第5話 バトルロイヤル
武器試験の後、最後の試験の前に15分の休憩を挟んだ。
そして、次はいよいよ最後の試験……『バトルロイヤル』だ。
試験監督が説明を開始した。
「それでは本日最後の試験について説明を開始します。最後の試験は【バトルロイヤル】形式です。制限時間は30分で、終了まで生き残った者が合格となります。自分以外は全員『敵』です。この試験では自分が使える『手』は全て使って構いません。攻撃を受けて体力が尽きると【脱落】となります。ただし、死亡はせずに試験エリアの外に転送されるので安心してください。なお、スタート地点はそれぞれ離れた位置にランダムで転送されます。では、今から約10秒後に試験開始となります」
試験監督の説明が終わった直後に、床に無数の魔法陣が現れた。
「まもなく試験会場に転送されます。皆さん、準備はいいですか?」
試験監督の言葉の後、目の前が真っ白になった。
しばらくすると、景色が変わっていた。どうやら試験エリアに転送されたらしい。
場所は廊下なのか、薄暗いところだった。
僕は早速、作戦を考えながら行動を開始した。
先ほどの実技試験を見た限り、みんなの実力はそれ程高くはないようだ。今回はあまり大技を使わず、最低限の能力だけで戦い抜くことにしよう。
ただ、ルナだけは僕にとって最大の脅威になるだろう。そのため、彼女にだけは気を付けなくてはいけない。
走っていると、早速他の受験生(※以下敵)に遭遇した。
敵は迷わず持っていた剣で攻撃してきたが、僕は難なく回避する。
そして、相手の首の後ろあたりを手刀で攻撃した。
敵は倒れ、光を放ってその場から消えた。
なるほど、脱落した者はこうして試験エリアから追放されるのか。
僕は行動を再開した。
すると、また敵に遭遇した。今度の敵は魔法使いらしく、持っていた杖を構えた。
僕は敵の懐に素早く潜り込み、剣で刺突した。
念のため、回復魔法で治療ができるように手加減しておいた。
しかし、刺したはずの敵には傷はおろか、出血すらなかった。
そして、相手はそのまま倒れて脱落した。
どうやら、バトルロイヤルのエリアではどれだけ強く攻撃しても、絶対に傷ついたり死んだりしないらしい。
これなら、手加減せずに戦うことができる。
それから、僕は次々と敵を薙ぎ倒していった。
もう何人の敵を倒したかはっきり憶えていないが、既に10人以上は倒したと思う。
そして、道中さらに3人の敵を倒した。
通路に、杖を持った金髪ロングの女の子がいた。
僕は火球を放とうと、剣を持ったまま右手の人差し指を出した。
「ああっ!?」
女の子は咄嗟に杖で防御しようとした。
しかし、後ろから敵が近づいてくる気配を感じた。
僕はそのまま、右手を後ろに回して火球を放った。
現れたのはルナだった。ルナは火球を避けると、そのまま僕に対して剣で斬撃してきた。
僕は剣でガードした。
「この力は……!」
「へぇ、予想通りやるわね。私の攻撃を防いだのはあなたが初めてよ」
剣を持つ右手に強い力が加わっているのを感じていたので、左手を刃に添えた。
なるほど、ルナは女の子にしては力が強いようだ。
僕は一旦ルナから距離を取った。
「昨日は助けてくれてありがとう。でも今は真剣勝負の場だから……、ごめんね!」
僕は内心、ついにこの時が来たかと思った。だが、覚悟はしていた。
「さあ、正々堂々、真剣勝負しましょう!」
ルナは得意げに剣を構え、僕に宣戦布告した。
僕は剣を構え、改めてルナと対面した。
しかし……。
「見つけたぞ、平民ッ!!」
後ろから怒鳴り声が聞こえてきた。
後ろを振り向くと、アッカスとかいう偉そうな赤髪の貴族が近づいてきた。
アッカスはそのまま僕に斬り付けてきたので、ジャンプして後ろに回避した。
「また会ったな、平民」
「……誰だっけ?」
僕は露骨にとぼけた。
「何だと!? 貴様、憶えていないとは言わせないぞ!」
「いや、憶えていないな」
「き、貴様ッ……! ボクの名はアッカス・ヴァカダノーだ! ヴァカダノー伯爵家の嫡男だ! 今から貴様を倒す男の名前だ! よーく憶えておけ、平民!!」
「アッカス? ああ、今朝の男か」
「やっと思い出したか! 朝の屈辱、思う存分晴らさせてもらうぞ平民!!」
平民平民うるさいなと思いつつ、僕は頭の中で状況を整理した。
正面にはアッカス、そして後方にはルナがいる。一度に二人も相手するのは骨が折れる。ましてや挟み撃ちの状況だ。
それにこのバトルロイヤルでは戦うことよりも、生き残ることのほうが重要だ。
したがって、僕は一時撤退を選択することにした。
「あっ! 待て、平民!」
アッカスは僕を追ってきた。
一方、ルナは僕を追ってはこなかった。
予想通りだ。ルナは『正々堂々』と言っていたので、アッカスとは結託しないだろうと思ったが、まさしくその通りだった。
その一方で、アッカスは執拗に僕を追いかけてきた。
無論、僕は前進し続けた。
「はっはっはっはっ、どこまで逃げる気だ? 怖気づいたか、平民!」
僕は怖気づいたわけでもないし、闇雲に逃げているわけでもない。
そろそろ頃合いかな。僕は人気が少ないところでとまった。
「やっと観念したか、平民」
「一つ忠告しておく。僕を侮らないほうがいいぞ」
「フン、大した実力もない平民ごときに何ができるって言うんだ?」
そう言うと、アッカスは手をかざした。
「炎の精霊よ、汝の力を貸し与え給え、【火球】!」
アッカスは火球を放った。
しかし、アッカスの火球は僕の前で消滅した。
「なっ!? バカなッ!? 貴様、今何をした!? 平民の分際で……」
実は、僕は【結界】を張って防御したのだ。
とはいえ、敵に対してこのことを親切に教えてやる義理はない。
アッカスはもう一度、火球を放とうとした。
「炎の精霊よ……!」
しかし、その瞬間に僕がアッカスの懐に潜り、顔面に右ストレートをかました。
「ブゲェッ!! 貴様ッ……! ボクを殴ったなッ! パパにも殴られたことないのにッ!!」
「ああ、殴ったさ。そして、あと一回だけ君の顔面をブン殴ると予告しよう」
「平民如きがッ、調子に乗るな!!」
激昂したアッカスは、剣を抜いて僕に詰めてきた。
僕は【身体強化】をかけ、もう一度アッカスの顔面を思いっきりブン殴った。
「ブゲェッ!!」
アッカスは勢いよく後方に吹っ飛び、そのまま脱落した。
そして、その直後にバトルロイヤルが終了した。
試験終了後、合計点数と順位が掲載された。
1位 ファイン・セヴェンス 285点 撃破数16人
2位 ルナ・セラフィー 270点 撃破数12人
3位 ディオーラン・ブラスター 255点 撃破数8人
僕は見事、入学試験に合格した。
そして、やはりルナはかなり高得点で合格していた。
ただ意外だったのが、僕が1位でルナが2位だったということだ。
ルナは武器試験において試験官を一瞬で倒していた。そのため、実力的には1位でもおかしくはなかった。
ルナが1位ではなかった原因はやはり、魔力測定において【測定不可能】となったことだろうか。
そして、ディオーランは3位か。そのことに僕は感心した。