第78話 一斉蜂起
今回は仲間3人それぞれの視点で書いてみます。
初の試みです。
また、ルナ視点での話が初めて入ります。
【ルナ視点】
私は南西の拠点を奇襲するために、敵に見つからないように密かに移動していた。
私はファインとは違い、隠密が使えないのでとにかく見つからないようにしなければいけない。
ファインの火炎爆弾の合図の後、すぐにでも襲撃できるようにするつもりだ。
ところが、突然ファインから通信魔法で連絡が入った。
『ディオーランに捕まってしまい、火炎爆弾を打ち上げられなくなったが、当初の予定通り敵の拠点を奇襲しろ』
それが、ファインからの通信内容だった。
そして、彼の通信には続きがあった。
『それから、南西の拠点を奇襲したら、ルナは火炎爆弾を打ち上げて一斉蜂起を促してくれ』
私はファインが少し心配になったが、きっと彼なら大丈夫だろう。
なぜなら、私はファインを信じているからだ。
どんな不利な状況をも覆してきたファインなら、きっと今回もなんとかするだろう。
私は南西の拠点の近傍に到着した。
建物の周囲には、見張りの兵士が数名いるだけである。
私は敵の注意を引くために、拠点めがけて火炎爆弾を放った。
「火炎爆弾!」
大きな火の玉は拠点に直撃し、大きな爆発が発生した。
爆発により建物が外装の一部が崩壊し、煙が上がった。
「「「ぐあああああっ!!」」」
建物の周囲と内部にいた帝国兵たちは、爆発の勢いで吹き飛んだ。
威力は抑えていたつもりだったが、我ながら凄まじい威力である。
倒れていた一人の兵士が起き上がった。
「敵襲だッ! 敵襲ー!!」
兵士がそう叫んだ直後、拠点の中から兵士たちが次々と出てきた。
やはり、夜は拠点で休んでいる帝国兵が多いようだ。
帝国兵たちは私を見るや否や、臨戦態勢に入った。
私は右手に剣を構えた。
「氷結剣!」
私は先制攻撃として、帝国兵に向かってアイスブランドを放った。
今の攻撃を受けた帝国兵たちは、叫び声をあげながら倒れた。
「安心して。手加減はしているから」
攻撃は派手だが、威力は抑えているので死んではいないはずだ。
帝国の兵士と言えども、同じ人間なのでそう簡単に殺すことはできない。
敵にだって、家族はいるんだもの。
それから、更に帝国兵が出て来た。
私は単騎で敵陣に突っ込む。
私であれば、一人で大勢の帝国兵を相手にしても負けないし、もし怪我をしても魔法で回復することだってできる。
一方、敵も黙ってはいない。
剣や槍を持っている兵士は、私に近づいて攻撃してくる。
しかし、私は向かってくる帝国兵を難なく返り討ちにする。
後方からは弓兵が援護射撃をするが、私は剣で矢を切り落とした。
「風斬刃!」
私は剣を横に薙ぎ、風斬刃を放った。
弓矢を破壊し、弓兵を無力化した。
「くそっ! 何を手こずっている!? 敵は女一人だぞ!!」
帝国のリーダーらしき人物が部下たちに指示を出す。
しかし、結果は変わらず何の意味もなかった。
私は素早く敵の懐に潜り、剣で攻撃を行う。
敵は何もできないまま、次々と私に斬り倒されていく。
南東の拠点から来たであろう、兵士たちも加わった。
しかし、結果は同じ。私は難なく兵士たちを撃退していった。
とは言え、敵の数がなかなか減らない。
それだけ、マシャクを攻めて来た帝国兵が多いと言うことだろう。
「敵の数が多いわね。折角だから、アレ使ってみようかしら」
私は水の精霊ウンディーネを召喚することにした。
「出でよ、ウンディーネ!」
学生時代、ファインは自分の加護属性と同じ属性の威力が15%高いと言っていた。
私の属性は“水”なので、水の精霊ウンディーネと親和性が高いと判断した。
「飲み込め! 【ビッグウェーブ】!」
どこからともなく現れた大波が、次々と帝国兵を飲み込んでいく。
不思議なことに、街の建造物などは一切傷つけずに、帝国兵だけを攻撃していく。
これも精霊の力なのか。精霊ってすごいな。
そして、なんとなくだが、魔法の威力が高くコントロールもしやすいと感じた。
帝国兵には、もはや成す術もなかった。
「だ、だめだ……歯が立たない!! 退却ー!!」
帝国兵たちは、そう言って一目散に逃げて行った。
駐留していた帝国兵の数は多かったが、予想していたよりも早く片付いてしまった。
初めて精霊を呼んでみたけど、私にはやっぱり魔法よりも剣のほうが合っている気がする。
ファインと比べても私の魔力は高いけど、やっぱり魔力コントロールが甘いみたいだ。
そして、後続のガレットさんたちがやってきた。
「おいおい、マジかよ……。たった一人で帝国兵たちをやっつけるなんて……。アンタ只者じゃないな。俺たちの出番がなくなったぜ」
ガレットさんは驚愕の表情を露わにしていた。
私は剣を腰の鞘に納めた。
「急ぎましょう。王都中央の工場では、市民たちが奴隷のように働かされているわ。彼らを助けてあげないと!」
「おう!」
私たちは中央の工場へと急ぐことにした。
■■■■■
【ヒューイ視点】
オレはセレーネと共に、南東の拠点を攻撃するべく移動をしていた。
一方、女のルナは単独行動だ。セレーネをつけるなら、ルナのほうなんじゃないかって思う。
オレ自身は、自分がすげぇ強いって自負してるつもりなんだが、ファインはオレが心配だと言ってセレーネを同行させた。
ちょっと前に、ファインから通信魔法で、例のディオーランってヤツに捕まったという報告が入った。
ファインは、ルナに代わりに火炎爆弾を打たせるので、オレたちはしばらくしたら南東の拠点を攻撃しろと言っていた。
オレは、やばい状況なんじゃねえかって言った。
すると、ファインは心配するなって言っていた。
でも、アイツがそう言うんなら大丈夫だと思う。
なぜなら、ファインは今までの戦いでもオレたちを勝利へと導いてくれた男だ。
きっと今回も絶対勝てるだろう。
オレとセレーネは、南東の拠点に辿り着いた。
到着と同時にルナからのフレイムボムが空に打ち上がった。
すると、南東の拠点にいた帝国の兵士たちが、次々とフレイムボムが上がった方向へと向かっていった。
「なるほど。ファイン様がしばらくしてから攻撃しろと言ったのは、こういう事だったのですね」
「つまり、どういうことだ?」
「ルナの魔法を見た帝国兵たちが、次々と南西の拠点へ向かっているでしょう? つまり、こちらの拠点は手薄になる訳です。要するに、ルナが『陽動』してくれているということです」
「あー、なるほど! そういうことか! ……え、待てよ。ってことは、オレの獲物がまた減るじゃねえかよ! トホホ……」
「嘆いている場合ではありません。これで私たちの負担は減るはずです。残っている帝国兵たちを倒して、市民の平和を取り戻しましょう」
「おう、そうだな!」
セレーネに言われたオレは気を取り直して、南東の拠点を攻撃することした。
無関係なジャズナの市民を苦しめる悪いヤツらは、オレがまとめてぶっ飛ばす!
オレは住宅の影から飛び出して、帝国兵たちに先制攻撃を仕掛けた。
「うおおおおおおお!!!」
オレは雄叫びを上げながら、敵兵の集まっている場所に向かって走っていく。
「な、なんだ!?」
帝国兵は突然現れたオレを見て、驚いている。
「おらおらおらぁ!! どけどけどけ~!! このオレ様のお通りだ!!」
オレは帝国兵たちに肉薄すると、持っていた斧をぶん回して攻撃した。
帝国兵たちは次々と倒されて行く。
これだよ、これ! これがオレが求めていた戦いだよ!
オレは次々と近づいてくる敵どもを難なく倒していく。
「さあ、次はどいつだ!? かかって来い!!」
オレの挑発を聞いた帝国兵たちは、次々とオレに挑んで来る。
オレはそいつらを、自慢の斧で敵を次々と返り討ちにしていく。
なんだ、帝国軍は世界最強とは聞いていたものの、こんなもんか。
一体一体の兵士は大して強くはない。鍛錬が足りないんじゃないのか?
オレはその後も攻撃を続ける。
「気を付けてください、ヒューイさん! 弓兵です!」
セレーネがそう叫ぶので振り返ると、複数の矢がオレに向かって飛んで来た。
だが、矢はオレに当たる直前に弾かれた。
セレーネが結界を張ってオレを守ってくれたらしい。
どうやら、敵の後方にはアーチャーがいたらしい。
ここでオレはようやく、ファインがオレを心配してるという本当の意味がわかった。
確かにオレは強いが、こういう向こう見ずで危なっかしい部分があった。
そして、オレは獣人の血を引いているがゆえに、魔法が使えない。
それをセレーネに補ってもらうことで、できる限り危険をなくそうとファインは考えていたようだ。
一方、ファインやルナは剣で戦えるし、何なら魔法まで使える。
あの二人なら、一人で戦えるし怪我しても魔法で回復することだってできる。
アイツはオレたちのことを本当によく見ている。
「ヒューイさん、私が付いています」
「サンキュー、セレーネ」
さて、気を取り直して戦いを続けるとするか!
■■■■■
【セレーネ視点】
私は今、ヒューイさんと共に南東の拠点を攻略しています。
ヒューイさんをサポートして欲しいと、ファイン様から頼まれました。
ヒューイさんは持ち前の身体能力を活かして前線で戦っています。
私はいつものように後方支援に徹します。
戦闘前に防御力アップのバフをかけておきました。
ヒューイさんの頑丈な肉体なら、多少の攻撃は致命傷にならないと思いますが、万が一の事態もあり得ます。
ヒューイさんは斧を軽々と振り回して、次々と敵を斬り倒していきます。
ですが、彼の斧は射程があまり長くはありません。
加えて魔法も使えず、手数も少ないのです。
「出でよ、土の精霊ノームよ」
そこで、私は精霊の力を借りることにしました。
私は回復役で、固有の攻撃魔法を覚えていません。
ですが、精霊の力に頼れば攻撃を行うことも可能なのです。
3年前、ファイン様はおっしゃいました。
自分の加護属性と同じ属性の威力が15%高いと。
私のエレメントは“地”です。
そのため、同じ地属性である土の精霊ノームを呼ぶことにしました。
「揺れろ、大地よ……【アースクエイク】!」
私は頭に浮かんだ魔法を唱えました。
すると、大地の激しい揺れを感じ、帝国兵たちがいるところの地面が隆起しました。
しかし、不思議なことに街の建物などは一切崩壊してはおりません。
そして、激しい揺れを感じてはおりましたが、私には一切ダメージがありませんでした。
それはヒューイさんも同じ様です。
「おい、セレーネ! なんなんだ、今のは!? 大地震が来て、帝国兵たちがやられたみたいだが、オレはなんともないぜ!」
「私が土の精霊ノームを呼んで、大地震の魔法をかけました。ですが、私たちは無傷で済んでいます」
「そうか! そいつはスゲーな!」
「ヒューイさん、気を抜いてはいけません。まだ戦いは終わってはおりません」
すると、後方から男性の声がしました。
「そうだぞ、ヒューイ。最後まで油断するな」
「兄貴! やっと来てくれたか!」
ギースさんたちがようやく来てくれました。
ファイン様の作戦では、被害を最小限に抑えるために、ギースさんたちは後に続いて来る予定でした。
そして、手筈通りに彼らは来てくれました。
「よーし、セレーネ! 状況はこっちが有利みたいだし、どんどん攻め続けるぜ! ジャズナの民を苦しめる帝国兵どもは、みーんなまとめてオレがぶっ飛ばしてやるぜ!!」
「はい!」
ヒューイさんは笑顔でそのように話します。
危なっかしいところもありますが、改めて見ると彼は戦闘では非常に頼もしい方です。
私はヒューイさんの支援に終始務めたいと思います。