第81話 ファイン VS ディオーラン
天のジェノスを倒した後、僕はディオーランを追って玉座の間を出た。
下に降りると、通路でディオーランに追いついた。
「ディオーラン!」
「来たか、ファイン」
ジャズナ親子も、ディオーランに連れて来られたようだ。
ところが、二人の兵士がジャズナ親子を押さえていた。
僕がディオーランに追いついた直後に、仲間たちもタイミングよく合流した。
「ファイン、大丈夫!?」
「ああ、何とか」
「お前がディオーランか! ジャズナの人々を苦しめている元凶はお前だな!? このヒューイ・サウスリーがお前をぶっ飛ばしてやるぜ!!」
「よせ、ヒューイ!!」
そう言うと、ヒューイはディオーランに走って向かった。
「俺はファインと戦いたいんだがな。まあいい。ファインの前に、まずは貴様からだ。力押しだけでは勝てんと言うことを、教えてやろう」
「なにブツブツ喋ってやがるんだ! お前の相手は、このオレ様が最後だぜッ!! おりゃあッ!!」
ヒューイは、ディオーランに挑んだ。
一方、ディオーランも剣を抜いて応戦する。
ヒューイは勢いよく斧を振り下ろす。
しかし、ディオーランは躱すと、ヒューイを連続で切り刻んだ。
言葉通り、ディオーランは力ではなく技量でヒューイを打ち負かした。
そして、ヒューイは重傷を負ってしまった。
「ぐおおおおおおおっ!?」
「言ったはずだぞ、筋肉野郎。力押しだけでは勝てんと」
「ヒューイ!! 大丈夫か!? セレーネ、早く治療を!」
「はい!」
ヒューイの傷はすぐに塞がった。
さすがの頑丈さだ。あれだけの攻撃を受けながら、致命傷でないとは。
何より、セレーネの回復魔法はさらに上達したようだ。
ディオーランは、僕のほうを向いた。
「動くなよ? ファイン。動いたらこの二人の命はない」
「望みは何だ?」
「俺は剣でお前との一騎討ちを申し込みたい」
「断ったらどうする?」
「この二人は殺す。おっと、魔法は使うなよ? 女王様方の首が吹き飛ぶぞ?」
「人質を取らないと、勝てないようだな。君は」
「状況が飲めていないようだな?」
そう言ってディオーランは手をあげた。
すると、彼の部下たちが剣を抜き、二人の首にそっと剣を近づける。
ヴィオラ様は怯えた表情を浮かべていた。
そんなヴィオラ様を、メアリー陛下は守ろうとしている。
ディオーランは不敵な笑みを浮かべていた。
「……いいだろう、受けて立つ。だが、ディオーラン。ヴィオラ様たちを人質に取ったことを、必ず後悔させてやる」
「面白い、やって見せろ! ……お前らはファインの仲間を足止めしろ!!」
ディオーランがそう言うと、帝国兵たちが大勢出て来た。
仲間たちは帝国兵たちと戦闘になった。
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僕は静かに剣を抜いた。
これから、かつての友人だったディオーランと一騎討ちを行う。
「行くぞ、ファイン!」
そう言って、ディオーランは先制攻撃を仕掛ける。
僕は避けもせず、ディオーランの剣戟を受け止めた。
男同士の戦いだ。敢えてディオーランと正面から剣でぶつかる。
二人の激しい剣戟により、火花が飛び散る。
お互い、攻撃と防御を交互に繰り返している。
この時点では互角だ。
いや、ディオーランの方が少し押しているか?
「どうした? ファイン。お前の力はその程度か?」
ディオーランは得意げに僕を挑発する。
ここは一旦、距離を取って様子を見る。
言っておくが、別にディオーランを恐れたからではない。
ディオーランは、まだ何か技を隠し持っているかもしれないからだ。
「ファイン、それで安全圏に逃れたつもりか? 甘いんだよ!!」
そう言うと、ディオーランは剣を横に薙いだ。
予想通り“何か”をしてきた。
風の刃が僕に向かって飛んで来る。
そう、風斬刃である。
僕は前転して避けた。
すると、ディオーランは再度接近して剣で攻撃した。
僕は剣で攻撃を受け止める。
そして、剣を弾きディオーランに反撃する。
しかし、ディオーランに避けられてしまい、距離を取られた。
「氷結剣!」
ディオーランはそう言うと、剣を上から振り下ろした。
僕は、襲い掛かる氷の刃を右に避けた。
その後、ディオーランは再び接近し、剣で直接攻撃する。
「ファイン、俺はこの3年間、お前に負けないために努力してきたんだ。それこそ、文字通り血の滲むような努力をな! これがその集大成だ!」
なるほど、ディオーランの剣の実力は僕よりも上かもしれない。
ここ3年間で相当努力したらしい。
だが、僕とて負けてはいない。
「驚いたよ、ディオーラン。まさか、君が【剣技】を覚えているとは。しかし……!」
僕は剣を横に薙いだ。
「なにっ!?」
ディオーランは咄嗟に、自分から見て右に避けた。
しかし、ディオーランは左肩にかすり傷を負った。
「ま、まさか……その技は!?」
「そうだ、【風斬刃】だ。僕だって練習してきたんだ、王国式剣技を!」
そう、僕は日々特訓していたのだ。
剣の素振りをしていたのは、このためだったのだ。
僕は魔法こそ得意だが、ルナと比べて剣の腕はまだまだ未熟だと感じていた。
そこで、剣で今まで以上に戦えるように、王国式剣技を習得できるように努力していたのだ。
そして、ようやく最近になって剣技を覚えることができた。
今回はディオーランとの一騎打ちなので、丁度いいタイミングだと思い、今回初めて剣技を披露したのだ。
僕は再度近づき、剣で直接攻撃する。
そして、互いの剣がまたぶつかり合った。
「ファインよぉ、忘れてないか? 剣技には、“これ”があるってことを!!」
「ああ、忘れていないさ」
そう言うと、ディオーランの剣が赤く発光し出した。
しかし、同時に僕の剣も赤く発光した。
「「【赤熱剣】!!」」
お互いの剣を赤熱剣にしてぶつかり合う。
しかし、僕はディオーランにやや押され気味だ。
「やはり、剣の腕は俺の方が上のようだな」
確かに、剣の腕はディオーランが少し上なようだ。
剣と魔法の両方を習得した僕に対し、ディオーランは剣を極めてきたようだ。
3年間、相当な努力を積み重ねてきたようだ。
しかし、僕の強みは剣だけではない。
僕は火球をディオーランに向けて放った。
当然避けるディオーラン。
「ファイン、魔法は使うなって言ったよな? ジャズナ親子を殺せ!! ……何をしている!? 兵たちよ!!」
ディオーランが声を荒げても、兵士たちは無反応だった。
「振り返ってみたらどうだ? ディオーラン」
「なにっ?」
ディオーランが振り替えると、敵兵たちは眠っていた。
「バカなッ!? なぜ寝ている!? 魔法対策は完璧だったはず!!」
「ああ。確かに高度な魔道具だったよ、ディオーラン。だが、僕が魔力構造を解析して、魔道具の力を解除しステータス異常の無効を無効化しておいた」
「は?」
「分からないか? つまり、ステータス異常は有効になったってことだよ」
「くそっ、この化け物めッ!!」
「それはどうも」
「褒めてねえよ!!」
「そうか。それよりも、自分の身の心配をしたらどうだ?」
「なに?」
ディオーランが足元を見ると、蔦が生えていた。
「しまった、生命創成かッ!! ジャンプして逃れ……」
「もう遅いぞ」
僕は蔦を一気に伸ばし、ディオーランを拘束した。
ディオーランは全身を拘束され、そのまま床に倒れた。
ディオーランはなんとか力を振り絞り、上半身だけ起き上がる。
「ぐあッ!!」
「僕を侮ったのが君の敗因だ」
僕はそう言うと、ディオーランに剣を向ける。
「お、おい……俺をどうするつもりだ? まさか、仮にも友達である俺を殺すのか?」
「そうだ」
「!?」
僕の言葉に、半笑いだったディオーランは目を見開く。
「言ったはずだぞ? ディオーラン。後悔させてやると。まさか、そんな覚悟もなしに僕に挑んだというのか? ディオーラン、今から僕はお前を殺す。生憎、僕はお人好しではないし、何よりこう見えてもかなり怒っているんだ。さようなら、ディオーラン。あの世で反省でもしてるんだな」
そう言うと、僕はディオーランの首めがけて剣を振り下ろそうとした。
しかし、剣戟は突如何者かに止められる。
犯人は……なんとルナだった。
ルナはいつの間にか、剣で僕の剣戟を止めていたのだった。
「なっ!?」
「ダメよ、ファイン!」
「馬鹿な!? なぜ邪魔をする!?」
「あなたは友達を殺すの!?」
「敵なんだよ、今のディオーランは! なら殺すしかないだろう!!」
「……それでもよ」
僕はゆっくりと剣を下ろした。
すると、突然転移門が開き何者かが現れた。
その人物は、フードを被っており、顔は分からない。
「おやおや、ディーン将軍。あなたともあろう者が敗れてしまうとは」
フードの男は、ディオーランの足元に転移門を発現させた。
「な、何をする!?」
「帝国軍は負けです。私がそのことを皇帝陛下に報告したら、あなたを帝都に帰還させろとのご命令です」
「は、離せッ! まだ俺は、負けていないッ!!」
ディオーランは転移門の向こうへと消えていった。
僕たちは武器を構えた。
「何者だ!?」
「クックックックッ……」
フードの男は不敵な笑みを浮かべていた。