第73話 砂漠のサソリ
帝国に占領された王都マシャクに入り、砂漠のサソリの拠点らしき建物に到着した。
外観は少し大きい家といった感じだ。
彼らの協力を得て、ジャズナ王国を救おうと思う。
隠密を解く前に、再度周囲を警戒する。しかし、この付近に敵はいないようだ。
僕は早速、扉をノックした。
すると、中から男の声が聞こえた。
「誰だ? 合言葉を言え」
「デザートはアイス」
僕はギース氏に言われた通り、合言葉を述べた。
言ってて自分でもおかしいと感じた。
するとゆっくりと扉が開き、中から帯剣した若い男が出てきた。
「誰だお前は? 見ない顔だな」
相手は僕のことを警戒しているようだ。
ここは相手の警戒を少しでも解くべく、名前を名乗ることにしよう。
「はじめまして。僕の名はファイン・セヴェンス。王国騎士団のギース・エルダガー氏の紹介を通じて参りました。氏の手紙も用意してあります。リーダーのガレット殿に会わせていただきたい」
「なるほど。つまりお前は、うちのリーダーに会いたいと言うワケだな? とりあえずリーダーに話して来るから、そこで待ってろ」
男はそう言うと、扉を閉めて中に入って行った。
それから、待つこと数分。
扉が開き、先程の男と共に3人の武装した男女が出てきた。
「リーダーに話したところ、オーケーだそうだ。今からお前をリーダーのもとへ案内してやる。ただし、武器は預からせてもらう」
「わかった。武器はこの剣だけだ」
僕はそう言って、腰につけていた剣を男に預けた。
「それから、わかっていると思うが、俺たちのハウス内で妙な行動はするなよ?」
「わかっているさ」
「よし。お前ら、お客さんを案内するぞ」
僕は、男たちに囲まれながら建物の地下に案内される。
武器まで取り上げた上に、複数人で囲んでまで案内するとは用心深いな。
もっとも、よそ者の僕は警戒されて当然だろうが。
もし僕の身に危険が迫れば、魔法を使って何とかするが。
それから、ランプが灯っている薄暗い地下室に入った。
正面のソファーには、茶髪の若い男が座っていた。
年齢は20代くらいで、細身だが身体は筋肉で引き締まっているのが分かる。
男は僕に話しかけてきた。
「ようこそ、【砂漠のサソリ】のハウスへ。俺がリーダーのガレット・ランスだ。アンタが俺たちに会いたいって言っていたヤツか」
「はじめまして、僕はファイン・セヴェンスと申します。王国騎士ギース・エルダガー氏の紹介を通じてまいりました。ヴィオラ王女殿下より、帝国に捕らわれたメアリー女王陛下の救出、並びにジャズナ王国を取り戻して欲しいとのご要望を仰せつかりました。その協力をあなた方に要請するために、ここへ参りました」
「なるほど、そのためにわざわざここまで来たと言う訳か。つまりアンタは、王女様の使者と言う訳だな」
「まあ、そんなところです」
厳密には使者ではないが、詳しく話すのも面倒なので適当に話を合わせた。
「それから、ギース氏直筆の手紙も預かっています」
僕はそう言うと、ギース氏に書いてもらった手紙をガレット氏に渡した。
「……なるほどな。この手紙は間違いなくギースさんが書いたものだ。あの人からも王国を救ってほしいと書いてあるな。それにしても、見たところアンタは冒険者か何かのようだが、随分礼儀正しいんだな」
「はい。冒険者パーティー【星の英雄たち】のリーダーを務めています」
「なるほど、つまりアンタも俺と同じリーダーってわけか。綺麗な顔立ちをしてはいるが、道理でその表情には余裕が見えるワケだ。強者の余裕ってヤツだ。それなりの修羅場をくぐり抜けて来たんだろうな」
すると、ガレット氏は話題を変えて来た。
「ところで、どうやってここまで来れた? 門には警備の帝国兵だっているし、入れたとしても王都内は帝国兵がウジャウジャいる。そう簡単にここへは来れないハズだぜ?」
「隠密で敵に見つからないようにやって来ました。王都内に“侵入”する際には、瞬間移動を使いました」
「な、なにぃ!?」
僕がマシャクに潜入した方法を説明すると、ガレット氏は驚きの表情を露わにする。
それと同時に、砂漠のサソリの他のメンバーもざわめく。
「ゴホン! 本題に戻ろう。ファインとやら、アンタは王女様の為に、俺たちに協力して欲しいと言ったな。だが、アンタも知っているだろうが、今のジャズナ王国は帝国に支配されている。それに、帝国が侵略してきた時に多くの同胞たちを失っている。今でも反撃のチャンスは窺っているが、女王様が人質に取られている今、手出しは出来ない。第一、こちらと帝国の戦力差が大きすぎる。反撃はムリだ」
ガレット氏はそう言って、悔しそうな表情を浮かべるとともに右手を握った。
何とかして、女王を助けないと反撃はできない。
それについては、入念に作戦会議を行うことにするか。
だがその前に、仲間たちを連れて来なくては。
「詳しくは今ここにギース氏や僕の仲間たちを招いてから、改めて作戦を練るといいでしょう」
「? 何言ってんだ? ギースさんは今ここにはいないだろう?」
「大丈夫。彼らなら今すぐここに連れて来れます」
「は?」
そう言って僕は空間魔法【転移門】を開放し、サンタナの町に繋げた。
そして、ルナたちをこちらへ呼び出した。
「やっと私たちの出番ね。待ちくたびれたわ!」
「おお、スゲー! 本当に別のところに移動できたぜ!」
「お久しぶりです、ファイン様」
「はあぁぁぁ??」
転移門からルナたちが現れると、ガレットたち砂漠のサソリも驚きを隠せない。
「ここは砂漠のサソリの拠点の地下室……本当にここまで転移できるとはな」
「やっぱりファイン君は思った通りスゴイ人だね!」
「これって、噂に聞く“ロストマジック”ってヤツかよ!? ファイン、お前一体何者なんだ……!?」
「ただの人間ですが」
「絶対ウソだ!」
ガレット氏はそんな風にリアクションを取る。
この反応、以前にもどこかで見たことがある気がする。
そんなガレット氏をよそに、ギース氏とヴィオラ殿下が話かける。
「久しぶりだな、ガレット。元気そうじゃないか?」
「ギースさん! 俺は見ての通り元気だぜ。……と言いたいところだが、帝国の侵攻作戦で多くの同胞たちを失っちまった。今は戦力も少なく、反撃もままならねぇ。何とかしたいところだが……」
「ガレット、久しぶりだね!」
「王女様! 王女様も元気そうで、何よりです」
二人は知り合いらしく、親しげに会話する。
ヴィオラ殿下に対し、ガレット氏は敬語で話す。
意外と礼儀正しいところもあるんだな。
「お母様は今……」
ヴィオラ殿下は心配そうな口ぶりで、女王のことを問う。
「ヴィオラ殿下、帝国兵の話をたまたま耳にしたのですが、メアリー女王陛下はやはり生きています」
「本当!?」
「ええ。ただ人質として捕らえられているようで、こちらからは迂闊に手出しは出来ません。救出の方法については、これから改めて作戦会議を行う必要があるかと」
これで役者は全員揃った。
これから、僕たちは主要メンバーで作戦会議を行うことにする。