第7話 王都ギルド
今回からしばらくは学園外での話になります。
僕は放課後、王都の冒険者ギルドに訪れていた。これから、生活費を稼ぐために冒険者登録をするつもりだ。
周りの同級生……特にアッカスのような貴族は親の金で生活ができるだろうが、僕のような一人暮らしは自分でお金を稼がなければいけない。
冒険者ギルドは王都にあるだけのことはあり、建物は結構大きい。
僕はギルドに入ろうとしたら、よそ見していて誰かにぶつかってしまった。
「どうもすみません」
しかし、相手は意外な人物だった。
「ファイン……!?」
なんと、相手はディオーランだった。ディオーランは僕を見て目を丸くしていた。
「お前、こんなところで何をしている?」
「生活費を稼ぐために、冒険者登録をしようと思ってここへ来た」
「奇遇だな。オレも今から冒険者登録の試験を受けようと思っているんだ。せっかくだから、一緒に受けるか?」
「そうだな」
僕とディオーランは、冒険者ギルドに入り受付を目指した。
すると、女性が男に絡まれているのが見えた。
「姉ちゃん、オレと一緒に遊ぼうぜ!」
「嫌です。離してください!」
「つれないこと言うなよ、悪いようにはしねえからさぁ!」
身なりを見るに男は冒険者のようで、大柄でガラが悪く如何にもといった感じの男だった。
ディオーランが僕に話しかけてきた。
「ああいうのもいるもんなんだな……。関わらない方が……おい、ファイン?」
僕はディオーランの忠告を無視して、男に近づいた。
「何だ? 小僧。大人の話にガキが首突っ込むんじゃねえ。とっととどっかに行きやがれ!」
「その女性が嫌がっています。すみませんが、お引き取り願えますか」
「このガキがァ!! どうやら、痛い目見ねぇとわからねぇみてぇだな。ぶっ殺してやらぁ!!」
そういうと、大男はいきなり右拳を構えた。
そういえば、前にも似たようなシチュエーションがあった。
どうして悪い大人たちというのは、素直に人の言うことを聞かないのだ?
まあいい。僕は大男の拳を敢えて受けることにした。
男の拳が僕の顔に命中した瞬間、ゴンという鈍い音がした。
「ぎゃあああああああああ!!! いっでええええ!!!」
叫んだのは、大男のほうだった。
実は、僕は顔の周囲に【結界】を張っていた。そこに大男の拳は命中した。したがって、大男の拳は僕に命中しておらず、ダメージを受けていないという訳だ。
ちなみに、相手を殴った場合、少なからず相手にダメージを与えることはできる。一方で、殴った分のダメージが自分の拳にも返ってくるのだ。
大男は今、鉄より固い結界をフルパワーで殴った。したがって、その右手の骨はズタボロに折れたであろう。
大男は苦悶に満ちた表情をしていた。
「小僧……テメェ、何をしやがったッ……!?」
「答える義理はありません」
「なんだと……!?」
すると、受付の奥から壮年男性が現れた。
その男性は、筋骨隆々で歴戦の猛者といった風格だった。
「何の騒ぎだ?」
男性の質問に大男はこう答えた。
「このガキが……、オレの手の骨をズタズタに折ったんです!!」
「ウソです! この人がその少年の顔を殴ったんですよ!!」
大男の言葉に対し、女性が僕を擁護する。
すると、壮年男性は女性に話した。
「どんなカラクリを使ったかはわからないが、見たところその少年は怪我ひとつ負っていないようだ。とは言えあなたの言うことに嘘はないようだ。何せこいつは度々問題を起こし、その素行の悪さはギルド内でも問題視されている。誰か手の空いている冒険者はいるか?こいつを拘束してくれ」
「そ、そんな! オレは悪くねぇ!!」
大男は屈強な冒険者たちにその場で拘束された。
後で聞いた話だが、大男は冒険者の資格を剥奪されたらしい。完全に自業自得である。
「君たち、すまなかった。特に君は顔を殴られたそうだが、怪我はないか?」
「大丈夫です」
「それは何よりだ。ところで、君たちは冒険者登録に来たのかね?」
「はい。冒険者登録をしに来ました」
「そうか。本来なら私が相手すべきだが、 “あいつ”が今回問題を起こしたせいで、その始末をこれから私が行わなければならない。すまないが、とりあえずカウンターの受付に話かけてくれ」
男性は僕たちに謝罪してカウンターの奥へと消えていった。
どうやら、かなり偉い立場の人らしい。
そして、今度は女性に感謝された。
その人は腰までかかるほどの金髪ロングに、エメラルドグリーンの瞳で、肌は色白であった。顔立ちは少女のような若々しさがあったが、その一方で大人びた雰囲気も感じ取れた。
そして、よく見ると耳が長い。ということは、この人はエルフか。
エルフの女性は冒険者なのか、弓を背負っていた。
人間とエルフは特別仲が悪い訳でもないのだが、かと言って深い交流があるわけでもない。そのため、エルフは普段森の中で暮らしているという。
しかし、このエルフは珍しく人間界で冒険者をやっているようだった。
「助けてくれてありがとうございます。お怪我はありませんか? 私は治療魔法が使えます」
「お気になさらずに。僕が勝手にやったことですし」
面倒くさいので、僕は踵を返してこの場を去ろうとする。
「あっ、待ってください! せめてお名前だけでも……」
「名乗るほどの者でもありません」
僕は足早にこの場から立ち去った。