第68話 砂漠の迷宮
流砂に飲まれた先には、謎の地下空間が広がっていた。
そこは地下でありながら広々としていて、いくつもの柱が立っており、洞窟というよりは建物の中のようだった。
「なんなんだ、ここは……? 砂漠の地下にこんなところが……」
僕がそう言うと、ルナが答える。
「そう言えば、お父様から少しだけ聞いたことがあるわ。ジャズナ砂漠のどこかには広大な地下遺跡があって、そこは別名【砂漠の迷宮】とも呼ばれているわ。きっとここがそうなんじゃないかしら?」
「砂漠の迷宮、か。いずれにせよ、出口を探さないとな」
僕たちが落ちてきた場所は、なぜか地上への出口が繋がっていない。
流砂で出来たはずの穴は、いつの間にか塞がってしまったのだ。
これも、砂漠の迷宮の力なのか。
ここは地下空間で、太陽光が遮られているためか涼しい。
僕たちは、地上への出口を探すために迷宮の中へと進み出した。
少し進むと、2つの穴があった。
「分かれ道か。どちらが正解だと思う?」
「私は左だと思うわ」
「私もですわ」
「オレは右だぜ!」
ルナとセレーネは左をヒューイは右を選んだ。
「じゃあ左だね。左の穴に進もうか」
入り口付近は広々としていたが、穴に入ると通路が急に狭くなった。
その一方で、壁にはなぜか松明がかけられている。ここだけ妙に親切である。
「罠があるかもしれない。気を付けて進もう」
「そうね、気を付けましょう」
ずっとまっすぐの通路を、ひたすら進み続けた。
その時だった。
僕の後ろを歩いているルナの目の前の壁から、突然槍が飛び出てきた。
「ひいぃぃっ!?」
その拍子に、壁からは次々と槍が飛び出してきた。
しかし、ルナは間一髪のところで回避した。
よく見ると、ルナの立っている床が少しだけ沈んでいた。
これが罠のスイッチだったのか。
「大丈夫か!?」
「ええ。だ、大丈夫よ」
僕はルナの様子を心配したが、幸いにもケガはしていないようだ。
しばらく先へ進むと、急に広場に出た。
半径約20メートルはある円形のかなり広いフロアで、中央には支柱が建っている。
また、壁にはいくつもの松明がかけられているため、明るい。
そして左右を見渡すと、壁際に計二つの宝箱があった。
「あっ、宝箱だ」
「よせ、ルナ!!」
ルナは宝箱を見るや否や、右の方に向かっていきなり走り出した。
すると、どこからともなく無数の矢が飛んできた。
「危ないッ!!」
「ひいぃぃっ!?」
僕は慌ててルナを止めた。
ルナは矢に当たらずに済んだが、弾みでルナは尻餅をついてしまった。
仲間たちも心配そうに駆け寄る。
「おい、大丈夫か!?」
「え、ええ。私は大丈夫よ」
「ファイン様が罠には気をつけろと言っていたでしょう?」
「そうね。心配かけてごめんなさい」
ヒューイは単純にルナの心配をしていた。
一方、セレーネは心配そうな表情をしてはいるが、意外と厳しいことを言う。
ルナは天然ボケしているのか、時折ポカをやらかすことがある。
学生時代のルナは成績優秀で、学年でもトップ3に入る程だったのに。
「それから、あの宝箱……あれ自体もおそらく罠だ」
「えっ?」
「あの宝箱を開けると中から毒ガスか何かが噴き出すか、あるいは宝箱自体がミミックなどのモンスターだったりする」
「ええー、そんなところにまで罠を?」
その後先へ進んだ。
通路は再び狭くなった。
すると、奥から微かに物音が聞こえてきた。
「何か来る。戦闘準備を!」
程なくして現れたのは、3体のキラースコーピオンだった。
体長1メートルの大型サソリである。
もちろん、ハサミと尻尾には毒がある。
砂漠にはよく生息しているが、この迷宮にも出るのか。
キラースコーピオンはハサミを大きく上げて威嚇している。
「1体ずつチマチマやるのは面倒ね。ここは私に任せて!」
そう言うと、ルナが剣を横に振って風斬刃を放った。
3体のキラースコーピオンは、成す術なく真っ二つに切り裂かれた。
「オレの出番は?」
「もうないわよ?」
「マジかよ……」
肉体派のヒューイは戦いたかったようだが、ガックリと肩を落とす。
ただ、先のことも考えて戦いは最小限にとどめたい。
キラースコーピオンを倒した後、狭い通路を更に先へ進む。
しばらく進むと、また広場に出た。
そこには5体のキラースコーピオンが待ち構えていた。
「まずはオレが行くぜ! おりゃああああ!!」
ここぞとばかりに、ヒューイが先に飛び出した。
ヒューイは斧で2体のキラースコーピオンを倒した。
「残りは私がやるわ!」
そう言ってルナはまた風斬刃を放ち、残った3体のキラースコーピオンを倒した。
その後も何度かモンスターに遭遇し、その度にルナが剣技で敵をなぎ倒していった。
「なんだか、少し疲れたわ……」
「魔力を少し使いすぎでは? ほら、手を出して」
「うん」
僕が出した手を、ルナが握った。
「精神力供給」
「わあ、魔力が回復したわ。ありがとう!」
ルナの精神力を回復させた後、再び狭い通路を進む。
ところが、その矢先のことだった。
突然通路の床に落とし穴が発生してしまい、みんな落ちてしまった。
「うわああああああああ!!!」
しかし、落とし穴の中が垂直ではなく、スロープ状になっていたおかげで助かった。
そして、落ちた先には泉があった。
なぜ落とし穴の先に、このような設備を付けたのかは疑問に思うが。
とは言え、長旅で疲れていたので、このタイミングで水場に辿り着けたのは僥倖だ。
とりあえず、近くに敵の気配はないため、ここで休憩することにした。
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休憩後は、泉の奥に見える通路を進むことにした。
時折モンスターの群れが現れるので、それを倒しつつ進んだ。
更に進むと、巨大な螺旋階段が現れた。
上を見渡すが、地上が全く見えない。
どうやら、相当地下深くにまで落ちてしまったようだ。
一方で下を見ると、一番下までは30メートル程はあろうか。
中央には巨大な支柱が建てられている。
まさに、迷宮と呼ぶに相応しい構造をしている。
「とても高いな」
「どっちに進むんだ?」
「当然、上を目指す。そのほうが出口に近づけるはずだ」
「おう!」
螺旋階段を上り、地上を目指すことにする。
手すりはないが、階段の幅は3メートルはあるので注意すれば落ちることはない。
とは言え、一番無難なのは壁際を歩くことだ。そうすれば安全に階段を上ることが出来る。
「ファイン、私怖いわ」
「大丈夫、壁際を歩けば落ちることはない」
途中の壁には所々に通路への入口があったが、できるだけ上の階を目指すことにする。
しかし、螺旋階段の半径は約20メートルはあるようで、1階分上るのに思ったよりも時間がかかった。
そして、階段を上り始めてから10分程が経った。
6階分に相当する高さまで上ると、階段は途切れてしまった。
まだ天井までそこそこあるが、これ以上ここから上へは行けない。
まさか、この迷宮に落ちた時点で相当地下深くにまで来てしまったのか?
いや、それも有り得るな。
とりあえず、一番上にあるこの通路に入ることにする。
それから、通路の奥にさらに進むと、大きな扉が現れた。