第48話 ゴブリン討伐
僕たちはギルド受付嬢のアイリーンさんに頼まれて、ゴブリン討伐のクエストを受けることになった。
そして、今回助っ人として同行するのは、冒険者パーティー【ミネルバ】である。
リーダーでエルフのアリシアさんと、獣人族のミーナさん、それにフランだ。
ゴブリンを退治しに行く前に、作戦会議を行うことにした。
「ゴブリンの目撃情報は、オーバーテイル北部外れにある村で多いそうです。このことから、ゴブリンの住処はオーバーテイル北部の森の中と推測されます。また、目撃した時間帯は昼よりも夜が多いそうです。既にギルドでは、家畜や農作物への被害が報告されています。十中八九ゴブリンの仕業でしょう」
アリシアさんが穏やかな口調で、僕たちに情報を提供してくれた。
僕もゴブリンについての情報共有を行う。
「ゴブリンは背丈は人間の子供くらいで、力も人間の子供程度しかありません。しかし、ある程度の知能を持ち、こん棒やナイフ程度の武器であれば扱うことができます。また、ゴブリンは集団戦法を得意としています。僕は剣と魔法で戦います。前衛はルナとヒューイに任せます」
「任せて!」
「ゴブリンはオレ様に任せな。まとめてぶっ飛ばしてやるぜ!」
「それから僕とルナ、それにセレーネは回復魔法が使えますので、怪我をしたら言ってください」
「回復なら私にお任せくださいませ。それから私が補助魔法で皆様をサポートいたします」
そう言うと、アリシアさんたちミネルバの面々も口を開いた。
「頼りになります。後方支援は、私の弓と回復魔法にお任せください」
「斥候はこのミーナが務めるニャ!」
「槍使いのボクも前線で戦うよ!」
ミネルバのメンバーたちは意気揚々としていた。
「では、これ以上の被害を出さないためにも、早速ゴブリン退治に行きましょう!」
「そうですね、では行きましょう」
ルナの言葉を聞いた一同は、ゴブリン討伐に動き出した。
出発する直前に、アイリーンさんが声をかけた。
「ファインさん! 出発する前に、アイテムを無償で支給しますが、いかがでしょうか?」
「そうですね、せっかくなのでいただきましょう」
せっかくなので、物資も無償で支給してもらうことにした。
無償と言っても、代金はローランド王国が支払うのだが。
ポーションを幾つかと、エーテルを多めにもらっておいた。
特にエーテルは魔法を多用するため、精神力回復に多く必要になると予想する。
「それから、武器に『ミスリルソード』もいかがでしょうか? 切れ味抜群だそうですよ!」
「ありがとうございます。ちょうど良かった。そろそろ武器を買い換えようと思っていたんです」
なかなか上質な武器だ。これは切れ味に期待できそうだ。
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僕たち星の英雄たちと、ミネルバはオーバーテイル北部の森へと向かう。
先程の会議でも言ったが、ゴブリンは集団戦法を得意とする。
その為、ゴブリンは基本的に3~5体程度の集団で向かってくる。
そこで、こちらもアリシアさんたちの協力を得て、合計7人で討伐に赴く。
とは言え、ゴブリンは単体では弱いので、各個撃破すれば問題はないだろう。
「ねえ、ファイン君。ファイン君ってば!」
話かけて来たのは、フランだった。
「えっ、何?」
「どうしたの? 考え事なんかして」
「ゴブリンとの戦い方について考えていたんだ」
「なんだ、そんな事か~。ゴブリンなんて、最弱のモンスターじゃん? ボクの槍で一撃だよ!」
「そうなんだけど、油断は禁物だぞ。何が起きるかわからないからな」
「もー、ファイン君は心配しすぎじゃない? これだけの人数がいれば、ゴブリンなんて楽勝だよ!」
「そうだぜ、ファイン。もっと気楽に行こうぜ! お前とオレがいればゴブリンがいくら来ようが敵じゃないぜ!」
フランとヒューイは楽観的な考え方をしていた。
何もなければいいのだが……。
そんなやり取りを見ていたアリシアさんとルナが話かけて来た。
「ふふっ、二人は仲良しですね」
「確か、二人は同じ村の出身なのよね?」
「そうなんだ。ボクとファイン君は同じ孤児院に住んでいたんだよ!」
ギルドを出発から約1時間、ゴブリンが棲息しているであろう森に入った。
「私は木の上から敵を狙撃します」
そう言うと、アリシアさんは木の上に登って行った。
ここからは敵地だと思い、最大限警戒しなくてはいけない。
僕はサーチで周囲を警戒する。
「む!みんな前方を見るニャ! 早速いたニャ!」
ミーナさんの言葉どおり、前方約5メートル先にゴブリンが5体いた。
ゴブリンたちもこちらに気づき、こん棒などの武器を持って向かって来た。
なるほど。ここは自分たちの縄張りと言う訳か。
しかし、こちらも退く訳には行かない。
「ルナとヒューイは前へ! セレーネは後方支援を頼む!」
「ええ!」
「任せな!」
「ボクも前へ出るよ!」
「皆さんに防御鎧の魔法をかけます」
セレーネが補助魔法で支援してくれた。
まずは木の上のアリシアさんが、弓でゴブリンを一体撃ち抜いた。
「赤熱剣!」
続いてルナが剣で短剣持ちとぶつかるが、武器ごとゴブリンを両断した。
「おらぁッ!!」
今度はヒューイが斧を振り下ろし、ゴブリンを真っ二つにした。
そして、フランが槍で四体目のゴブリンを串刺しにした。
ゴブリンたちは瞬く間に倒された。
「やっぱり、ゴブリンなんて楽勝だね!」
「フラン!危ないニャ!! ゴブリンアーチャーだニャ!」
ミーナさんが叫ぶと、弓を持ったゴブリンが矢を飛ばしてきた。
しかし、ヒューイが矢からフランを庇った。
矢はヒューイの左肩に刺さった。
「ぐっ……!」
「アイス・エッジ!」
僕はアイス・エッジでゴブリンアーチャーの心臓を貫いた。
これで、この付近のゴブリンたちを殲滅した。
「大丈夫かニャ!?」
「大丈夫ですか!? フラン、あなたが油断などするから……!」
ミーナさんとアリシアさんが、負傷したヒューイのことを心配する。
しかし、実のところヒューイは軽傷である。
「心配する必要なんかないぜ。見ての通り、オレ様は頑丈だからな!」
「ゴ、ゴメンなさい! ボクが油断したばかりに……」
「気にすんなよ。困った時はお互い様だぜ!」
「! うん、ありがとう!」
「ヒューイさん、私のヒールで回復致しますわ」
「おう、サンキューな」
セレーネが魔法でヒューイを治療する。
この一件で、フランも反省したようだ。
「ところでなのですが、ファインさん、セレーネさん」
「はい?」
アリシアさんが、今度は僕とセレーネの方を見て話かけて来た。
「あなた方は、【無詠唱】で魔法を使っていましたよね?」
「普通ではないですか? 僕は子供の頃からやってきましたので」
「えっ!? そうなんですか!? そんな高度な技術をいとも簡単に……!? そんなの絶対普通じゃありません!」
「それに僕やセレーネだけでなく、実はルナも無詠唱が使えるんです」
「えへへ」
「ええっ!? ルナさんまで!? そんな高度な技術を3人も習得していらっしゃるなんて……!」
「ファイン君が教えてくれたんです」
アリシアさんは、目を丸くして驚いていた。
その後も森の奥へ進んだ。
引き続き、僕はサーチしながら進む。
「ム! 何だか嫌な気配を感じるニャ!」
「木陰にゴブリンが四体隠れているぞ」
「あ、危ないニャ!」
僕は木に近づいて行った。
すると、ゴブリンが飛び出しナイフで攻撃してきた。
しかし、既にその場に僕はいなかった。
「ギッ!?」
「どこを見ている?」
僕は既にゴブリンの背後に回り込んでいた。
そう、瞬間移動していたのだ。
ゴブリンは振り向くが、時すでに遅し。
僕はミスリルソードでゴブリンの首を斬り落とした。
なるほど。期待通り、このミスリルソードは切れ味抜群だな。
「い、今ニャニをしたニャ……!?」
「ボーっとしている場合ではありません!」
待ち伏せは無駄だと思ったのか、残りのゴブリンたちが木陰から出て来た。
僕は一旦、瞬間移動で仲間のもとに戻った。
「あの距離なら私が!」
アリシアさんが木の上から矢を放ち、ゴブリン一体の頭部に命中させた。
「風斬刃!」
続いてルナが剣を横に薙ぎ、風の刃を音速で飛ばした。
ゴブリンの首は刎ねられた。
「今度はボクが行くよーっ!!」
最後はフランが槍でゴブリンの心臓を突き刺した。
「へえ、なかなかやるじゃねーか」
みんなの戦いぶりに、ヒューイも感心していた。
それから、更に森の奥へと進んだ。
「洞窟……?」
しばらく進んでいると、洞窟の入り口を発見した。
「何だか、嫌な感じがします」
「どうやら、当たりみたいですね。この中に奴らの【親玉】がいるみたいです」
確かにアリシアさんの言う通り、洞窟の中からは不穏な雰囲気を感じた。
僕が洞窟へと足を踏み入れると、全員が後に続いた。