第50話 親玉
僕たちはゴブリンの群れを屠り、さらに洞窟の奥へと進む。
あれから進むこと5分程が経っただろうか。
階段を降りてさらに奥へ進むと、そこには金属製の大きな扉が現れた。
「扉……? もしかして……」
「ええ。間違いなくボス部屋ですね。皆さん、準備はいいですか?」
僕がそう言うと、全員が頷いた。
そして、扉をゆっくりと開けた。
扉の向こうには、大柄なゴブリンが3体いた。
1体は玉座に座っていた。
残りの2体が左右に立っており、大きな斧を構えている。
部屋の中は広く、天井が高い。これだけ広ければ、比較的戦いやすいだろう。
「やはり、【ゴブリンロード】……!」
アリシアさんがそう言う。
「オレ様 ノ 寝座 ヲ 荒ラシタ ノハ、貴様ラ カ?」
「喋った!?」
ゴブリンロードが野太い声で喋り出した。
そのことに、ルナも驚く。
「モンスターのくせに、言葉を話せるのか」
「我ガ寝座 ヲ 荒ラシタ ムシケラドモ ヨ、ココヘ来タ カラニハ 生カシテ ハ 帰サン!」
「『寝座を荒らした』だと? 人の里を荒らし、生活を脅かしているのは貴様たちのほうだろう? こちらこそ、貴様たちには滅びてもらうぞ!」
「行ケ、護衛ドモ ヨ。ヤツラ ヲ 殺セ」
ゴブリンロードの命令で、2体のゴブリンガードは前進する。
「みんなは下がってて!稲妻撃!」
僕はサンダーボルトを放った。
ゴブリンガード達は感電死した。
「あとはお前だけだな」
「フン、役立タズドモ ガ。ムシケラ ニシテハ、ナカナカ ヤルヨウダナ」
「僕たちは虫けらじゃない。『人間』だ!」
「イイダロウ、ニンゲン。オレ様 ガ 直々 ニ 相手 ヲ シテヤロウ!」
そう言うと、ゴブリンロードは玉座から立ち上がり、右手に斧を構えた。
そして、巨体に見合わずジャンプで一気に距離を詰めて来た。
「速い!」
ゴブリンロードは斧を振り下ろした。
ガキーン!!
しかし、ゴブリンロードの一撃は空中で止まり、僕に届くことはなかった。
そう、セレーネが結界で僕を守ってくれたのだ。
ピンポイントで結界を張れるとは、セレーネは相変わらず非常に頼りになるサポーターだ。
しかし、礼を言っている暇はない。
僕は心の中でセレーネに感謝した後、仲間に指示を出す。
「全員、散開!」
僕がそう言うと、仲間たちはゴブリンロードから離れた。
一方の僕は剣を抜き、ゴブリンロードと一定の距離を保つ。
その傍にはルナもいた。
「ファイン君、コイツ意外と素早いわ。気を付けて!」
「わかっている」
後方ではアリシアさんが弓を構えている。
そして、ゴブリンロードに狙いを定めて矢を放った。
矢はゴブリンロードの右目に刺さった。
「グオオオオオッ!! ヨクモ、オレ様 ノ 目 ヲオオオオッ!!」
ゴブリンロードは自身の右目を手で押さえた。
その直後、ゴブリンロードはアリシアさんに向かって走り出した。
「女、貴様 ハ 許サンゾ!!」
「しまった!」
ゴブリンロードはアリシアさん肉薄し、そのまま斧を振り下ろした。
しかし、ヒューイが現れ斧で受け止めた。
「レディに手を出すなんざ、男らしくないぜ! 身体強化!!」
ヒューイはそのまま、斧でゴブリンロードを押し返した。
そして、ルナがすかさず赤熱剣でゴブリンロードの右腕を切断した。
「グオオオオオッ!!」
ゴブリンロードの右腕は斧ごと地面に落ち、振動と共に鈍い音を発した。
「これでとどめよ!」
「! 待て、ルナ! 離れろ!!」
「えっ!?」
ルナはとどめを刺そうとしたが、次の瞬間だった。
ゴブリンロードは残った左手でパンチする。
ルナは回避するが、パンチの衝撃で地面が抉れた。
「クックックッ、愚カ者ドモ メ……。コノ程度デ オレ ニ 勝ッタ ツモリカ?」
そう言うと、ゴブリンロードは左手で右腕を拾い切断面にくっつけると、右手で斧を拾った。
そして、目に刺さった矢を抜くと、ほどなくして右目が開いた。
「まさか、治癒能力……だと?」
「クックックッ、ソウダ。人間ドモ、コノ俺ヲ ココマデ追イ詰メタコトハ 褒メテヤル。ダガ、貴様ラニ 勝チ目ハナイゾ」
「それはこちらの台詞だ。次の攻撃で貴様を仕留めてやろう」
僕は先頭に立つと、左手を差し出してゴブリンロードに『来い』と挑発する。
「ムシケラ風情ガ、ホザクカアアアアアアアッ!!」
ゴブリンロードは怒ってジャンプし、僕の目の前に着地した。
そして、斧を振り上げた。
「ファインさん、逃げてください!!」
「チッポケナ 人間ヨ、死ヌガイイ!! ……ナンダ、コレハ!? 体ガ、動カヌ……!」
「かかったな、【麻痺罠】だ」
実は、ゴブリンロードが傷を治癒している隙に、僕の目の前に見えない魔法陣を仕掛けて置いたのだ。
僕は剣を頭上にかざした。
狭い洞窟の天井を暗雲が覆い、雲の中を稲妻が走る。
ボスを倒すには、やはりこの魔法に限る。
「な、何この雲は……!?」
「出たわね、ファイン君の【必殺魔法】が」
「必殺魔法……ですか?」
「ニャにが始まるんだニャ……!?」
ミネルバの面々も不安げに見守る。
「マ、マテ!! オレ ガ 悪カッタ!! 許シテクレ!! モウ 人間ノ村 ヲ 襲ワナイ!!」
ゴブリンロードは命乞いを始めた。
「二度と襲わないと誓うか?」
「誓ウ! イヤ、誓イマス!!」
「よし、わかった。許してやろう。これからは、ずっと大人しくしていてもらう。ただし、【地獄】でな」
「ヘ?」
僕の無慈悲な言葉に、ゴブリンロードは呆気にとられる。
「お前を生かしておいたら、また村を襲うつもりなのだろう?残念だが、魔物のお前を生かしておく理由は一つもないんだ。それじゃあ、さらばだ」
僕は剣を振り下ろした。
「稲妻斬撃!!」
激しい稲妻がゴブリンロードを切り刻んだ。
「ギャアアアアアアアアア!!」
ゴブリンロードはたまらず、絶叫する。
そして、ゴブリンロードは絶命した。
その死骸は、もはや原型をとどめていなかった。
「やった! ついに、ゴブリンを討伐することに成功しましたね!」
「ええ、そうね!」
「さすがファイン君! ボクも感動しちゃったよ!」
アリシアさんたちも喜んでいた。
この後ギルドに戻り、結果を報告した。