第6話 六大属性と魔法
アドヴァンスド学園に入学して2日の朝。
僕は学生寮の自室にある姿見で身なりを整えていた。
黒髪黒目で、身長は170cm弱である。
それが僕、ファイン・セヴェンスである。
僕は黒色の制服に着替えた後、朝食を食べて学園に向かった。
僕は教室に入った。
「よう、ファイン」
「おはよう、ディオーラン」
教室に入るとディオーランがいた。
そして同じクラスには、アッカスという偉そうな貴族もいた。
それから、しばらくしてある女子生徒が長い髪をなびかせながら入って来た。
「あの子は……」
その女子生徒はルナ・セラフィーであった。
ルナは女子用の白ブレザーと、白のミニスカートを着用している。
そして、白のニーソックスとロングブーツを履いている。
ルナは前よりにある自分の席に着いた。
「はい皆さん、席に着いてください」
チャイムが鳴ると同時に、担任の先生が教室に入ってきた。
名前はユウリ・テルーエ。
ウェーブのかかったピンク髪のロングヘアーに、紫色の瞳が特徴的だ。
身長は低めだが、スタイルは抜群であった。
声は高めで、おっとりした感じの優しい女性教師だ。
僕を含めた生徒たちは先生の指示通り席に着いた。
「早速ですが、今日は【六大属性】についての授業を行います」
ユウリ先生の指示のもと、授業が始まった。
「【六大属性】とは、火、水、天、地、光、闇の六つに大別されます。そして私たち人類は、生まれた時に一人につきいずれか一つの属性を神様より授かります。これを【加護属性】と言います。このことはステータスウィンドウで確認することができます。あ、ちなみに私の加護属性は【光】です。そしてこの六大属性は、対角線上で表したもの同士が『対』の関係になっています」
ユウリ先生が黒板に図を描いた。
【六大属性】は上から時計周りで『天→水→闇→地→火→光』となっている。
これに関しては、孤児院で読書をしていたので僕はすでに知っている。
余談だが、『人類』と言うのは僕たち人間のほか、獣人やエルフとドワーフなど亜人の総称である。
「さて、ここで皆さんに問題で~す。加護属性は一人につき一つと説明しましたが、各属性を得られる確率は何%でしょうか? わかる子はいるかな~?」
ユウリ先生がいきなり問題を出してきた。
すると、一人の女の子が手を挙げた。
それはルナ・セラフィーだった。彼女も僕と同じクラスになった。
そして、ルナは【セラフィー公爵家】という貴族の令嬢だそうだ。
「はい、ルナさん」
ルナは指名されると、起立して答えた。
「火、水、天、地がそれぞれ17%ずつで、光が15%、闇が13%です」
「正解です」
ルナはさらに続けた。
「そして、親から加護属性を遺伝する確率は+2%で、両親とも同じ加護属性の場合は+4%となります」
「その通りです。詳しいですね。では続けて、属性魔法について授業を進めます。属性魔法は主に攻撃魔法ですが、火属性の【炎魔法】、水属性の【水・氷魔法】、天属性の【風・雷魔法】、地属性の【土魔法】、光属性の【光魔法】、そして闇属性の【闇魔法】があります」
ちなみに、大賢者ユリウスの書物に書いてあったことだが、自分の加護属性と同じ属性の魔法を使うと威力が15%上乗せされる。
僕の加護属性は【天】属性である。
即ち、風・雷魔法の威力が15%アップするという訳だ。
ただ、これは教科書には書いていなかったので、この教科書を作った人はこの事実を知らなかったらしい。
「……ところで、先ほど対角線上の属性同士が対になっていると私は言いましたが、これはモンスターの弱点を突くうえで重要な要素になっています。例えば火属性のモンスターは、水属性の攻撃に弱点を持っていますし、一方で地属性のモンスターなんかは風や雷の魔法に弱いです。例外はありますが、モンスターの弱点は概ねこの通りになっています。ちなみに【人類】には属性への弱点はありません」
具体例を挙げると、下級モンスターのゴブリンは氷魔法に弱く、スライムは炎魔法に弱い。
このように事前にモンスターの弱点を把握していると、戦闘を有利に進められる。
「属性魔法を一通り学んだところで、次は【回復・補助魔法】について授業を進めたいと思います。まず【回復魔法】には、治癒と解消があります。【治癒】は、文字通り傷を癒す魔法です。【解消】は、毒や暗闇などの状態異常を解消することができます。次に【補助魔法】についてですが、味方のスピードを上げる【高速】、逆に敵のスピードを下げる【低速】などがあります」
ちなみにここだけの話、僕は攻撃魔法や回復・補助魔法は一通り習得している。
魔法使いの名に恥じぬように、孤児院時代に村の近くの森に足繁く通い、ゴブリンやスライムなどを倒し続けて特訓してきたのである。
カラーン、カラーン……
授業終了の鐘が鳴った。
「皆さん、今回の授業は終了となります。次の時間は魔法の実践訓練を行いたいと思いますので、休憩後は校庭に集まってください」
■■■■■
休憩後、生徒たちは先生に言われた通り、校庭に集合した。
「それでは皆さん、今回の時間は『魔法の実践』の授業を行いたいと思います。まず魔法を使う時は、大気中の【魔素】を体内に取り入れ、その魔素を魔力変換してから魔法を使うとういうことはご存じですよね?」
知っている。何せ僕は魔法使いだからな。
「とは言え、まずは先生がお手本を見せてあげましょう。『炎の精霊よ、汝の力を貸し与え給え、【火球】!』」
ユウリ先生の手から火球が放たれた。
火球は前方に設置された的に命中し、的を焼き焦がした。
「みんなにはこの【火球】を放ってもらおうと思います。まずは出席番号1番、アッカス君」
アッカスが呼ばれ、得意げに前へ出た。
「炎の精霊よ、汝の力を貸し与え給え、【火球】!」
アッカスの手から火球が放たれた。
「どうだ、ボクの火球は!」
「さっすがアッカス様~!」
的には命中したものの、的はほとんど傷がなかった。
それから、僕はどこか『違和感』を感じていた。
しばらくしてディオーランの番が来た。
ディオーランの火球は的に命中する前に消滅した。
どうやら、魔法はあまり得意ではないらしい。
「ヘッ! ディオーラン、相変わらず貴様は魔法はダメダメだなぁ!」
「うるせえ黙れ」
アッカスがディオーランを馬鹿にしていた。
それから更に時が進んだ。
「続いては16番、ファイン君」
僕の番が来たので、前へ出た。
そして、右手をかざして火球を放った。
ボォッ!
火球は見事的に命中し、焼き払った。
しかし、その光景を見てみんながざわめき出した。
「えっと……す、すごいですね~」
ユウリ先生はなぜか顔を引きつらせていた。
今度はディオーランが話かけてきた。
「今お前、何をした?」
「何って……魔法を放ったんだが?」
「そういうことを訊いているんじゃない。今お前は【無詠唱】で魔法を放った」
無詠唱? そうだ、違和感の正体はそれだ。
先生を含め、周りのみんなは詠唱してから魔法を放っていた。
一方、僕は【無詠唱】で魔法を放った。
今まで僕は小さな村の孤児院で暮らしていたので、比較対象がいなかったからわからなかった。
だが、それがどうした。
いちいち魔法を呑気に詠唱なんかしていたら時間がかかるし、何よりその隙に敵から攻撃を受ける危険だってある。
ディオーランはさらに質問してきた。
「お前、無詠唱をどこで覚えた?」
「幼少期からずっと魔法の訓練をやってきた」
「……そうか」
ディオーランは何だか腑に落ちないと言った表情をしていた。
それから更に進んで、ルナの番が来た。
魔法の訓練だというのに、なぜかルナは剣を携えていた。
そして、ルナは勢いよく剣を抜いた。
スパーン!!
ルナが剣を抜いた直後に凄まじい風圧が起きたと思うと、離れた場所にあったはずの的は真っ二つに切り裂かれた。
「は?」
僕は思わず声が出た。
どうやら、ルナは風魔法を放ったらしい。
風魔法というと、【空気刃】が思い浮かぶ。
しかし、空気刃はそもそも剣を装備する必要はないはずだ。
【剣技】……昔小耳に挟んだ程度だが、そのキーワードが僕の脳裏をよぎった。
「えっと、ルナさん。今は【火球】を放つ練習の時間ですよ~?」
「すみません先生、私はこれくらいしか魔法を覚えていません」
ユウリ先生は苦笑いしながら言った。
それに対してルナは、淡々とした口調で話した。
今回の授業は色々あったが、僕はそれなりに楽しむことはできた。
■■■■■
放課後、僕はユウリ先生に呼び出された。
そのため、先生から指定された教室へと向かう。
僕は扉をノックした。
「どうぞ」
「失礼します」
教室に入ると、中にユウリ先生がいた。
その教室は校舎の端にあり、教室と呼ぶには些か小さな部屋であった。
端にある机には、何かの薬品らしき液体が入ったビーカーがいくつか置かれている。
また、同じく部屋の隅には本棚がある。
よく見ると、入っているのは魔道書のようだ。
「そこに座ってください」
ユウリ先生は、椅子に座るように促す。
「ここは私の魔法研究室です。今まで誰も使っていなかったので、私が借りました。……はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
ユウリ先生は、僕にお茶をお菓子を出した。
「さて、本題に入りましょうか。今日の授業で、ファイン君は【無詠唱】を使いましたよね。どこでそれを覚えたのですか?」
ユウリ世界は、今日の授業で僕がやった無詠唱について質問する。
そこで、僕はユリウスの魔道書を出して見せた。
「このユリウスの魔道書です。この魔道書を使い、数多の魔法を覚えました」
「ユリウス? ユリウスというのは、三百年前の人魔大戦で世界を救った、あの大賢者ユリウスですか?」
「そうです」
「ええっ!? それってとても貴重な物じゃないですか!? ちなみに、どこでそんな物を見つけたのですか?」
「僕の故郷です」
「そんな貴重な物が故郷で見つかったのですか!?」
ユウリ先生は、目を丸くして驚く。
「もしよければ、私にも見せてくれませんか? 私も教師の端くれですので!」
「どうぞ」
ユウリ先生はユリウスの魔道書を見たいという。
そのため、僕は先生に魔道書を渡した。
「ふむふむ……これは私の知っている魔法ですね。……ですが、むむむっ。これは私の知らない術式ですね」
ユウリ先生は目を凝らしながら魔道書を読む。
ちなみに、先生が今開いているのは【瞬間移動】のページだ。
「そして、これが無詠唱ですね。なるほど、『頭に魔法の術式を思い浮かべながら、魔法を発動する』……と」
「ユウリ先生。今日の授業を受けて……いや、この学園に入って分かったことがあります」
「何でしょうか?」
「昔に比べ、今は魔法技術が退化していると思います。その魔道書を読んで分かると思いますが、三百年前は無詠唱が当たり前だったようです。人魔大戦が終わってから平和になり、当時ほど強力な魔法も必要なくなったと考えられます」
「そうですね。あなたの言うとおりかもしれませんね。そう言えば、ファイン君の入学試験における魔力評価はAランクでしたよね?」
「はい」
「すごいですよね。多くの生徒はDかCで、高くてもBが数人で、Aランクはほとんどいません。つまり、ファイン君は天才ということですね」
「そんなことはありません。僕はただ、子供の頃から努力を続けて来ただけです」
「そうですか。それでも、ファイン君の才能ということに変わりはありません。ですが、一つ気を付けなければいけないことがあります」
笑顔で話していたユウリ先生は、突然顔色を変えながら話した。
場に緊張感が走る。
「何ですか?」
「ファイン君がそれだけ強いということは、ファイン君の力を悪用する者が出てくるかもしれないということです。例えば軍隊とか、悪い冒険者とか……。自分の力は無闇に明かさないほうがいいかもしれませんよ。ほら、『能ある鷹は爪を隠す』と言うでしょう?」
「大丈夫。僕の力は誰にも悪用させません。ですが、先生のおっしゃったことは、肝に銘じておきます」
「それで構いません。年長者の言うことは、聞いておくのが一番ですからね。それでは、今日はこのくらいにしておきましょうか」
「はい。それでは、失礼いたします」
「ええ、お気を付けて」
ユウリ先生との会話が終わった。
僕は部屋を退室し、寮に戻った。