第42話 裏切り者
スウェルの騎士団詰所にて。
「ディーン隊長! 味方が敵に襲われているとの報告が! しかも、敵は……『見えない敵』とのことです!」
「見えない敵……だと?」
(まさか“アイツ”が来たのか?)
「奴らのせいで、我が軍は甚大な被害を受けています! しかも、南からは公国軍の騎士団が攻めてきております! ディーン隊長、ご命令を!」
「これより、このスウェルの街を放棄し、撤退する! 準備を!」
「し、しかし……」
「これ以上、味方の損害を大きくするわけにはいかない! 急げ!」
「はっ!」
隊長のディーンを含めた帝国兵たちは、馬に乗って街の北から脱出する。
ディーンは、部下にこんなことを言い出した。
「俺が時間を稼ぐ。その間にお前たちは帝国を目指すのだ!」
「し、しかし……!」
「いいから行け!」
「りょ、了解!」
(見えない敵……か。間違いない、ファイン・セヴェンス……! アイツがステルスを使って攻めてきたんだ)
ディーン……いや、ディオーランは一人ルートから外れ、森に入った。
そして、しばらくして止まると、兜を脱いだ。
「なっ!? ディオーラン!?」
「久しぶりだな、ファイン」
■■■■■
黒い鎧兜の騎士の正体はなんと、死んだはずのディオーランだった。
「ディオーラン……本当に君なのか?」
「そうだ」
「生きていてくれたのは嬉しい。しかしなぜ……」
「ファイン、俺は3年前のあの日……モンスター群がエストを襲ったあの日、俺はアッカスたちに襲われたんだ」
「アッカスが……!?」
「あの日お前らが行った後、逃げるモンスターたちを追って森に入った。すると、アッカスたちはファイアボールで背後からいきなり俺を攻撃したよ。まだ俺に対する、アイツの憎しみは消えていなかったんだよ。だが、その後通りかかった帝国軍に救われて、俺は九死に一生を得たよ」
「そうだったのか……」
「ファイン、世の中腐りきっている! 人々は自分たちのことしか考えていない。自分さえ良ければ、他人はどうなろうと関係ないと考えている。アッカスのような貴族であれば尚更だ。俺はそう言った奴らを許さない!」
「だとしても、なぜ帝国なんかに寝返ったんだ! ディーンと名前を変えてまで……!」
僕の問いに、ディオーランは少ししてから答えた。
「……とある人物に恩義がある、とだけ言っておこう」
「それは帝国軍にいるのか?」
「それは自分の目で確かめることだ。おしゃべりはここまでだ。構えろ、ファイン! ……行くぞ!」
ディオーランは剣を抜き、馬に乗ったままこちらに向かって斬り付けてきた。
僕はディオーランの攻撃を回避し、剣を抜いた。
「やめろ、ディオーラン!! なぜ僕たちが戦う必要があるッ!?」
「ファイン、今の俺たちは敵同士なんだぜ!」
「ローランドに戻ってきてくれ、ディオーラン! 僕は君と戦いたくない! 僕はあの時の、アイリーンさんに現を抜かしていた君に戻ってきて欲しい!!」
ディオーランは、再度僕に向かって馬を走らせる。
そして馬を飛び降りると、上からの斬撃を浴びせてくる。
僕はそれを受け止める。
「ファイン、俺とお前は敵同士。なら戦うしかないだろう!」
「ディオーラン、今の君の一撃を受け止めてわかったことがある。君は本気を出していないだろう? それは、君の心には“迷い”があるからだ。敵同士と言いつつ、手加減しているのはなぜだ? それは敵同士とは言え、旧友をできれば傷つけたくない。そう思っているんだろう?」
「……」
僕の言葉に、ディオーランの顔が曇る。
図星だろう。
やはり迷いがあるようだ。
すると、遠くからルナの声が聞こえてきた。
「ファイン君~!」
「チッ、もう来たか。……今回は見逃してやる。だが、次に会うときは容赦はしないぞ、ファイン!」
そう言うと、ディオーランは馬に乗って足早に撤退して行った。
その直後、仲間たちが駆けつけて来た。
「ファイン君、大丈夫?」
「ああ。……ディオーランが生きていた」
「えっ、ディオーラン君が……!?」
「ディオーラン? 誰だ、そいつは?」
「私たちの元同級生です」
「どういう訳か、彼は帝国軍に寝返っていた」
「そんな! どうして!?」
「……とある人物に恩義がある、と言っていた」
「それは一体、誰なのかしら?」
「さあな。それは僕にも分からない」
その後、僕たちは公王の待つ城に帰還した。
「おお! よくぞ戻られた! 貴殿らの活躍のお陰で、我が軍は被害を最小限に抑えられた。何より、スウェルの民を救ってくれてありがとう。改めて、私からも国を代表して礼を言うぞ」
「礼には及びません。困っている人々を、放ってはおけませんから。それでは、私たちはこれで……」
「待ってくれ! せめて今日くらいは泊まって行かぬか? 報酬も用意しておる。公国を救ってくれた英雄様をタダで帰すのは申し訳ない」
「英雄だなんて、大げさな。私たちは当然のことをしただけですから。ですが、公王様がそうおっしゃるなら、お言葉に甘えてさせていただきます」
「それから、地の神殿に行って土の精霊【ノーム】の力を借りるがよい。きっと頼りになるであろう」
「ありがとうございます」
僕たちは公王の勧めで、地の神殿へ行くことにした。
神殿の入り口は洞窟になっており、その中に本殿があるという。
僕たちは神殿に入ったが、中にはなぜか誰もいなかった。
神殿内には複数の篝火が灯っており、少し明るい。
「……何用かね?」
誰もいない所から、突然声が聞こえた。
神殿の中央に、土の精霊ノームが現れた。
ノームは、三角帽子を被り、顎から長い髭を生やしていた。
身長が低く、小人のような姿をしている。
「土の精霊ノーム……力をお借りしたい」
「ほっほっほっ、そう畏まらんでも良い。お前さんたちからは強い魔力を感じる。喜んで、わしの力を貸そう。きっと、お前さん達ならわしの力を使いこなすことが出来よう……」
そう言うと、ノームは姿を消した。
僕たちは、土の精霊ノームと契約することに成功した。
「やったわね。これで二つ目の精霊の力をゲットしたわね!」
「ああ」
その後、僕たちは城に戻った。
その晩は宿に泊まろうと思ったが、公王からは是非とも城に泊まって欲しいと言われた。
そのため、ありがたく城に泊めさせてもらうことになった。
そして、翌朝にはフォースター王国に向けて出発するつもりでいる。
これから、また長い旅になりそうだ。