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英雄たちの物語 -The Hero's Fantasy-  作者: おおはしだいお
第2章 世界への旅立ち
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第75話 一方、その頃……

前半はディオーラン視点です。

「皇帝陛下、ジャズナ王国の王都マシャクを占領することに成功しました」

『……良くやった。このまま貴公にはジャズナの管理を任せようと思う。頼んだぞ、“地のディーン”』

「はっ、ありがたき幸せ」


 俺は魔導通信機を使い、皇帝にジャズナを占領したことを報告した。


 俺は今、ジャズナ王国の王都マシャクにいる。

 女王を人質に取ることで、迅速かつ味方の被害を最小限に制圧することに成功したのだ。

 なお、女王の身柄を確保した後、帝国の最新鋭の魔導通信機を使って放送を流した。

 そうすることによって、ジャズナ王国軍を問答無用で降伏させることができた。

 ちなみに、ジャズナ王国の一般市民は労働力になると同時に人質にもなっている。

 俺が王になる日も近いだろう。


 街では天のジェノスが略奪をしていた。


「おいジジイ、高そうな指輪を持っているな。そいつをよこせ」

「お許しを! これは亡き妻の形見なのです!」

「ほう、だったらなおさら俺がもらってやろう」

「おお! お返しください!!」

「うるさいぞ」

「グハッ……!」


 ジェノスは何の躊躇いもなく、老人を槍で刺し殺した。


「見苦しいぞ、ジェノス」

「なんだ? 貴様、敵に情けをかけようと言うのか?」

「敵とは言え、戦う術を持たぬただの一般人だぞ。それに労働力は必要だ」

「労働力だと? バカが。こんな老いぼれが何の役に立つと言うのだ?」

「少しは弁えろと言っているのだ」


 会話をしていると、突然【協力者】が現れた。


「ジェノス将軍、あなたは私と共に帝都に戻ってください」

「なんだと? どういうことだ?」

「皇帝陛下のご命令です。ローランド王国軍が近々帝国に侵攻作戦を計画しているとの情報が入りました。そこで皇帝陛下は、あなたに防衛の任を与えるそうです」


 そう言うと、協力者は半ば強制的に【転移門(ゲート)】でジェノスを連れ帰った。


「ではディーン殿、後は頼みましたよ」

「言われなくてもわかっている」


 協力者とジェノスは、転移門(ゲート)の向こうに消えていった。


「これで少しは気が楽になるな」


 俺は呟くと、城に戻ることにした。

 玉座の間には、ジャズナ女王がいた。

 黒髪ロングに褐色肌で、瞳は赤色である。

 そして女王ゆえか、独特な雰囲気を醸し出している。


 女王には手錠をかけ、我が軍の兵士たちに常時見張りを命令してある。

 逃げ出すことは不可能だ。

 俺は女王に、王女の行方を聞き出すことにした。


「さて、女王・メアリ……貴女に質問したいことがある。王女はどこだ?」

「殺しなさい」

「おやおや、質問に対する答えになっていないな。もう一度聞く。王女はどこに逃げた?」

「殺しなさい。あなた達に教えるくらいなら、死んだほうがマシです」

「今、貴女に死なれては困る。貴女が死んだとわかった瞬間、ジャズナの民たちは今に暴れ出すだろう。こちらとしても、それは困るのだよ」

「あなた達汚らわしき帝国人に、娘は渡しません!」


 女王は、王女の行方を断固として教えようとしない。

 何とも強情な女王様だ。

 ここは、少し頭を冷やしてもらうしかないな。


「フン! 果たして、そう運良く行くかな? ……ジャズナ女王を地下の牢に閉じ込めておけ!」


 俺がそう命令すると、兵士たちは女王を連れ出した。

 その直後、一人の兵士が入室した。


「報告します。城の地下に隠し通路を発見しました。どうやら、その地下通路は王都の外に通じているようです。王女はここを通って王都の外へ逃亡した可能性があります」

「なるほど、道理でな」


 道理で王都中くまなく探しても、王女は見つからないわけだ。

 俺はとある命令を兵士に出した。


「王女の捜索は当分中止しろ」

「はい?」

「俺に少し考えがある。俺たちは女王という強力な“カード”を手に入れた。王女のことは後でどうにでもなる」

「はっ!」


 兵士は敬礼すると、玉座の間から出ていった。

 そして、玉座の間は俺一人になった。


「……お前もこのジャズナに来ているんだろう? ファイン・セヴェンス」


 俺は窓の外を眺めながら、そう呟いた。


■■■■■


 城の地下にて。

 女王・メアリーは帝国の兵たちによって牢屋に閉じ込められた。


「大人しくしていただきたい」


 兵士たちは牢屋に鍵をかけた後、地上に戻っていった。

 そして、牢屋にはメアリーただ一人となった。


「ヴィオラ……どうか、あなただけは……」


 メアリーは、王都外へ逃がした娘の身を案じていた。

 しばらくすると、外からコソコソと物音が聞こえてきた。

 よく聞くと、それは足音のようだった。

 そして、牢屋の外にうっすらと人影が見えてきた。


「!? 誰です?」

「シーッ……!」


 人影は牢屋の鍵を易々と開けた。

 そして、その人影が牢屋に入ると人物像が明らかになった。

 それは、黒髪ショートヘアーで褐色肌の少女だった。

 推定年齢は10代半ばくらいで、まだあどけなさを残していた。

 服装などからして、盗賊か何かのようだ。

 メアリーは再度少女に問いかけた。


「あなたは……誰です?」

「はじめまして、メアリー女王陛下。私はジェーンと申します。【砂漠のサソリ】所属の盗賊(シーフ)です。あなたをここから逃がします」

「……わかりました。今はあなたを信じます」

「女王陛下、こちらです」


 ジェーンと名乗った少女は、メアリーを牢屋から解放した。

 地下牢はなぜか帝国の兵士がほとんどおらず、手薄だった。

 そして、二人は帝国兵の目を盗み、なんとか城の外へ出ようとする。


「貴様ら、どうやってここへ!?」

「しまった!」


 二人は帝国兵に見つかってしまった。

 一目散に逃げだす二人。

 しかし、今のマシャクは帝国の領地。ゆえに、王都内には帝国の兵士たちが多数いるのだ。


「もう逃げられんぞ!」

「くっ、囲まれたか……!」


 次々と帝国の兵士たちが集まり、メアリーとジェーンはついに捕まってしまった。

 そして、二人とも地下牢に閉じ込められた。


■■■■■


 砂漠のサソリの拠点にて。

 ヴィオラは作戦会議が終わった後、ルナとセレーネのもとにやってきた。

 そして、ヴィオラはルナに話しかけた。


「ねえ、ルナ」

「どうしたのですか? ヴィオラ様」


 ヴィオラの呼びかけに、ルナはにこやかな表情で答える。


「ヴィオラでいいよ。それに敬語もいらないよ」

「じゃあ、ヴィオラ」

「ありがとう、ルナ。突然だけど、私と友達になってくれないかな?」

「もう友達でしょ? 私たち。……そうだよね? セレーネ」

「もちろんです」

「! そうだよね! じゃあ早速だけど、私の“悩み”を聞いてくれないかな?」

「もちろんよ。遠慮なく話して」


 ヴィオラは、二人に自身の悩みを打ち明けることにした。

 それに対して、ルナとセレーネも快く引き受けた。


「ありがとう。ルナ、セレーネ。じゃあ、早速話すね。……私はジャズナ王国の王族として生まれたんだけど、周りの使用人たちはみんな気を遣って頭をさげるばかりだった。街中の同い年くらいの子たちも同様で、気を遣わなくていいって言っても、敬語で話したり頭を下げたりしていた。気を遣ってくれるのは嬉しいんだけど、なんだか距離感が遠く感じて寂しかった。私はただ対等な友達が欲しかった」


 ヴィオラは自分の悩みを話すと、寂しそうに俯く。


「私、なんとなく分かる気がするわ。私も公爵家の令嬢だから、学校の同級生たちから【ルナ様】って呼ばれていて、話す時もみんな敬語だったわ。実はファインでさえ、最初は私に敬語を使っていたのよ」

「ええっ!? あのファイン君が!? それは意外だね!」


 セラフィー公爵家のルナも学生時代、似たような悩みを抱いていた。

 そしてそれは、ヴィオラと同じく王女であるセレーネも同様であった。

 しかし、セレーネは自らの正体を明かすわけにはいかないと思っていた。

 そのため、ルナの話にセレーネは静かに頷いた。


「二人とも、私の悩みを聞いてくれてありがとう。おかげで気持ちが楽になったよ」

「どういたしまして!」

「ルナ、セレーネ、明日は頑張ろうね」

「ええ!」


 悩みを打ち明けたヴィオラは、今まで以上に笑顔になっていた。

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