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英雄たちの物語 -The Hero's Fantasy-  作者: おおはしだいお
第2章 世界への旅立ち
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第69話 炎の精霊

俺の苦手なバトルシーンが来ました

 砂漠の迷宮(デザートラビリンス)に迷い込んでから、1時間以上の時が経った。

 螺旋階段を上り、その先の通路をさらに進んだ。

 今、僕たちの目の前には大きな扉がそびえ立っている。


「ボス部屋?」

「そのようだ。開けるぞ、準備はいいか?」


 僕の言葉に、みんなは頷いた。

 そして、僕とヒューイの二人で大きな扉を開けた。


 扉の先に進むと、大きな間があった。

 壁には松明がかけられており明るい。

 また、フロアの床や壁などに蔦が生えており、ここが本当に砂漠の地下かと思えるほど。


 そして、フロアの奥には巨大な植物型のモンスターがいた。

 蔦状の触手を無数に生やしており、本体の花には大きな口がある。

 体長は2メートル位である。

 言うなれば、【人食い花】と言ったところか。

 人食い花は僕たちを食べたそうにヨダレを垂らしている。


「グオオオ……!」


 この人食い花の奥には、微かに通路が見えている。

 こいつを倒さなければ、先に進めないと言うことか。

 僕は剣を抜いた。


「みんな、準備はいいか?」

「おう! いつでもいいぜ!」

「私もいいわよ!」

「後方支援はお任せください」


 僕の仲間たちは臨戦態勢に入った。

 最初に仕掛けたのは、ルナだった。

 ルナは人食い花に肉薄し、剣戟を与えようとした。

 しかし、人食い花は無数の触手でルナを捕らえようとしており、隙がない。


「くっ! こいつ、思ったより隙がないわね……!」


 ルナは何とか人食い花の本体に攻撃しようとするものの、近づくことはできない。

 人食い花は、口を大きく開けてルナを食べようとする。

 その動きは、巨体に反して素早かった。

 しかし、素早さならルナも負けてはいない。ルナは後ろに身を退いて回避した。


風斬刃(ウィンドブレイド)!」


 そして、ルナは離れた位置から風斬刃(ウィンドブレイド)で人食い花を攻撃した。

 人食い花の触手が2、3本ほど切断された。

 しかし、触手はすぐに再生した。


「やはり、再生能力まであるのか!」


 その直後、人食い花は触手を伸ばし、ルナを拘束した。


「きゃあっ!? 放して!!」


 ルナは力ずくで触手を破った。


「次はオレが行くぜ!」


 次にヒューイが斧を構えて人食い花に向かって行った。

 しかし、ヒューイは触手に行く手を阻まれてしまう。

 斧で触手を切り刻むが、次々襲い掛かる触手を前に、ヒューイは人食い花本体に接近できなかった。


 すると、人食い花は口から紫の霧を吐いてきた。

 猛毒のブレスだ。

 人食い花は植物型のモンスターなので、この技が使えても何ら不思議ではないはずだ。

 セレーネがすぐに結界を張って防御してくれた。


 今度は僕が火属性中級魔法【火炎弾(フレイムバレット)】を放った。

 人食い花は植物系のモンスター。おそらく火属性が弱点である。

 人食い花は触手を展開して防御するも、触手は焼き切れた。

 触手のせいで致命傷を与えられなかったが、これでアイツに火属性の攻撃は有効であることが分かった。

 とは言え、上級魔法のフレイムボムを放つと、爆発でこのフロアが崩壊しかねない。

 接近するにしても、無数の触手が邪魔をしてくる上に、切っても切ってもすぐに再生する。

 さて、どうしたものか。


 しばらく考えていると、あることに気が付いた。

 アイツ……もしかして動きないのではないか?

 いや、間違いない。人食い花は植物ゆえに、地面に根を張っているから移動することが出来ないのだ。


「みんな、聞いてくれ」

「どうしたの?」

「アイツはあそこから動くことができない。その証拠に、僕たちが距離を取っているのに、人食い花は一切近づいて来ようとしない。もし移動できるなら、とっくにやっているはずだ。そこに勝機はある」

「確かに」

「そして、人食い花には目がない。おそらく、嗅覚や聴覚を頼りに獲物を捕らえるようだ。そこで、今から僕の稲妻斬擊(サンダースラッシュ)でヤツを倒す。動けないのなら、わざわざ隙を作らなくても当たるはずだ。セレーネ、結界の準備を……」


 そう言いかけた時だった。

 後ろを振り返ると、セレーネの周囲を取り囲むように太めの蔦が生えてきた。

 いや、これは蔦ではない。


 人食い花の触手だった。


 そう言えば、なぜフロアの至る所に蔦が生えているのか考えていなかった。

 こいつのせいか。この人食い花の生命力の影響で、そこら中に植物が生えてきたのか。

 そしてこいつは絶えず成長していたのだ。地中の養分を吸収して。

 離れていれば攻撃が届かないという、自分の考えが迂闊だった。

 セレーネは人食い花の触手に捕らえられようとしていた。


「危ないっ!!」


 そう言って飛び出してきたのはルナだった。

 ルナはセレーネの突き飛ばして庇った。

 自ら犠牲になったことで、ルナは人食い花の触手に捕らえられてしまった。

 ルナは必死にもがくが、先程よりも触手が太いため脱出できない。


「ルナ!!」

「動けない……!! ああああああああっ!!」


 僕が手を伸ばしたが、ルナはそのまま人食い花本体の方へ引き寄せられてしまった。

 そして、ルナは人食い花に丸飲みにされてしまった。


「ルナ!! ルナーーーーッ!!!」


 僕が叫んでも、返事がかえって来る訳もない。

 しかし、ルナが捕食されてからすぐの事だった。

 人食い花が妙に苦しそうにしている。その直後だった。


「ギャアアアアアアアアア!!!」


 突然、人食い花が苦悶の声を上げながら、緑色の体液を口から吐き出した。

 それから程なくして、人食い花は破裂してしまった。

 そして、破裂した人食い花の中からは、ルナが出て来た。


「はぁ……はぁ……」


 ルナは体液やらなにやらでずぶ濡れになってしまった。その左手には剣が握られていた。

 どうやらルナは、剣で内側から人食い花を切り刻んだようだ。


「ルナ、大丈夫か!?」

「大丈夫だけど、服がぐしょぐしょに濡れちゃったし、臭いよぅ……」


 ルナは涙目になりながら片目を閉じているが、とりあえず怪我をしていないのが不幸中の幸いだ。

 無事だったのはいいが、今回ばかりはかなり危機感を覚えた。


「ルナ……! ルナぁ……!! 良かったぁ……」

「心配かけてごめんね」


 セレーネは泣きながらルナに抱きついた。

 人食い花を倒した後、奥の通路へと進んだ。


■■■■■


 人食い花のいたフロアから、通路をしばらく進んだ。

 すると、また大きな扉が現れた。


「またボスか?」

「その可能性もある。用心してかかろう」

「おう!」


 僕とヒューイは協力して扉を開けた。

 扉の先には、やはり大きな間があった。しかも、先程よりも広い。

 周りには幾つかの篝火が設置されている。

 そして、フロアの中央奥には大きな台があり、そこに通じる階段もあった。

 この場所、どこかで見たことがある気がする。

 そう思った直後、突然台の上から強烈な熱気と共に炎が現れた。


「な、何だ!?」

「来たか、魔物を倒した勇者たちよ」


 言葉の主は炎の中から現れた。

 それは人と同様に四肢があり、全身が赤色で炎のような刺々しいオレンジ色の頭髪であった。

 逞しい筋肉質の身体に、褌を身に着けていた。 


「俺は炎の精霊【サラマンダー】だ。エビルフラワーを倒した勇者たちよ」

「エビルフラワー?」

「さっきお前らが倒した化け物の名前だ。最近アイツがこの遺跡に住み着いてな、それと同時に魔物どもがこの遺跡に出没するようになったんだ。そこにお前らが颯爽と現れ、あの化け物を倒したってワケだ。だが、ここ数百年この遺跡に魔物が現れたことはなかった。こいつはきっと、良からぬことが起きようとしているに違いねぇ」


 炎の精霊サラマンダーはそのように話す。

 と言うことは、人食い花――エビルフラワーが現れた原因はやはり魔王アガレスの復活か。

 サラマンダーは突然、熱々しげに話しだした。


「ところで、エビルフラワーを倒した勇者たちよ。俺はお前らが気に入った!! お前たちに俺の力を貸そう! ところで青年、まだ名前を聞いていなかったな。名は何という?」

「ファイン・セヴェンスだ」

「ファインよ、改めて俺の力をお前たちに貸そう!!」

「ありがとう、サラマンダー」

「なに、礼には及ばねぇ。エビルフラワーを倒してくれたんだからな。このくらいは安いものよ」


 エビルフラワーを倒したお礼に、サラマンダーは僕たちに力を貸してくれることになった。

 ステータスウィンドウの精霊欄を見ると、確かに【炎の精霊サラマンダー】が加わっていた。

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