第64話 ジャズナ王国への旅立ち
俺はゴスバール皇帝に呼ばれて、城にやってきた。
「天のジェノス、貴公に命ずる。これより貴公は空軍を率い、ジャズナ王国の王都マシャクを攻略せよ」
「クックックッ、仰せのままに」
「それから、【地のディーン】よ。貴公もジャズナ攻略に参加せよ。この作戦は貴公が指揮を執るのだ」
「はっ、必ずや陛下のご期待にお応えします」
俺は天のジェノスが率いる竜騎士団と共に、砂漠の王国ジャズナの攻略作戦に参加することになった。
俺の部隊は騎馬隊故に、空を飛ぶことができない。
そのため、移動には大型の飛空挺に乗ることになった。
とは言え、帝国からジャズナまでは何日もかかるため、ジェノスの部隊も到着までは飛空挺に乗ることになる。
ジャズナ王国の王都マシャクは、周囲を壁で囲まれており、地上からの侵攻は困難だと言う。
そこで、飛空挺3隻による空からの侵攻を行うのだと言う。
「これが最新鋭の飛空艇か」
「はっ。従来に比べ、動力源を強化しております。それから、船体は空気抵抗を受けにくい形状に工夫しておりまして……」
この飛空艇は、高度な魔導具を動力源としているらしい。
整備兵が飛空艇について説明するが、詳しいことは俺にはよく分からなかった。
「ディーン将軍、全隊揃いました!」
「よし、出発せよ!」
俺は飛空艇と共にジャズナ王国へ向けて出発した。
侵略を前に、俺が中心となって作戦会議を行う。
ジェノスは俺とは別の飛空艇に乗っているため、【魔導通信機】を用いて作戦を伝える。
「では、これより作戦会議を始める。今回のジャズナ王国攻略作戦では、まずジェノス将軍の飛空艇が先行し、竜騎士団が先に王都マシャクへの攻撃を仕掛ける。次に私ともう一隻の飛空艇をマシャクに着陸させ、この【地のディーン】が率いる騎馬隊が順次攻撃を行う。ただし、民間人への被害は最小限に抑えること。作戦は以上だ」
説明が終わると、ジェノスが魔導通信機越しに話しかけて来た。
水晶を介し、空中にジェノスの姿が映っている。
「まさか、この俺が貴様のお膳立てをしなければならんとはな」
「今回の作戦では、貴公の隊が攻略のカギとなる。わかっているな?」
「『攻略のカギとなる』だと? 勘違いするな。俺は自分の欲望を満たす為に戦うに過ぎん。決して、貴様の為に戦う訳じゃないぞ」
「貴公こそ、何か勘違いしているのではないか? 今回の戦いは私の為ではない。あくまでも皇帝陛下の為だと言うことを忘れるな」
「わかっている!! 一度くらい俺に勝ったからと言って、偉そうにするな!! 新入りがッ!!」
天のジェノスは俺に反抗した後、一方的に通信を切った。
噂に違わず、好戦的な性格のようだ。
性格には難ありだが、戦闘では頼りになりそうだ。
そして、帝都オストを出発してから4日程が経った頃。
朝を迎え、東の空から朝日が昇ってきた。
下を見ると、広大な砂漠が広がっていた。これがジャズナ砂漠か。
すると部下から報告があった。
「ディーン将軍、翌日にはジャズナ王国に到着します」
「了解した。各自、馬と武器防具のチェックを怠るなよ」
今回の侵略作戦では、ジェノスの竜騎士部隊が先制攻撃を行う。
そのあと、飛空挺がジャズナ王国に着陸し、俺の部隊が地上へと攻め入る。
ジャズナ軍の戦力を削ぎ、帝国軍が占領する。
ただし、民間人への被害は最小限に抑えたい。
そして、翌日。ようやくジャズナ王国の王都マシャクの上空に到達した。
「いよいよだな。よし、かかれッ!! まずは竜騎士団が先行せよ!!」
俺が魔導通信機でジェノスの率いる部隊に指示を出した。
その後、俺の飛空艇がジャズナ王国に着陸すると、俺は部下たちを率いて侵攻を開始した。
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僕たちは砂漠の王国ジャズナへ向かうべく、フォースター王国を後にしようとしていた。
今思うとフォースター王国で過ごした時間は、長かったような短かったような、そんな感じだった。
フランやアイリーンさんと再会し、アリシアさん達と一緒に冒険した。
そして、セレーネの正体がフォースターの王女様と言うことに衝撃を受けたりもした。
短期間だが、とにかく色々な出来事があった。
ちょっとした寂しさを胸に、僕たちは城へ訪れた。
出発前に国王ヘイズルに挨拶する。
「では父上、私たちはこれよりジャズナ王国へ向けて旅立ちます」
「うむ、達者でな!」
「セレーネティア殿下、どうかお気をつけて」
「ええ。エリーゼ、あなたも」
「陛下、僕たちはこれにて失礼します」
「ああ。セレーネティアを頼んだぞ」
こうして、僕たちはフォースターの城を後にした。
ちなみに、蛇大臣を倒し国を救ったお礼として、多額の謝礼金をいただいた。
まずは船に乗るべく、王都の南にある港へと行く。
ジャズナへは陸路よりも海路の方が移動しやすいそうだ。
港には、大きな船が泊められていた。
その近くに、船長と思われる髭を生やした中年男性が立っていた。
「いらっしゃい。この船はジャズナ砂漠行きの定期船だよ。乗るかい?」
「お願いします」
「はいよ」
僕たちはジャズナへの船に乗った。
ジャズナ王国の王都【マシャク】は、砂漠の内陸部にあるという。
そのため、次の港からは砂漠を歩くことになる。
「ジャズナ行きの船、出航する!」
僕たちが船に乗ると、船長の合図と共に港を出た。
普段多いのかは知らないが、この日の利用客は僕たちを含めて数人しかいなかった。
「わあっ、海だ! ねえ、見て見て、海よ!」
「うおーっ、でっけぇなあ!」
「やはり海は綺麗ですね」
船は港からどんどん離れる。
陸が次第に小さく見え、周りには海が広がって行く。
みんなが海を見て、まるで子供のようにはしゃぐ。
かく言う僕も、海を見るのは初めてだ。
話には聞いたことがあるが、海がこれほど広大だったとは。
そのことに、改めて驚いた。
「お客さんたち、海を見るのは初めてかい?」
子供のようにはしゃぐルナたちを見て、船長が話しかける。
「僕は初めてです」
「オレもだぜ」
「私は子供の頃に見たことがあります」
「私も見たことがありますわ」
みんなが船長の質問に答えた。
「へえ。お嬢ちゃんたち、海を見たことがあるのかい。これからジャズナまでは2日かかる。このまま順調に行けば、明後日の昼には到着するだろうな」
船長はそう言った。
この日の天気は晴れ。そよ風が吹いており、とても穏やかだ。
この天気ならば、次の港までは順調に進むだろう。