前にローランド北部を攻略した際に、優れた指揮能力を発揮した。
その実力が認められ、エキドナに自らの軍師として任命されている。
王国騎士団は、帝国軍前衛の兵士たちを次々と倒していった。
現時点では帝国軍に対して、王国軍が優勢である。
しかし、帝国も黙って負けるほど愚かではない。
「第一部隊、突破されました!!」
「魔鎧騎兵部隊、前へ!」
エキドナは通常の兵士に加え、帝国軍精鋭の【魔鎧騎兵】部隊を用意していた。
トルーパーは分厚い鎧を身に纏っている。手には槍と、【イージスの盾】と呼ばれる防御魔法が施された盾を装備している。
その防御力は、物理攻撃はもちろん、並みの魔法程度では傷一つ付けられないだろう。
唯一の欠点を挙げるとすれば、大柄で非常に重いため、機動性や運動性に著しく欠けることだろう。
「トルーパー部隊、前進!!」
エリスの指示により、トルーパー部隊は槍を構えてゆっくりと前進し始めた。
「帝国軍のトルーパー部隊か!?」
王国軍は、後方から矢や魔法で攻撃する。
しかし、トルーパーの高い防御力を前に、並みの武器や魔法程度の攻撃は通じなかった。
「ダメです、セラフィー将軍! 矢や魔法が通じません!!」
「ならば私が行く! 後に続け!!」
「「「ハッ!!」」」
そう言うと、アポロは馬を走らせて前に出た。
複数の騎士たちも、アポロの後に続く。
そして、アポロは馬を止めると剣を空高く掲げた。
「遠き天空よ、我が叫びを雷として結集し、邪なる者を打ち砕け!」
アポロが詠唱すると、空一面を暗雲が覆った。
そして、雲の中を稲妻が走る。
「稲妻斬撃!!」
アポロが剣を振り降ろすと、無数の稲妻がトルーパー部隊を襲った。
今の攻撃により、トルーパー部隊は半分以上が壊滅した。
それもそのはず。
トルーパーの鎧や盾は量産することが前提のため、敢えて防御魔法は弱めにかけられているのだ。
したがって、中級魔法程度は防御できても、さすがに上級以上の魔法は防ぎきれないのだ。
いくら帝国と言えども、量産品の一つ一つに莫大な金はかけられない。
大量生産するうえで、コスト削減は免れられない課題なのだ。
「くっ! さすがは、ローランドの白金騎士というだけはあるね……! だが、こちらも負けるわけには行かないんだよ! 例の“切り札”を出しな!」
「はっ! 魔導弓部隊、前へ!」
エキドナの指示で、エリスは待機させていた兵士たちを前へ出した。
兵士たちは、魔導弓を装備していた。
「ローランドの騎士様に、弾幕を浴びせてやりな!」
「はっ! 魔導弓部隊、構え! 撃ち方、始め!!」
エリスの号令により、魔導弓部隊は一斉掃射を開始する。
この魔導弓は最新式の物で、“光の弾”を連続して発射することができる。
また、少ない魔力でも強力な弾丸を撃つことが出来る優れものだ。
王国軍の騎士たちは弾幕をかわしきれず、多数が撃たれてしまう。
アポロは辛うじてかわすものの、敵陣への接近はままならなかった。
「くっ! 全軍撤退!! 全軍撤退せよ!!」
魔導弓の攻撃により、王国軍は数多くの兵力を失う。
今回の戦いで、王国軍は総戦力の三分の一を失ってしまった。
対する帝国軍の喪失した戦力は、最大の五分の一程度であった。
これに伴い、王国軍は撤退を余儀なくされる。
アポロは、侵攻作戦が失敗したことだけでなく、数多くの部下たちを失ったことを悔やむ。
しかし、これ以上無理に突っ込んでも、無駄に兵力を消耗するだけだとわかっていた。
それゆえに、やむなく撤退することを選んだのだ。
「切り札は、最後まで隠し持っておくものだねぇ」
王国軍は、帝国軍の国境防衛を成功させてしまうのであった。