第82話 合成生物
突然転移門が現れ、中からフードを被った男が現れた。
そして、ディオーランを転移門の向こうへと消し飛ばした。
丁度その頃、帝国兵たちを倒したルナたちが合流した。
「何者だ?」
僕はフードの男に問う。
すると、男はこう答えた。
「名乗る義務などありません。ですが、今回はあなた達に見せたいものがあります。一緒に来ていただきましょう」
フードの男は転移門を開き、問答無用で僕たちを吸い込んだ。
連れて来られた場所は、玉座の間だった。
「ここは……玉座の間?」
「そうです。戦いの場としては相応しいでしょう? ですが、あなた達の相手は私ではありません」
そう言うとフードの男は再び転移門を開き、あるものを召喚した。
「こいつは……【合成生物】か!?」
「その通りです。なかなかカッコイイでしょう?」
キマイラは、ライオンの頭にヤギの頭と胴体、そして尾は蛇の頭になっている。
また、背中には悪魔の翼を生やしている。つまり、飛行可能ということだ。
まさに『合成生物』の名に相応しい姿をしている。
「あなた達の相手はこの子が務めます。せいぜい、遊んであげてください。では、私は用事があるので、これにて失礼いたします。それでは皆さん、さようなら」
「待てッ!」
フードの男はキマイラを召喚すると、転移門の向こうへと消えていった。
「ガオオオオオッ!!」
キマイラは、けたたましく咆哮する。
本来、キマイラはこの世に存在しないはずの伝説の魔物だ。
それを召喚できると言うことは、あの男はひょっとすると『魔王の下僕』か?
蛇大臣も、魔王アガレスが復活したと言っていた。その可能性は非常に高いだろう。
しかし、今はそんな事を考えている暇はない。
とにかく、今はキマイラを倒すのが先決だ。
「行くぞ、みんな! アイツを倒して、ジャズナ王国を救うんだ!」
「ええ!」
「おうっ!」
「はい!」
僕が指示を出すと、仲間たちは臨戦態勢に入った。
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「まずはオレが行くぜ!」
ヒューイはそう言うと、斧を構えて走っていった。
すると、キマイラはライオンの頭で噛みついて反撃する。
「おっと!」
しかし、ヒューイもそれを予想していたのか、回避した。
次に僕が稲妻矢を放つ。
稲妻はキマイラに命中したが、ダメージは浅い。
「氷結剣!」
今度はルナが剣技を放った。
氷の刃が勢いよくキマイラに迫る。
「ガオオオオ!」
しかし、キマイラは咆哮すると、飛んで回避した。
そして、キマイラはそのまま落下して伸し掛かった。
全員、散り散りになって回避した。
キマイラは今度、セレーネに目をつけた。
そして、ライオン頭からセレーネに向かってファイアブレスを吐いた。
セレーネは結界を張って防御した。
「どこ見てやがんだ!! おらぁッ!!」
ヒューイは背後から、キマイラに攻撃しようとした。
しかし、尻尾の蛇頭がヒューイの腕に噛みついた。
「ぐうッ……!」
ヒューイの様子がおかしい。顔色が悪く、青ざめている。
「セレーネ、ヒューイが毒に侵されたようだ。このままだとヒューイが死んでしまう。すぐに治療を!」
「はい!」
セレーネはすぐに、ヒューイの毒を解消した。
すると、ヒューイの顔色が良くなった。
「ふう、気分が良くなったぜ。サンキュー」
キマイラは再び飛行して、また落下してきた。
全員、散開してかわした。
落下後、キマイラのヤギ頭がアイスブレスを吐いた。
霧状の冷気が襲ってくる。
セレーネはすぐに結界を張って防御してくれた。
しかし、キマイラ周囲の床が凍ってしまった。
これでは滑って近づくことができない。
「ここは私に任せて! 風斬刃!」
ルナは風斬刃をキマイラに向けて飛ばした。
風斬刃は、キマイラの左翼を切断した。
なるほど、厄介な飛行能力を奪い、空中へ逃げられないようにしたのか。
僕はすかさず、火炎弾を連射した。
キマイラにダメージを与えつつ、凍らされた床をも溶かす。
その後、ヒューイがキマイラに向かって走っていった。
「おりゃあッ!!」
そして、キマイラのヤギ頭を斧で切断した。
いやこの場合、斬首したと言ったほうが良いか。
「ギャアアアアアアアアッ!!」
切断されたのはヤギの首なのに、苦悶の声を上げたのはライオン頭のほうだった。
どうやら、痛覚は共有しているらしい。
よく考えたら、あれで一体の魔物なのだから、当然と言えば当然か。
そして、切断された首からは血が出てきた。
こうして見ると召喚されたとはいえ、あくまでも生物だというのが改めて分かる。
「今だ!! 一気に畳み掛けて……!」
僕がそう言いかけた時だった。
何やら、キマイラの様子がおかしい。
「グオオオオ……ッ!」
「何かまずい! ヒューイ、すぐに離れろ!!」
「えっ!?」
嫌な予感がした僕は叫んだ。
キマイラの周囲に、複数の魔法陣が展開された。
すると、巨大な火の玉や、氷の槍、そして雷雲が魔法陣から召喚された。
「そんな!? あれって上級魔法!? しかも複数同時に発動するなんて!!」
ルナが叫ぶ。
上級魔法は一斉に僕たちに向かって飛んできた。
セレーネはすぐに結界を展開し、間一髪で防御は間に合った。
至近距離にいたヒューイは飲み込まれてしまった……かに見えた。
しかし、僕が瞬間移動で引き寄せたため、こちらも間一髪だった。
「大丈夫か?」
「あ、ああ。危なかったぜ……」
火炎爆弾の爆発で起きた煙が、徐々に晴れてきた。
もともと、ジェノスの攻撃で玉座の間は壊れていたが、今の攻撃で壁は完全に崩壊してしまった。
辛うじて、柱は崩れずに残っていた。
これ以上今のような攻撃が続くと、城がもたない。
そして、キマイラの失われた翼とヤギの首が、みるみるうちに再生していった。
「そんなっ!? ウソでしょ!? 再生能力まであるの!?」
「そんな……」
「おいおい、マジかよ!?」
その光景に驚愕する仲間たち。
「ガオオオオオッ!!」
失われた身体が復活したキマイラだが、憎々しげに咆哮する。
僕たちは今、絶望的な気分を味わっていた。