第71話 砂漠の王女
日没後。
宿屋で夕食を食べた後、僕は気分転換に一人で外出をしていた。
すると、前から見覚えのある人物がやって来た。
「ファイン君~!」
「ヴィオラさん、こんばんは」
「こんばんは!」
ヴィオラさんは元気よく挨拶した。
「今一人?」
「そうです」
「申し訳ないんだけど、みんなを呼んで西の家に来てもらえるかな? 大事な話があるんだ」
「?」
ヴィオラさんは唐突にそんな事を言う。
なんとなく胸騒ぎがする。
しかし、僕はヴィオラさんの頼み通りルナたちを呼んで来た。
「ここがヴィオラさんの言っていた家ね?」
「ああ、そうみたいだ」
僕たちは、ヴィオラさんが指定したと思われる家に入る。
そのまえに、扉をノックするのを忘れずに。
「はーい」
ヴィオラさんの元気な返事声が聞こえたので、扉を開けて家に入った。
「お邪魔します」
「いらっしゃい! よく来たね」
家に入ると、ヴィオラさんが迎えて入れてくれた。
ヴィオラさんは今、フード付きコートを脱いでおり、黒髪ロングが露わになっている。
そして、周囲には騎士の格好をした4人の男たちが立っていた。
そのうちの一人が、昨日見かけた金髪の男だった。
彼も鎧を着ており、今はフードがないため刺々しい頭髪がはっきり見える。
そして背中には斧を背負っており、騎士にしてはいかつい雰囲気をしている。
金髪の騎士は口を開いた。
「私がリーダーのギース・エルダガーだ。こちらは……」
「兄……貴……?」
「ん?」
ギースと名乗る騎士に対して、ヒューイが突然『兄貴』と言った。
「何だね、君は?」
「その金髪、その顔の傷……、何より『ギース』という名前……間違いねえ、やっぱり『兄貴』だ!!」
「お前……まさかヒューイか?」
「ああ、兄貴! オレだよ、ヒューイ・サウスリーだよ!!」
「そうか、ヒューイ! お前なんだな!? こんなに大きくなって!」
二人は何やら感動し合っていた。
「知り合いかい?」
「ああ。前に少し話したことがあるだろ? オレが子供の頃に世話になった冒険者だよ」
「『元』冒険者だ。正確にはな」
「元?」
「ああ。カグラ公国を出て行った後、とりあえず、俺は祖国であるジャズナ王国に久しぶりに帰ることにしたんだ。その道中、とある少女がモンスターの群れに襲われそうになっていてな。俺がモンスターの群れを倒して、その子を助けたんだ。そしたら女王陛下に感謝されて、ジャズナ王国軍の正規の騎士としてスカウトされたんだ。そして、現在では小隊長を任されるまでに出世したわけよ」
「へえ~! そいつはスゲーや、兄貴!」
「ゴホン! 話が逸れたな。本題に入ろう」
「それなら私から話すよ。私がファイン君たちを呼んだからね」
ギース氏の話の後、ヴィオラさんが話を始めた。
「そういえば、自己紹介がまだだったね。もう知っていると思うけど、私の名前はヴィオラ。そして、フルネームはヴィオラ・ヴァン・ジャズナ……そう、ジャズナ王国の王女だよ。ちなみに、さっきギースが助けたって言っていた少女は私のことだよ」
なん……だって……?
ヴィオラさんは今、ジャズナ王国の王女様だと言った。
道理で彼女からは独特な雰囲気を感じたわけだ。
僕たちはヴィオラさん……いや、ヴィオラ王女に恭しく跪いた。
「どうか、今までの非礼をお許しください。ヴィオラ殿下」
「気にしないで! ちゃんと名乗らなかった私が悪いんだから。それに私のことは、気軽に『ヴィオラ』って呼んでいいよ!」
「では、ヴィオラ様」
「そうじゃないんだけど……まあいいや。単刀直入に言うよ。……お願い、私の国を救って!」
ヴィオラ王女はそう言うと、突然頭を下げて来た。
「実は数日前、帝国がジャズナ王国に突然攻めてきたの。女王・メアリー……お母様がオトリになってくれたおかげで私たちは命からがら逃げられたけど、王都が帝国の手に落ちちゃったの。何とかお母様を救いたいのだけれど、私たちだけではどうしようもないの。だからお願い! ファイン君たちにジャズナ王国を……お母様を助けて欲しいの!」
ヴィオラ王女は涙ながらに懇願してきた。
グランヴァル帝国もついに本気を出してきたか。
正直、帝国の大軍を相手に僕たち4人が挑んだところで、勝ち目は皆無だ。
多勢に無勢、無謀もいいところだ。
しかしだ。
目の前に助けを求める人がいると言う人がいるのに、黙って見過ごすわけにはいかない。
「わかりました。できる限りのことはしましょう」
「本当!? ありがとう!!」
ヴィオラ王女は笑顔で感謝の言葉を述べた。
「ところで、どうして流れの冒険者である僕たちに助けを?」
「勘かな。何となくあなた達がとても強い人たちだって思ったの。ほら、昨日ローランド王国からはるばるやって来たって言ってたでしょ?」
「そうだぜ。オレたちはとっても強いんだぜ!」
ヴィオラ王女の言葉に、ヒューイはかなり肯定的だった。
まあ、僕たちは決して弱くはないが、少しは謙遜するべきだと思う。
こうして、ジャズナ王国を帝国の手から取り戻すための第一歩を踏み出すことになった。