第77話 女王救出
王都マシャクを偵察した日の夜。
いよいよ、女王救出作戦を決行するときが来た。
僕は約束通り、ヴィオラ様を連れて城へ行くことにした。
「じゃあね、ファイン。気をつけてね」
「ああ、ルナ。君も気をつけて。健闘を祈るよ」
「ありがとう」
僕は隠密をかけ、ヴィオラ様と共に城へ転移した。
「わあ、すごーい! これがワープなんだね! あっという間にお城の前に来ちゃった!」
「静かに。姿は見えなくても、音は消せないのでなるべく物音は立てないでください」
「あっ、ごめん」
本来は歩いて20分かかるところを、一瞬で城まで来れたので感動するヴィオラ様。
城の周りには見張りの兵士が数人いる。
隠密で僕たちの姿は見えないので、兵士たちに構わず城に入った。
城の中は広いうえに、暗くてよく見えない。
「どこに女王陛下が閉じ込められているかわかりますか?」
「城の地下には牢屋があるんだけど、お母様が閉じ込められているとしたら、たぶんそこだと思う」
「わかりました。ではその地下牢に案内していただけますか?」
「いいよ」
僕はヴィオラ様に地下牢へ案内してもらうことにした。
地下に降りると、鉄格子の牢屋がいくつも並んでいた。
見張りの兵士はなぜか一人もいないようだ。
しばらく進むと、豪華な服装をした女性が閉じ込められているのを発見した。
「お母様!」
「ヴィオラ……!?」
ヴィオラ様が『お母様』と叫んだ。
と言うことは、この人がジャズナ王国の女王、メアリー・ヴァン・ジャズナか。
よく見ると、容姿がヴィオラ様と似ている。
僕は隠密を解いた。
「ヴィオラ!? なぜここに!?」
「お母様が帝国に捕まったって聞いて、いても立ってもいられなかったの! それで助けに来たんだけど……何とかして、この牢屋を開けなきゃ……!」
ヴィオラ様は何とかして、鉄格子をこじ開けようとするが、当然ビクともしない。
「下がってください。僕が開けます。解錠」
僕は魔法で牢屋のカギを開けた。
すると、ヴィオラ様は牢屋に入り、女王陛下に抱き着いた。
「お母様ー!!」
「ヴィオラ! よく無事で!」
「うん、ギースが私を連れてくれたおかげで、助かったよ。それで、ここまではファイン君と一緒に来たの」
僕は女王陛下の前に跪いた。
「お初にお目にかかります。メアリー陛下。僕はファイン・セヴェンスと申します。以後お見知りおきを」
「顔を上げてください。あなたが娘をここまで連れて来たのですね。そして、私をここまで助けに来ていただいたことを感謝いたします」
「女王陛下、時間がありません。これから仲間たちが帝国兵に攻撃を行います。今から私と共に外へ逃げましょう」
僕はそう言って踵を返すと、女王・メアリーは僕を引き留めた。
「待ってください。他の牢屋にはジャズナの騎士や、私を助けようとしてくれた少女が捕まっています! 彼らもジャズナの民です。どうか、彼らを助けてあげてください!」
僕が城外への脱出を促すが、女王陛下は他の仲間たちを助けるように頼む。
女王陛下には自分のことよりも、他人のことを優先する思いやりの心があった。
それと同時に、僕の頭には全く別の疑問が浮かんで来た。
そう言えば、なぜ地下牢には一人も兵士がいなかったのか。
なぜ女王陛下の前に見張りを一人も置かなかったのか。
すると、暗闇から聞き覚えのある声が聞こえて来た。
「そうはさせんな」
「お前は……!」
「久しぶりだな、ファイン。お前なら、何らかの方法で必ずここに来ると思っていたぞ」
「ディオーラン!」
「違うな、俺はディオーランなんかじゃない。六大帝将【地のディーン】だ」
声と共にディオーランが帝国兵を連れてやって来た。
ディオーランには、僕の行動が完全に読まれていた。
女王・メアリーは、僕とヴィオラ様を引き付けるための囮か。
「しまった、罠かッ!」
「女王と王女の身柄を拘束しろ。動くなよ、ファイン。動けばこの二人の命はない」
「くっ……!」
「大人しく来てもらおうか、ファイン。言っておくが、お前に拒否権はない」
「……わかった」
ディオーランは、僕たちに対して玉座の間に同行するように要求した。
■■■■■
僕たち3人は、ディオーランと帝国兵に玉座の間へと連行された。
僕は中心に連れて来られ、ディオーランを始めとした複数の帝国兵たちに囲まれている。
一方、ジャズナ親子は外側にいる二人の兵士が見張っている。
それだけ僕はディオーランから警戒されているらしい。
すると、僕は突然痺れるような痛みに襲われた。
「!? う、動けない……!?」
「お前には、拘束魔法をかけさせてもらった。したがって、お前はそこから一歩も動けないし、仮に動こうとしても、激しい痛みがお前を襲うはずだ」
そう言えば、帝国兵の中にフードを被った人物がいた。
なるほど、どうやら魔法使いがいるらしい。
ディオーランは魔法を使えないはずだ。
「お前は女王救出後、魔法か何かで合図を送って仲間に知らせようとしたみたいだが、残念だったな。お前の企みも、ここで潰える」
そう言って、ディオーランは剣を抜いた。
ここで僕を始末するつもりらしい。
それにしても、ディオーランは勘が鋭い。
僕の考えをそこまで読んでいるとは思わなかった。
そして、ディオーランはゆっくりと僕に近づいて来る。
「さらばだ、ファイン」
「甘いな、ディオーラン。僕の作戦は、まだ終わっていないぞ」
「なに?」
その直後、外から大きな爆発音が聞こえると同時に振動が伝わって来た。
「何の音だ?」
ディオーランがそう言った直後に、一人の帝国兵が慌てた様子でやって来た。
「しょ、将軍!! 大変です!! 南西の拠点で爆発が……!!」
「なに……!? どういうことだ!?」
ディオーランは驚愕の表情を露わにする。
……どうやら、上手く行ったみたいだな。
実は、僕がルナたちに通信魔法で密かに連絡を取っていたのだ。
『ディオーランに捕まってしまい、火炎爆弾を打ち上げられなくなったが、当初の予定通り敵の拠点を奇襲しろ』
どうやら、作戦の第一段階は成功のようだ。
その直後、外から再度大きな爆発音がして、また一人帝国兵が入って来た。
「将軍、空に巨大な火の玉が上がっています!!」
「“火の玉”だと!? 何をしたんだ、ファイン!?」
「“敵”に対して、親切に教える訳がないだろう」
帝国兵は『火の玉』と言うワードを出してきた。
つまり、ルナが僕の代わりに火炎爆弾を放ち、一斉蜂起を促してくれたのだ。
もちろん、それも僕がルナに指示したことだ。
ディオーランは気を取り直して、再度剣を構えた。
「くそっ! 死ねっ、ファイン!!」
ディオーランは、僕の首を斬ろうと剣を振る。
しかし、僕は拘束魔法から抜け出し、ディオーランの剣戟を避けた。
「なに!? バカな、なぜ抜け出せる!? 拘束魔法は完璧だったはずだ!」
「甘いな。この程度の術式じゃ、僕に解いてくださいって言っているようなものだぞ」
敵の魔法使いは、再度僕に何かしようと手をかざした。
しかし、僕もそれを見逃さなかった。
「遅い」
「「「ぐあああっ!!」」」
僕は素早く右手を上にかざし、稲妻矢を放った。
一瞬の出来事に兵士たちは反応できず、そのまま雷に打たれて死んでしまった。
ついでにジャズナ親子の近くにいた、二人の兵士たちを氷の刃で倒した。
これで、玉座の間にいた帝国兵たちは全滅した。
「バ、バカな……我が軍の兵士たちが一瞬で……」
さすがのディオーランも動揺が隠し切れない様子だった。
「さあ、始めようか」
僕はディオーランの方を向き、剣を抜いた。
ここからが本番だ。