第53話 感謝と昇格
【ディオーラン視点】
俺はディーン・ストリバー。
帝国騎士の一人である。
ある日、俺はとある任務を終えて馬で帰るところだった。
その道中、馬車がモンスター群に襲われているのを目撃した。
中には、ミノタウロスといった強力な魔物もいた。
護衛の騎士数名が応戦していたが、苦戦していた。
「くっ、怯むな! 何としてでも死守するのだ!!」
隊長らしき女騎士が鼓舞するも、状況は何も変わらなかった。
俺は、彼らを助けるべく馬で駆けつけた。
そして俺は剣を抜き、魔物たちを斬り伏せた。
一体一体の強さはさほどでもなく、俺はモンスターの群れを蹴散らした。
「助けていただいたことを感謝する。私はグロリア・グレイス。貴殿は見たところ騎士のようだが、名前は?」
「ディーン・ストリバー」
赤茶色の長い髪をなびかせ、深紅の鎧を着た女騎士はグロリアと名乗る。
俺は兜を脱いだ。
すると馬車からは、漆黒の長い髪を腰まで伸ばした赤い瞳の少女が出て来た。
いや、確かに少女と言う程に低身長で幼く見えるのだが、身に纏っている雰囲気はどこか大人びていた。
「危ないところを救っていただき、誠にありがとうございます。私の名はローラ・フォン・グランヴァル。名前の通り、グランヴァルの皇女です」
何と、その少女はグランヴァル帝国の皇女様だと言うのだ。
俺はアッカスなどの貴族から嫌がらせを受けてきた。故に、俺は身分の高い者が嫌いだ。
だが、俺とて騎士たる者。
俺は皇女・ローラに恭しく跪いた。
「お初にお目にかかります。ローラ皇女殿下。改めて、私の名はディーン・ストリバー。帝国軍所属の騎士です。以後お見知りおきを」
「ディーン。改めてあなたにお礼がしたいので、城まで一緒に来ていただけますか?」
「招致いたしました」
俺は皇女に連れられて城まで行くことになった。
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帝国の城、玉座の間にて。
玉座には皇帝ゴスバール・フォン・グランヴァルが座していた。
名前くらい聞いたことはあるが、実際に会うのは初めてだ。
皇女・ローラの兄というだけあって、黒髪に赤い目という特徴は一致している。
「貴公か、妹を魔物の群れから救ってくれたと言うのは。兄として感謝する」
「いえ、勿体なきお言葉です」
すると、皇女と女騎士グロリアが先程の俺の戦いぶりについて話し出す。
「ディーンはたった一人で魔物たち殲滅しました」
「ローラ殿下のおっしゃる通りです。私たち騎士団が複数人でかかって苦戦した魔物たちをたった一人で……」
「ほう、それほどまでに強いのか。なるほど。ディーンよ、貴公に六大帝将【地】の地位を授けよう」
皇帝は驚くべきことを言い出した。
【地のドロス】の戦死により空席となっていた地の地位を、俺に授けると言うのだ。
「陛下。僭越ながら、ポッと出の名も無いような騎士を【六大帝将】に加えるのはどうかと……」
「ヴォルトよ、貴公はこのワシの意向に反対すると言うのか?」
「い、いえ! そのようなことは……!」
炎のヴォルトは、皇帝に対して不満を述べる。
当然、下級騎士の俺が突然将軍クラスに昇格することに、不満を持つ者も出るだろう。
「ふん! ディーンとか言ったな。貴様如きが我ら六大帝将の仲間に入ると言うのは、相応しくないなぁ!!」
そう言ったのは、また別の騎士だった。
彼の名は【天のジェノス】。
金色の長髪に、夜空のような紺色の鎧が特徴的だ。
その性格は狡猾かつ残忍であるという。
噂では、敵国の民や任務で失敗した部下を何人も惨殺してきたと言われている。
ジェノスは、突如槍を構えて俺を攻撃してきた。
しかし、俺はジェノスの一撃を容易く避けた。
そして俺は素早く剣を抜き、ジェノスの懐に潜ると剣を向けた。
「なっ!?」
予想外の出来事だったのか、ジェノスは驚きの表情を隠せない。
「仲間割れはやめよ、ジェノス!! 貴様はまた味方を無駄に殺し、我が帝国軍の戦力を削げ落とすつもりか!?」
「はっ、申し訳ございません。皇帝陛下」
皇帝ゴスバールは、天のジェノスを厳しく叱責した。
「してディーンよ。改めてワシは、貴公を【六大帝将】に任命しようと思う。貴公の実力があれば、必ずこの戦いに勝利することができよう。今後とも、帝国のために力を貸してくれ。【地のディーン】」
「はっ。ありがたき幸せ!」
こうして俺は、地のディーンとして六大帝将の仲間入りを果たすのだった。