第70話 ひと時の安らぎ
「見ろ、出口だ!」
サラマンダーの案内どおりに一旦通路へと戻り、途中にあった分岐点を別方向進んだ。
すると、外への階段を発見した。
「やった、出られたぞ!」
僕たちは、ようやく砂漠の迷宮を脱出することができた。
そして、再びだだっ広い砂漠を歩く。
地下迷宮の涼しさに慣れてしまったためか、日差しがとても暑く感じる。
そうして何時間も進んでいるうちに、夜になってしまった。
すでに砂漠を何日も進んでいる上に、時折モンスターたちとの戦闘もあった。
そのため、僕たちの心身はクタクタに疲れていた。
それから更に歩くと、遠く一つの町が見えてきた。
「やった、久々の町よ! 私もうクタクタだわ。今夜はここに泊めさせてもらいましょう」
「もちろんだ」
町に入ると、一人の町民らしき人物が僕たちを迎えてくれた。
町民はフード付きコートを着ており、いかにも砂漠の民と言った感じの身なりをしている。
その人物は褐色美少女で、フードのすき間からは黒い長髪が見えている。
そして、瞳の色は赤である。
言葉では表せないが、少女からは独特な雰囲気を感じる。
「こんばんは。旅の方々、ようこそ。【サンタナ】の町へ!」
「こんばんは。宿屋はどちらにありますか?」
「宿は町の中央東側だよ。せっかくだから案内してあげるね! ……と言っても、すぐだけどね」
「ありがとうございます」
褐色少女は、よそ者の僕たちを元気よく迎え入れてくれた。
少女は笑顔で宿屋に案内してくれると言う。
迷うことはないと思うが、ご厚意に甘えることにした。
「あなた達はどこから来たの?」
「ローランド王国から来ました。カグラ公国とフォースター王国を経由してここまで来ました。」
「へえ、そんな遠いところから来たんだね。その身なりからして、君たちは冒険者?」
「そうです。僕たちは【星の英雄たち】と言います」
「へえ。それはスゴいね! ……あっ、ここだよ!」
「ありがとうございます」
少女と会話しているうちに宿屋に着いた。
すると、後ろから男性が現れた。
「ここにいらっしゃいましたか」
「あっ、ギース」
「ヴィオラ様、夜はあまり外出なさらないでください」
「ゴメンゴメン! じゃあみんな、また明日ね!」
ギースと呼ばれた男性も、少女と同じくフード付きコートを着ており、コート越しからでも屈強な体格だと言うことが分かった。
推定年齢は30歳くらいで、顔には傷がついていた。
そして、背中には斧を背負っている。
ヴィオラと呼ばれた褐色少女は、その男性に連れていかれた。
男性は少女の護衛か何かのようだ。
ヴィオラさんは笑顔で手を振った。
「……ン? 今のおっさんは……」
「ヒューイ、どうした?」
「いや、何でもないぜ」
サンタナの宿屋は3階建てで、外から見た限り左右に部屋は3つずつはあるようだ。
だだっ広い砂漠ゆえに、この町を訪れる旅人や冒険者をそれなりに多く見込んでいるようだ。
そして、大半の部屋には明かりが灯っていた。
とりあえず、部屋を取ることにする。
「こんばんは」
「こんばんは。二人部屋は二つ空いていますか?」
「はい。空いていますよ」
よし、今夜は運良く二人部屋を二つ取ることができた。
これで男女で別れて泊まることができる。
部屋はまあまあの広さで、二人部屋らしくベッドが二つある。
それから、ここには露天風呂があるそうだ。
長旅で疲れたし、砂漠の暑さで汗もかいたので入りに行くか。
砂漠には水場がなかなか無いので、全身が汗臭くなってしまった。
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翌日。
目が覚めると、陽がすでに高かった。
む、寝坊してしまったか。
最近の長旅で疲れていたことと、久々のベッドがあまりにも寝心地が良かったせいだろう。
今日明日は休みにして、明後日から旅を再開しようと思う。
どうせ急がなくても問題はないだろう。
焦る必要はない。旅路はいつでも待ってくれている。
着替えた後、朝食を食べるために1階に降りることにした。
部屋を出ると、偶然ルナとセレーネも同じタイミングで出てきた。
「あら。おはよう、ファイン」
「おはようございます、ファイン様」
「おはよう。ルナ、セレーネ」
「二人とも、今起きたばかり?」
「うん」
「奇遇ね。私たちもよ」
どうやら、ルナたちも起きたばかりのようだ。
そして、ルナもセレーネも着替えを済ませていた。
全員が揃ったところで、下に降りて朝食を食べた。
時間的には朝食と言うより、昼食だったが。
せっかくの休みだから、今日はこの町を少し探索してみようと思う。
と言っても、小さな町なので大したものはないと思うが。
町には武器屋と道具屋が一軒ずつあるほか、酒場もある。
町としては至って普通だ。
あとは、中央にオアシスがあった。
なるほど、道理でここに町が作られた訳だ。
「見て、オアシスよ! せっかくだから水浴びしましょう」
「そうですね」
「えっ? 水浴びするって……?」
ルナとセレーネは走って宿屋に戻った。
それから約20分後、水着に着替えた二人が戻ってきた。
ルナはシンプルな白のビキニを着ている。
……やっぱり、大きい。
セレーネは淡い緑色のビキニを着ており、腰にはパレオを巻いていた。
しかも、ビーチサンダルまで履いているという徹底ぶりだ。
「水着なんて用意していたのか」
「そうよ、旅先で何があるかわからないからね」
ルナはそう言ってウインクした。
僕は心の中で用意周到だなと思った。
「んー、やっぱり砂漠の日差しは暑いわね。日焼け止め塗っておいて正解だったわ」
「そうですね」
そんな物まで用意していたのか。
そんなことを思っていると、ルナとセレーネは早速オアシスへ飛び込んだ。
僕は二人を見守りつつ、木陰で読書を始めた。
「えいっ!」
「きゃっ!? やりましたね!」
ルナとセレーネは水をかけ合い、遊びだした。
二人は年を忘れて、まるで子供のようにはしゃぐ。
そんな二人は純粋で、なんだか微笑ましい。
「二人とも、楽しそうじゃねーか! よーし、オレも!!」
「え?」
楽しそうに遊ぶ二人を見て、突然ヒューイはシャツを脱いだ。
そして、ダッシュしてオアシスに飛び込んだ。
「そーれーっ!!」
バッシャーン!!
「「きゃーっ!!」」
ヒューイがオアシスに飛び込むと、当然の如くルナとセレーネに勢いよく水しぶきがかかった。
そして、みんな年を忘れて無邪気に遊ぶ。
「みんな子供なんだから」
そうは言いつつ、僕は心の底から楽しんでいる三人のことが少し羨ましく感じる。
僕が子供の頃は、これ程までにはしゃいだ記憶はない。
昔から一人で遊ぶことが多く、それこそ魔道の勉学に励んだり、森でゴブリンなどのモンスターを屠ったりした。
そう思うと、我ながら僕は子供の頃から大人だったんだなと思う。
「おーい!」
ルナが遠くから元気よく手を振った。
僕も手を振って返した。
「ねえ、ファイン~! ファインも一緒に遊ぼうよ~!」
「濡れたくないからパス」
「えー!?」
僕はルナの誘いを断る。
ルナには申し訳ないが、やはり休日はぐうたら過ごすに限る。
それから、三人はビーチバレー等をやったりして、夕方近くまで遊んでいた。