第66話 クラーケン襲来
何とか年内の投稿に間に合いました\(^_^)/
船に乗り、フォースターを出発してから2日目の早朝。
僕は目が覚めたので、甲板に上がることにした。
まだ夜明け前だが、東の方角であろう空が明るくなり始めていた。
天気は晴れ。風はなく、海も穏やかである。
僕は東の方角を眺めていた。
「あ、起きてたんだ」
後ろから、聞き慣れた澄んだ声が聴こえた。
振り返ると、ルナがいた。
「おはよう、ファイン」
「おはよう」
挨拶をすると、ルナは僕の隣にやって来た。
そして、いつものように会話する。
「眠れないのか?」
「うん。目が覚めちゃって、何となくここに来たの」
「そうか、僕もだ」
「明日にはジャズナ砂漠に上陸するわ」
「ああ。砂漠だから、きっと今まで以上の困難が待ち受けているだろう」
「そうね。みんなで力を合わせて頑張りましょう!」
ルナはそう意気込んだ。その笑顔にはいつも癒されると同時に、頼もしく感じられる。
その直後、船が突然大きく揺れた。
「きゃっ!?」
「な、何だ!?」
ルナがバランスを崩したので、僕はルナを受け止めた。
「大丈夫?」
「ありがとう、ファイン」
すると、巨大な烏賊のモンスターが浮上していた。
「グオオオオオ……!!」
今の揺れで、みんなが慌てて甲板にやって来た。
船長たちも慌てた様子であった。
「バカなッ!? クラーケンだと!? 何でこんなところに!?」
「船長、本来クラーケンはこの海域にいないはずですぜ!」
船員の一人がそのように話す。
彼の話が正しければ、このクラーケンは魔王かその手下が召喚したものか。
「船長たちは早く船室へ!! ここは僕たちが戦います!!」
「お、おう! 頼んだぞ、冒険者のアンちゃんたち!!」
船長と船員たちは、僕の指示どおり避難していった。
クラーケンは脚を伸ばして攻撃してきた。
僕たちは何とか回避するが、甲板に穴が開いてしまった。
何て威力だ。
このまま戦闘が長引くと、船が持たない。
早いところクラーケンを撃退しなければ。
「ここは私が行くわ、風斬刃!」
すると、ルナが剣を横に薙ぎ、風斬刃を放つ。
「ギャアアアアアア!!」
風の刃がクラーケンの脚を一本切断した。
クラーケンはたまらず絶叫した。
相変わらず凄まじい切断力だ。
クラーケンの太い脚をこうも容易く切断するとは。
「火球!」
僕がすかさず火球を放った。
火球はクラーケンの目に直撃した。
すると、クラーケンはたまらず海の中へと逃れていった。
とりあえず、この場を凌ぐことができた。
その後、クラーケンを追い払ったことを船長に報告した。
「そうか! でかしたぞ、冒険者のアンちゃん達! ところで、船の様子はどうだ?」
「船体のあちこちに穴が開いています。沈みはしませんが、修理しない限り航行は不可能ですぜ」
「そうか、すぐに修理に取り掛かるぞ!」
「へい!」
船長の指示で、船員たちが船を修理すべく一斉に動き出した。
「あの、私たちに何かできることはありますか?」
「ありがとよ、お嬢ちゃん。だが、船のことなら俺たち船乗りが一番良く知っている。だからここは俺たちに任せて、アンタ達はゆっくり休んでいてくれ。いつまたあのようなバケモノが襲ってくるかわからねえからな」
「わかりました」
船長は作業に戻った。
僕はルナの肩に手を乗せる。
「ルナの手伝いたいという気持ちはよくわかる。でも、船のことをよく知らない僕たちが手伝おうとしても、足手まといになる可能性がある。そうだろう? だから、僕たちには僕たちのできることをやろう」
「ええ、そうね。あなたの言う通りだわ」
僕がそう言うと、ルナは頷く。
僕はルナを説得すると、部屋に戻って休んだ。
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「うへぇ、気持ちわりぃ……」
修理している間、船は動くことはできない。
船は波に打たれ、大きく揺れる。
そのため、ヒューイは船酔いが酷くベッドで横になるしかできなかった。
僕は平気だったが、おそらく別室の女子二人も船酔いに悩まされているだろう。
あまりの酔いのため、食事すらままならなかった。
それから数時間後。
ようやく船の修理が完了し、旅を再開することができた。
時は昼下がりのようで、太陽がやや低い位置に移動していた。
「船酔い、大丈夫だった?」
「ああ。僕は平気だったが、ヒューイはさっきまで酷かったよ。でも、今は何とか回復している」
「それは大変だったね。私は【スキル】のおかげで平気だったわよ!」
「ルナは私をずっと介抱してくださいました」
ああ、そうか。ルナの状態異常無効スキルは、船酔いも無効化するのか。
そんな会話をしていると、船がまた大きく揺れた。
この揺れは、まさか……。
「クラーケンだ!! 俺たちをまだ追ってきていたのか!!」
船員の一人がそう叫ぶ。
海中からクラーケンが浮上してきた。
早朝の戦いで、クラーケンは脚一本と右目を欠損した状態である。
クラーケンは恨めしそうな表情を浮かべ、唸り声を上げていた。
「皆さんは早く避難を!!」
僕は剣を抜き、臨戦態勢に入る。
クラーケンは咆哮すると、脚を伸ばして攻撃してきた。
僕はそれを最小限の動きで回避した。
隙を突いてルナがクラーケンの頭めがけてジャンプした。
ルナはそのまま降下し、クラーケンの頭に斬撃を喰らわせる。
しかし、効果が薄い。魔王の手下なだけあって、皮膚は頑丈なようだ。
「火球!」
僕はクラーケンに対して、火球を三発放つ。
クラーケンは脚で防ぐが、火傷を負ったのか悲鳴を上げる。
今度はクラーケンが再び脚で攻撃してきたが、ヒューイが斧で攻撃した。
「ギャアアアアアアアアア!!」
クラーケンの脚には切り傷が入るが、頑丈なのか切断されるには至らなかった。
すると、クラーケンは怒りの為か、海面に脚を叩きつけた。
水飛沫が船の甲板にまで到達した。
このまま戦闘を長引かせると、こちらが消耗するばかりだ。何とかして早く終わらせないといけない。
そう思った矢先のことだった。
「ここは私にお任せを。出でよ、天の精霊シルフよ」
戦闘を見守っていたセレーネが、突然天の精霊シルフを呼び出した。
風と共にシルフは現れた。
「天の雷よ、我らに仇成す邪なる者を貫け、【神の雷】!」
セレーネが詠唱すると、空に暗雲が現れた。
そして、一本のまばゆい稲妻がクラーケンを貫いた。
「グオオオオオオオオッ!!」
クラーケンは苦悶の声を上げて、倒れるように海へと沈んでいった。
「や、やった!」
今まで後方支援に徹していたセレーネが初めて敵を倒したのだ。
そして、船は翌日に港に到着した。