第35話 弾丸列車
出発当日の朝、ルナとセレーネに会った。
ルナは騎士らしい白銀の鎧と、可愛らしい赤色のミニスカートを着用していた。
セレーネはフード付きの白いローブを身に付けている。
「おはよう」
「おはよう、ファイン君!」
「おはようございます、ファイン様」
「あっ! ファイン君、私の買ったコート着て来てくれたんだね! 嬉しいわ!」
僕は、ルナに貰った黒いロングコートを着て来た。
それを見たルナは嬉しそうだった。
「じゃあ、行こうか」
僕たちは旅に出るべく、エスト駅へと向かった。
改札を通り、だだっ広い駅構内へ入場した。
そして、プラットホームに『そいつ』はいた。
先端は鳥の嘴のように長く、顔の部分にある二対の目から眩い光を放っており、まるで生物のようにも見える。
そして、胴体は巨大で非常に長い。
言うなれば、『鳥の嘴を持つ大蛇』と言ったところか。
「これは……」
「これが今回の旅で乗る【弾丸列車】よ。ここエストからカグラ公国までを結んでいるの」
「知っている。しかし、実際に乗るのは初めてだ」
「私は一度乗ったことがあります」
「そうなのね。ちなみに、遠くの基地でドラゴンから採取した巨大魔石で雷魔法を起こすの。その雷を上に付いてる架線から弾丸列車の魔導具に送ることで走らせるのよ。その最高速度は、なんと時速300キロよ!」
「詳しいんだな」
「ええ。座席のクラスは上から順に、一等車、二等車、三等車よ。二等車には普通の座席の他に、【二等個室】と呼ばれる席もあるわ。ちなみに、私たちが乗る列車は、【フェニックス12号】の二等個室よ。費用は国王陛下が負担してくれたから、実質タダね!」
「王様には感謝しないとですね」
「そうね。フェニックスは12番乗り場から出るから、こっちよ」
ルナの案内で、12番乗り場へと移動した。
12番乗り場では、フェニックス12号がすでに僕たちを待っていた。
奇しくも、列車とホームの番号が一致している。
弾丸列車は数十メートルおきに区切られている。
側面には無数の窓と、各車両の両端には扉が二つずつ設けられている。
僕たちの乗る個室席は9号車にある。
早速、弾丸列車に乗り込んだ。
車内に入ると、通路を挟んで個室がズラリと並んでいた。
僕たちは、車両一番前の進行方向右側にある個室に向かった。
「ここが私たちの乗る個室【901号室】よ」
扉を開けると、個室内は2人掛けのシートが前後に配置されており、一室当たり計4人掛け席となっている。
また、シートを挟んで窓際にはテーブルが設置されている。
僕はシートに座った。シートはフカフカで柔らかい。
ルナは僕の隣に座ると、セレーネは僕の向かいに座った。
シートに座ってから5分後、弾丸列車が動き出した。
加速は滑らかで、音も静かだ。
出発してから数分後、スピードはかなり速くなった。
弾丸列車は超高速のわりに、静粛性はかなり優れているようだ。
おまけに、揺れが少なくて乗り心地も非常に良い。
僕たちは、快適なシートで寛いだ。
そして、列車に乗ってから数十分が経った。
「お腹が空いたね。ご飯にしましょう。弾丸列車には【食堂車】があるから、早速行きましょう!」
ルナの案内で、隣の10号車にある食堂車へと向かった。
昼時だったので混雑していたが、運良く一つだけテーブルが空いていた。
テーブルに着き、メニュー表を確認した。
カレーライスやハンバーグ、オムライスなどがあるようだ。
僕はハンバーグを注文することにした。
ルナはカレーライス、セレーネはオムライスを注文した。
「すみません。ハンバーグセット一つ、カレーライスを一つ、オムライスを一つください」
「かしこまりました」
十数分後くらいに、注文した料理が届いた。
「お待たせしました」
テーブルの上には料理が置かれた。
「「いただきます」」
「はぐっ、んん~!」
「美味しいですね」
二人は料理を食べ、舌鼓を打つ。
僕の目の前には、ハンバーグと共にライスとサラダが添えられていた。
早速、ハンバーグをナイフで切って一口食べた。
うん、美味しい。
食堂車の料理は想像以上に美味しい。
ライスは水分量が多すぎず少なすぎず、丁度いいくらいだ。
サラダの野菜は新鮮で瑞々しい。
僕が料理を味わって食べていると、ルナはいつの間にかカレーライスを半分以上食べていた。
そして、あっという間に完食してしまった。
「ごちそうさまでした~」
「早すぎる……」
食後、部屋に戻った。
ふと窓の外を見ると、景色が流れるように過ぎ去って行く。
これが弾丸列車から見る景色か。
そして、反対方向へ向かう列車とのすれ違いもあっという間だった。
昼食から3時間ほどが経った。
「そろそろおやつの時間ね」
ルナは何やら、ポケットから小包を出した。
「今日ね、クッキー焼いてきたの。みんなで食べましょう」
「わあ、美味しそうですね!いただきます」
ルナが小包からクッキーを出したので、食べてみることにした。
「いただきます。……うん、美味しいね」
「そうですね、美味しいですわ!」
「良かった。お口に合うようで、何よりだわ」
午後、日も傾いてきた。
列車のシートがあまりに快適なためか、だんだん眠くなってきた。
セレーネは既に眠っていた。
「ふわぁ~、なんだか眠くなってきたわね。おやすみ……」
そう言うと、ルナも眠りに就いた。
僕も寝ることにするか。
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一方、その頃……。
ファインたちと同じ列車の、別の車両にて。
帝国軍の工作兵二人組が乗り合わせていた。
「30分後に爆発するようにセットしておいた」
「よし。乗客たちは私の魔法で眠らせていおいた。誰も目を覚ますことはできまい」
二人は何やら、怪しげな会話をしていた。
「ふわぁ~、なんだか眠くなってきた。少し寝るとするか……」
「俺も……」
工作兵たちはそのまま眠りに就いた。