第51話 双子の妹
僕たちはゴブリンと、その親玉であるゴブリンロードを討伐した。
アリシアさんの勧めで祝勝会を行うことになった。
その日の夜、酒場にて。
「では、ゴブリン討伐の成功を祝って……乾杯!」
「「乾杯~!」」
アリシアさんの乾杯で、全員が飲み物を飲む。
ルナも酒を飲んだ。
一方でセレーネは酒が苦手なのか、オレンジジュースを飲む。
ミーナは魚料理を食べている。
そして、ヒューイは酒を飲み、料理にがっつく。
「いやあ! ここの料理は旨いなあ!!」
「魚! 魚だニャ!!」
僕は【コーラ】というノンアルコール飲料を注文した。
うん、スッキリとした味で美味しい。
それに、疲れた体に炭酸が染みる。
「そうなんですか。ファインさん達はローランドとフォースターが同盟を組むために、王に信書を渡しにきたのですね」
「はい。数か月前、帝国がローランドの北部に侵略して来ました。そこで国王ゼフィールは、他国と同盟を組んで帝国に立ち向かおうと言う考えです」
「なるほど。フォースターは大陸の南側にあるので、まだ帝国の脅威には晒されていませんが、帝国に侵略されるのも時間の問題でしょう」
僕たちは飲食しつつ、アリシアさん達との会話を楽しんだ。
そう言えば、なぜかフランだけは来ていなかった。
「あ、来ましたね」
「遅いニャ」
「ううっ……、この格好、やっぱりスースーするよぉ……」
「き、君は……!?」
「お前は……」
僕たちのテーブルの前に、一人の金髪ショートヘアの少女が現れた。
少女は水色のドレスを着ていた。
頭には赤いリボンを着けており、うっすら化粧までしている。
その娘は、どこからどう見てもフランだった。
「君は、フラン……!? その格好……まさか、女の子!?」
「何だと思ってたんだい? 今まで。そうだよ、ボクは女の子だよ。キミ、今まで気付いていなかったの? 村ではずっと一緒にいたのに……」
「だって、一人称が『ボク』だし、髪が短いからずっと男だと思っていたよ」
なんと、男だと思っていたフランは女の子だったのだ。
そう言えば孤児院時代、フランには少し不自然な点があった。
僕たち孤児院の子供たちは、みんなで一緒に風呂に入るのだが、フランだけはなぜか一度も一緒に風呂に入ったことがなかった。
当時は、意外と恥ずかしがり屋さんなのかな、程度にしか思っていなかった。
いや、フランは女の子なのだから、男と一緒に風呂に入らないのは当然か。
「あら。ファイン君、気付かなかったの?」
「私たちは初めてお会いした時から気付いてましたわ」
ルナとセレーネは初めから気づいていたという。
「ふふっ、やはり妹に頼んで正解でしたね。サプライズ成功です」
「フラン、良く似合っているニャ!」
フランは頬を少し赤らめていた。
いつものボーイッシュで元気なフランとは打って変わり、ドレスを着たフランはすっかり女の子らしくなっていた。
僕はフランのことが頭から離れず、今夜はよく眠れなかった。
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翌日、僕はルナと一緒に街を歩いていた。
すると、アリシアさんが歩いているのが見えた。
ルナが声をかける。
「あの人、アリシアさんじゃない? アリシアさん! おーい!」
アリシアさんは振り向いた。
「……アンタ達、誰?」
「えっ、昨日も会ったじゃないですか。ファインですよ、ファイン」
「ファイン? 知らないわね」
アリシアさんは、どこか様子が変だった。
服装は昨日と異なり、緑色のロングコートを着ている。
その下にはヘソ出しタンクトップと、迷彩柄のタイトスカート、それに黒ニーソを着用している。
背負っている武器も弓ではなく、見たこともない【変わった武器】である。
それに、性格もツンツンしている。
「ファインさん、どうしました? ……あら?」
そこに、なんと“もう一人”のアリシアさんが現れた。
「アリシアさんが……二人!?」
「そんな訳ないでしょ!? 私は【エリシア・エルフィード】、アリシアの双子の妹よ! 勘違いしないで!」
なんと、アリシアさんには双子の妹がいたというのだ。
顔や背丈は瓜二つ……と言うか全く同じなのだが、性格は全然違っていた。
姉のアリシアさんは穏やかな性格をしている。
一方、妹のエリシアさんはツンとした性格であった。
すると、ルナはエリシアさんが背負っている武器を見て質問する。
「その背中に背負っている武器は、もしかして『銃』?」
「? アンタ、何言っているの? これは【魔導弓】よ」
「『シューター』……?」
「そう。この武器に魔力を流し、トリガーを引けば弾丸が発射されて、遠くの敵を攻撃できるのよ。でも、魔力コントロールを適切にできなければ、使いこなすことは出来ないわ。……ところで、そこのあなた」
そう言うと、エリシアさんは僕を指してきた。
「えっ、僕?」
「他に誰がいるのよ!? 確かファインって言ったかしら? 私と勝負しなさい。アンタがお姉ちゃんと共に行動するのに相応しいかどうか、私が確かめてあげるわ。もし私に勝ったら、何でも言うことを聞いてあげる。でも、私に負けたら……二度とお姉ちゃんに近づかないこと! いいわね?」
「ちょっと、エリシア!?」
エリシアさんは、いきなり僕に勝負を挑んできた。
「どうするの? 勝負せず、負けを認めてもいいのよ?」
「……わかった。その勝負、受けて立ちましょう」
「ファインさんまで!?」
「お姉ちゃん、安心して。こんなひ弱そうな男、すぐに私が蹴散らしてやるわ!」
「やめなさい、エリシア! ファインさんはあなたが想像しているよりもずっと強いのよ! あなたが敵うはずないわ!」
「そんな事、やってみないとわからないじゃない!」
「はあ。ファインさん、ごめんなさい。この子は私に似ず、気の強い子で……」
「気にしないでください、アリシアさん。僕だって負ける気はありません」
僕はエリシアさんとの勝負に挑むことにした。