第65話 船旅
フォースターの港から船に乗り、出発から2時間が経った。
陸地からは既に遠く離れ、辺り一面に海が広がっている。
「お腹空いたわね。そろそろご飯にしましょう!」
僕はルナの言葉に頷くと、魔法鞄から城でもらった食料を取り出した。
カゴの中にはサンドイッチが入っていた。具には玉子、ハムと新鮮な野菜が入っていた。
「いただきます」
ルナが両手を合わせた後、掛け声と共にみんなでサンドイッチを食べ始めた。
まず初めに、玉子サンドを食べてみることにする。
うん、パンも玉子も柔らかくて美味しい。
城の料理人は王家に仕えるだけあって、かなりの腕前のようだ。
「美味しい~!」
「おう、こいつはうめぇ!」
「美味しいですね」
ルナもニコニコしながら舌鼓を打つ。
ヒューイは男らしくサンドイッチにがっつく。
セレーネは王女様らしく行儀よく食べている。
「やっぱりお城の料理人さんの料理の腕は超一流ね!」
「そうだね」
ルナも僕と同じことを思っているようだ。
2時間後。
甲板では、船長と船員たちが集まっていた。
「よーし! お前ら、できる限り多くの魚を釣るんだぞ!」
「へい!」
船長の指示で、船員たちは釣りをしている模様。
どうやら、今夜の食料を確保しているらしい。
その様子に、興味を持ったルナが船長に質問した。
「何しているんですか?」
「おう、お嬢ちゃん達か。見ての通り釣りをして、明日にかけての食料を確保しているところだ。このあたりの海域は良く釣れるからな」
「そうなんですか。お手伝いしてもいいですか?」
「本当か? そいつは助かるが、大丈夫か?」
「大丈夫です。こう見えても、力持ちなので!」
ルナはそう言うと、ガッツポーズをする。
「それは頼もしい。じゃあ早速、手伝ってもらおうか」
こうして、僕たちは釣りの手伝いを始めた。
「まずは釣竿の先端にエサを付けるんだ。そしたら、釣糸を海に放つ!」
船長が釣りの方法を詳しく説明してくれた。
僕たちは船長の指示通り、釣糸にエサ付けて海に放った。
それから、数秒後。
「おっ、何か掛かった!」
「釣竿を思いっきり引くんだ!」
早速何かが釣り糸に掛かった。
僕は船長の指示どおり釣竿を思いっきり引いた。
すると、片手で掴めるサイズの魚が釣れた。
「おおーっ、すげー! さすがファインだぜ!」
「いや、運が良かっただけだよ」
「やるな坊主。センスあるんじゃないか?」
僕はヒューイたちに褒められた。
しかし、今のでなんとなく要領は掴めた。
「あっ、釣れた! 見て見て、私も一匹釣れたわよ」
「さすがルナです」
今度はルナも一匹の魚を釣った。ルナは魚を手に持ち、笑顔で見せる。
その後も順調に何匹かの魚を釣り上げた。
釣りを始めてから10分程が経った頃。
「あっ、掛かりましたわ! んんーっ!? この手応え、絶対に大物だわ!」
セレーネの釣竿に魚が掛かった。
セレーネは全力で釣竿を引っ張るが、逆に引っ張られる。相当な大物なようだ。
セレーネを後ろから、ルナが両手で抱きかかえる。
「ファイン君、手伝って!!」
「どうすれば……!?」
「私の身体を引っ張るのよ!」
「えっ!? わ、わかった!」
僕は少し抵抗があったが、ルナの身体を後ろから両手で抱きかかえた。
ルナの身体はとても柔らかい。そして、温かかった。
人の肌の温もりがこれ程だったとは。
僕は孤児だったが故に、人肌の温もりをよく知らずに育った。
いやいや、今はそんなこと考えている場合ではない。
みんなで力を合わせて、この大物を釣るのが先だ。
そして、ヒューイも僕の後ろに付いた。
「オレも手伝うぜ!」
「いい? みんなで力を合わせて、この大物を絶対に釣り上げるわよ!」
「オーケー、わかった!」
リーダーシップを発揮するルナ。ここでも彼女のコミュ力の高さが光る。
前から、セレーネ、ルナ、僕、そしてヒューイの順に並んだ。
そして、息を合わせて釣竿を引っ張る。
「そーれー、そーれーっ!」
ルナの掛け声に合わせて、釣り竿を引っ張る。
しかし、相手は相当な大物のようで、4人がかりでも苦戦している。
それでも、可能な限り釣り竿を引っ張って行く。
釣り竿にかかってから1分後、ついに獲物を引っ張り上げることに成功した。
それは、体長2メートルはあろうかという巨大魚だった。
「こいつはすげぇ! こいつは【ジャイアントフィッシュ】って言うんだが、俺も見るのは初めてだぜ!」
釣り上げた巨大魚には、船長も興奮していた。
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それから、数時間が経った。
夕方、甲板から海を眺めていた。
辺り一面に広がる海。そして、西の方角には夕日が見えた。
沈み行く夕日により、海はオレンジ色に染まっていた。
この世界には、これ程美しい光景があったとは。
その美しい光景に、僕の心は癒された。
「こんなところにいたんだ」
僕の隣には、ルナがやって来た。
ルナは長い髪を風になびかせていた。
「綺麗ね」
ルナはそう呟いた。
「私ね、旅に出て良かったと思っているの」
「どうしたんだい、急に」
「本当は今年から騎士見習いとして、王国軍に入る予定だったの。正直、ファイン君と別れることになるのは寂しいなとも思っていたの。でも、国王様の命でファイン君と一緒に旅することになったのは本当に嬉しかったわ。また一緒に楽しい冒険ができるんだって」
「それって……」
「だって、世界には私の知らないことがまだまだあるんだもの!」
ルナはニコニコしながらそんなことを言う。
そんなルナに僕は言う。
「あのさ、一つお願いがあるんだけど……」
「なに?」
「出会ってから3年も経つんだし、これからはファインって呼んでくれないかな?」
「ええ、ファイン!」
「ありがとう、ルナ」
そこにヒューイとセレーネがやってきた。
「おっ、こんなところにいたのか! そろそろメシの時間だぜ!」
ヒューイが夕食の時間を告げに来てくれた。
この後、昼に釣った魚を焼いて食べた。