第56話 衝撃の事実
僕たちはオークキングを退治したことをアイリーンさんに報告した。
「皆さん、お疲れ様でした。怪我がなくて何よりです! 報酬として、1人あたり白金貨を3枚ずつお支払いします」
「えっ、そんなに!?」
「はい。オークキングは危険な魔物のため、当然の対価だと思いますが、少ないですか?」
「いや、むしろ多いと思いますが……」
「そうですか。とりあえず、報酬をお渡ししますね!」
こうして僕たちは、計12枚の白金貨をもらうことになった。
そして、アリシアさんからは改めて感謝される。
「皆さん、お忙しい中助けていただいて本当にありがとうございます」
「気にしないでください。短い間とは言え、一緒に戦った仲間を見捨てるわけには行きません。それでは、僕たちは王都へ向かわなければいけないので、これにて失礼」
そう言って僕は踵を返した。
「待ってください! 私はファインさんには何度も助けられました。私にとっての【英雄】をタダで帰すなんて申し訳ありません。ですから、これを受け取ってください」
そう言うと、アリシアさんは自分が身に着けていたペンダントを僕にくれた。
「これは?」
「このペンダントはエルフの秘宝で、魔力を高める効果があります」
「それって、相当貴重な物じゃ……?」
「いいのです。私の命と比べたら、このペンダントなんて安い物です。どうか、ファインさんには受け取って欲しいのです。きっと今後の旅で役に立ってくれるはずです」
「わかりました。それなら、ありがたく受け取っておきます」
こうして、僕はアリシアさんから『エルフのペンダント』をいただいた。
「さようなら、ファインさん。皆さんの今後の旅が無事であることを祈っています」
「またねファイン君! ボクももっと強くなれるよう、頑張るから!」
「楽しかったニャ! またいつか一緒に冒険しようニャ!」
「……」
ミネルバのメンバーは別れの言葉を告げた。
そう言われると、余計に寂しくなるな。
しかし、エリシアさんだけはそっぽを向いていた。
「あら、エリシア? もしかして泣いているの?」
「な、泣いてなんか……!」
すると、ルナがエリシアさんに抱き着いた。
「ありがとう、エリシアさん! またいつか会いましょう!」
「う、ううっ……! 言われなくたって、また会うに決まってるでしょ!!」
エリシアさんは号泣し出した。
「ファインさん、いつかまた会いましょう!」
「ええ。いずれまた!」
僕たち星の英雄たちは、ミネルバに見送られて旅立って行くのであった。
■■■■■
オーバーテイルから馬車に乗ること2日。
夕方、王都ベアバレーに着いた。
フォースターの国王に信書を渡すため、僕たちは城に訪れた。
城門前には、5人のフォースター王国騎士団が立っていた。
その中に、ひと際目立つ一人の女性騎士がいた。
容姿は金髪ロングに青い瞳であった。
女性にしては身長が高く、170cm程はある。
見た目が若いので、推定年齢は20歳くらいと思われる。
服装は女性騎士らしく白銀の鎧とマント、そして青いスカートを着用している。
若くて美人だが、凛とした雰囲気を醸し出している。
「お久しぶりです。エリーゼ」
「あなたは……!! まさか、セレーネティア“王女”か!?」
「はい」
「ああ、セレーネティア殿下……! お久しゅうございます!」
エリーゼと呼ばれた女性騎士の口からは、衝撃の事実が告げられる。
「セレーネティア? それに『王女』って……!?」
「なにっ、王女だって!?」
「どういうことだ? セレーネ」
「無礼者! このお方はセレーネティア・フォン・フォースター王女殿下だ。セレーネではない!」
「フォースター!? それってまさか!?」
何と、セレーネはフォースター王国の王女様だと言うのだ。
僕はセレーネ……いや、セレーネティア王女に向かって恭しく跪いた。
それに続いて、ルナとヒューイも跪いた。
「どうか、今までの無礼をお許しください。セレーネティア王女殿下」
「やめてください。良いのです、ファイン様。それに私のことは、今までどおりにセレーネとお呼びください。良いですね、エリーゼ?」
「はっ。王女殿下がそうおっしゃるなら。私はエリーゼ・ロックストーンと申す。フォースター王国軍所属の聖騎士だ。セレーネティア王女を護衛していただいたことを貴殿らに感謝する」
エリーゼさんは感謝の言葉と共に、頭を下げた。
「ファイン様、今まで黙っていて申し訳ございません。この者の言う通り、私の本当の名はセレーネティア・フォン・フォースター。ですが、故あって今はセレーネ・ホープと名乗っております」
「何があったのかは知らないが、詮索はしないでおこう」
「すみません。助かります」
「セレーネティア殿下、私はあなたの帰国をどんなに待ち望んだことか……」
「ふふっ、心配をかけましたね。エリーゼ」
会話の後、僕たちはいよいよ城に入った。
城に入ってしばらく進んだ時、エリーゼさんが騎士たちに言い放った。
「お前たちは城門前の警備に戻れ。私はセレーネティア殿下とご客人を案内する」
「はっ!」
エリーゼさんの指示で、騎士たちは城門前へと戻って行った。
今の言動から察するに、エリーゼさんは若くして騎士たちのリーダーのようだ。
「殿下、こちらです」
「はい」
「貴殿らはこちらで待たれよ」
城に入った後、セレーネはエリーゼさんに目の前の部屋へと連れていかれた。
その間、僕たち3人は用意された別室で待たされることになった。
それから約30分の時が経った。
「失礼します」
扉がノックされ、セレーネがエリーゼさんと共に部屋に入って来た。
しかし、セレーネはドレスを着用し化粧までしていた。
あまりの美しさに、僕は目を奪われた。それは、ルナやヒューイも同じだった。
もともとセレーネは美人だったが、ドレスを着たセレーネはさらに美しい。
こうして見ると、セレーネは本当に王女様なんだなと改めて思う。
「いかがでしょうか?」
「すごく似合っているよ」
「ありがとうございます、ファイン様」
僕は率直な感想を述べた。
「行きましょう、セレーネティア殿下。国王陛下がお待ちかねです」
「ええ、そうですね」
エリーゼさんの案内で、玉座の間を目指すべく移動する。
通路では、身分の高そうな壮年男性に会った。
その男性は、肥満体型で頭頂部がハゲている。
「おお、エリーゼではないか! そちらは?」
「大臣、こちらはローランド王国から来たと言う使者です」
「はじめまして。私たちは国王ゼフィールより、フォースター王国国王様宛ての信書を持って参りました」
僕は大臣に挨拶をする。
すると、大臣はセレーネを見る。
「おや、あなたは……セレーネティア殿下ではありませんか! お久しゅうございます!」
「……」
「セレーネ……?」
セレーネはなぜか僕の後ろに隠れた。
セレーネは俯いており、その表情はどこか怯えているようにも見えた。
そして、エリーゼさんに案内されて玉座の間に着いた。
玉座には、フォースター王国の国王が座していた。
容姿は金髪で髭を生やしており、精悍な顔立ちをしている。
推定年齢は40歳くらいで、一国の王にしては若々しい印象だ。
僕たちは、国王の前に跪いた。
「よく来たな。面を上げよ」
「ヘイズル陛下、ローランド王国から来たと言う使者を連れてまいりました。そして……」
「お、お前は……!?」
フォースター国王は、セレーネを見て驚いた。
「お前は、もしやセレーネティアではないか!?」
「お久しぶりです、父上」
「おお、セレーネティアよ。本当にセレーネティアなのだな?」
「はい、父上」
ヘイズル陛下は娘のセレーネを前に涙ぐんでいた。
無理もないだろう。久々に最愛の娘と再会できたのだから。
「よくぞ戻った我が娘よ。……ところで、その者たちはローランド王国の使者と言ったな?」
「はい。私はファイン様たちと共に、只今フォースターに帰還いたしました」
「うむ。我が娘を無事フォースターに送り届けてくれたことを感謝する。天国では亡き母・セシリアも喜んでいるであろう」
「いえ、礼には及びません」
送り届けたと言っても成り行きでそうなっただけで、本当はセレーネが一緒に旅をしたいと付いて来ただけである。
僕は本題を出そうとするが、先にセレーネが話し出した。
「父上、私たちはローランド王国のゼフィール陛下から父上宛ての信書を賜っております。どうかお読みください」
「こちらです」
僕は懐から信書を出し、ヘイズル陛下に渡した。
「……ふむ、なるほど。ローランド王国はグランヴァル帝国に立ち向かうべく、我がフォースター王国と同盟を結びたいわけだな?」
「その通りです」
しかし、ヘイズル陛下出した答えはこうだった。
「うむ、なるほど。だが、現時点では今すぐに同盟を結ぶことは出来ん。同盟を結ぶにしても、我が国の軍備を整えるなど準備に時間がかかる。とは言え、同盟を組むことは前向きに検討させてもらいたい。フォースターもローランドとは少なからず国交がある故、ローランドは我が国においても経済的な支えにもなっているからな」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
ヘイズル陛下が出した答えは、堅実なものだった。
確かに、今すぐ同盟を組ませてもらいますと言うにしても、そのための準備には時間がかかるのも事実だ。
「では、この件については後日臣下を集めて会議をするとしよう。ところで、君たちは今夜泊まる宿は決めたのかね?」
「いいえ。まだですが……」
「では今夜はこの城に泊まっていくがよい。娘を無事届けてくれた恩もあるしな」
「ありがとうございます」
ヘイズル陛下は、今夜は城に泊めてくれると言う。
ありがたい限りだ。
「では、私が案内いたします」
「ああ。頼むぞ、エリーゼ」
「こちらです」
部屋へはエリーゼさんが案内してくれるという。
すると、大臣が僕のもとに寄って来た。
「フォースター王国では貴族と平民の貧富の差が激しいのですが、それゆえに平民の犯罪が我が国で問題になっているのです」
「はあ……」
「現在国においても陛下が中心になって、平民の貧困対策を考えているところなのです。ですが、わしは平民の犯罪が許せないのです! ゆえに平民の犯罪は厳しく処罰しております」
「そ、そうなんですか」
大臣は突然僕にそんなことを伝えた。
そんなことをよそ者の僕に話すと言うことは、よほど犯罪が許せないのだろう。
大臣の過去に、一体何があったのだろうか。
その後、僕たちは男女別で与えられた部屋で休んだ。