第57話 セレーネの苦悩
今回はタイトル通り、セレーネ視点での話になります。(後半から)
僕はヒューイと共に、与えられた部屋に入った。
一般客用の部屋と思われるが、中は広々としていた。
そして夕食後、再び部屋に戻ってきた。
「あー、食った食った」
ヒューイはすぐにベッドで横になった。
僕は読書をしようと、魔法鞄から本を出した。
しかし、やけに静かだと思った直後、いびきが聞こえてきた。
振り返ると、ヒューイはすでに寝てしまった。
「よく寝られるな……」
僕はそう呟いて、読書をすることにした。
数分後、部屋の扉がノックされた。
「ファイン様、今よろしいですか?」
「どうぞ」
部屋にやってきたのは、セレーネだった。
「どうしたんだい? セレーネ。こんな時間に……」
「少し、相談したいことがありまして……」
「?」
「とりあえず、場所を変えませんか?」
僕とセレーネは、屋上へと移動した。
珍しく僕はセレーネと二人きりになった。
そして、セレーネは俯きながら突然こんなことを言い出した。
「私って、役立たずですよね?」
「どうしたんだい? 急に……」
「ルナは剣術に優れていて、ヒューイさんも力自慢です。そして、ファイン様は剣と魔法の両方が使えて凄いと思います。ですが、私だけは戦うことが出来ません。私は皆さんと比べて体力もないですし、足手まといになっているだけです……」
セレーネは自分の悩みを僕に打ち明けた。
確かにセレーネは戦うことが出来ず、はたから見れば足手まといに見えるかもしれない。
しかし、僕はセレーネに対する率直な感想を述べる。
「そ、そんなことはないよ! セレーネの回復・補助魔法はいつも頼りになっているよ。正直、セレーネがいなければ、今回の旅は厳しかったと思う。今更だけど、いつも僕たちを支えてくれてありがとう」
「ファイン様……! ありがとうございます! 私、悩みを打ち明けて良かったです!」
「悩みを打ち明けてくれて、ありがとう。これからも頼りにしているよ」
「はい!」
セレーネは涙ぐんでいたが、次第に笑顔を取り戻して行った。
これで、セレーネも少しは自信が持てただろう。
そして、セレーネは相談を続けた。
「ファイン様、せっかくなので、私の過去について聞いていただいてもよろしいでしょうか? ファイン様にだけは、本当の私を知っていて欲しいのです」
「ああ、構わない」
そう言うと、セレーネは自分の過去の話を始めた。
■■■■■
私の名は、セレーネ・ホープ。
本名はセレーネティア・フォン・フォースター。
そう、私はフォースター王国の王女なのです。
私は、人間の父とエルフの母の間に生まれたハーフエルフです。
母の名はセシリアで、旧姓は【ホープ】でした。
つまり、セレーネ・ホープの名は母方の旧姓から取っているのです。
母・セシリアは二十数年前に、エルフの森を出て人間界に引っ越してきました。
そこで母は、私の父となる国王のヘイズル・フォン・フォースターに求婚されました。
母の美貌に、父は一目惚れしたそうです。
そうして、私・セレーネティアは誕生しました。
母・セシリアは穏やかな性格で、誰にでも優しかったそうです。
しかし、私が幼い頃に母は病気で亡くなってしまいました。
私が生まれる前から、父には正妻がいました。
そして、その正妻の息子にして、私の腹違いの兄であるヘンリーがいます。
また、母の結婚前の身分は『平民』と言うことになります。
フォースター王国は、平民と貴族の貧富の差が激しく、また平民に対する差別意識が強い国です。
私は『王女』という立場にもかかわらず、平民との間に生まれた子供と言うだけあって、城内でも快く思われていませんでした。
兄は口には出しませんでしたが、態度からして私に不快感を示していたのは明白でした。
そして、私は使用人にすら嫌がらせを受けていました。
特に大臣は率先して私に嫌がらせを行い、王城では居心地が悪いと感じていました。
「皆、本当はあなたを王女とは認めたくないんですよ」
それが、大臣の口癖でした。
ですが、私は心配をかけまいと父に打ち明けることは出来ませんでした。
そんな私の唯一の理解者は、エリーゼだけでした。
エリーゼは、代々騎士を輩出してきた名門貴族【ロックストーン伯爵家】の人間です。
彼女とは、子供の頃から姉妹同然に過ごしてきました。
そして5年前、エリーゼは弱冠15歳にして騎士になりました。
その際には、自ら志願して私を護衛する任務に就いてくれました。
ですが、私は王城では居心地が悪いと感じていました。
そこで、エリーゼに辺境の地に住まわせてもらうように頼みました。
エリーゼは意外にも、私の考えを快く受け入れてくれました。
「私は騎士になる前から、セレーネティア殿下に忠誠を誓いました。ですから、殿下の願いはどんなことであっても、喜んで受け入れましょう」
私は幼い頃に道端で転んでしまい、膝に怪我を負ってしまいました。
ですが、そこを通りかかった親切な冒険者の方が、回復魔法で私を治療してくださいました。
この出来事がきっかけで、私は癒し手に憧れるようになります。
少しでも、多くの人々を救えるようにと。
そこで、私は15歳になる前、ローランド王国のアドヴァンスド学園に入学することを希望します。
それをエリーゼに話しました。
彼女は、文句一つ言わずに私の願いを聞き入れてくれました。
エリーゼはアドヴァンスド学園に着くまで私を護衛してくれました。
ここまでしてくれたエリーゼには、感謝の気持ちしかありません。
アドヴァンスド学園入学後は、ファイン様やルナとも知り合い、仲良くなりました。
特に、ファイン様には様々な回復・補助魔法に加えて、無詠唱まで教えていただきました。
そして、学園卒業後はファイン様やルナ、そしてヒューイさんと共に世界を救う旅に出ています。
これからも、私の魔法で皆さんを支えられるように努力したいと思います。