第34話 国王からの勅命
ここから、いよいよ第2章突入です。
アドヴァンスド学園に入学してからあっという間に3年が経ち、もうじき卒業の時を迎えようとしていた。
僕たちは18歳を過ぎ、成人となっていた。
僕は卒業後、冒険者として世界を旅しようと考えている。
一方でルナとセレーネは騎士団の試験に合格し、この春から騎士見習いとして、王国騎士団に入隊することが決まっていた。
特にセレーネは、ローランド王国では数少ないヒーラーとして活躍が期待されているそうだ。
放課後、三人で会話しながら帰り道を歩いた。
「3年間あっという間だったね」
「そうだな」
「ファイン君は卒業したら冒険者として世界を旅するのよね? そしたら、しばらくは会えなくなっちゃうのよね……」
「寂しくなりますね」
「そうだな」
「……ねえ、ファイン君。いつかまた会えたら、私、ファイン君と……」
「?」
しばらく間を置いてから、ルナが俯きながら小声で何か言った。
すると、後ろから男性が声をかけて来た。
「ここにいたか!」
振り返ると、セラフィー公爵が慌てた様子で駆けつけた。
「お父様、どうしたの?」
「三人とも、今すぐ私と共に王城へ来てくれ。国王陛下がお呼びだ」
僕たち三人は、セラフィー公爵に王城へと連れていかれた。
玉座の間にて、国王ゼフィールが待ち構えていた。
「おお、来てくれたか! 急で申し訳ないが、これからお前たちには他国に行き、わしの『信書』を他国の王に渡してもらいたい」
「信書……ですか?」
「うむ。半年前にローランド北部が帝国に侵略されたことは知っているな? いよいよ、帝国は本気を出したようじゃ。そこで、他国に協力を要請しようと思っておる。本当はアポロを向かわせたいのだが、彼には帝国に占拠された北部の村の奪還作戦の隊長を務めさせたいのでな。お前たちに頼むのは他でもない。三人の実力を見込んでおるからこそ、わしはお前たちに任せたいのだ。どうだ? やってくれるか?」
急な話で驚いたが、これから世界を旅する僕としては好都合だ。
ただ、ルナとセレーネは戸惑っているはずだ。
僕は少し考えてから、返答した。
「僕は構いませんが、二人と相談させてください」
「私は大丈夫です」
「私も行かせてください」
僕の予想とは裏腹に、ルナとセレーネは即答した。
「楽しいことばかりじゃないぞ? きっと、辛く険しい旅になると思う」
「大丈夫よ! ファイン君と一緒なら、例え地の果てまでだって行けちゃうわ。それに、一人の方が旅は辛くなると思うわ」
「私もルナと同じ意見ですわ」
ルナとセレーネも、旅に自ら同行したいと志願する。
二人とも旅に出ることに非常に前向きな姿勢だ。
「そうか、助かるぞ。まずは【カグラ公国】に行ってくれ。出発は3日後になるが、構わぬか?」
「はい。3日もあれば十分です」
「それまでは旅の準備じゃな。旅費に関しては、王国から出すから安心してくれ。まずは水の神殿へ行き、水の精霊【ウンディーネ】と契約するが良い。きっと頼もしい味方になってくれるであろう」
「ありがとうございます」
■■■■■
陛下の言う通り、僕たちは精霊ウンディーネの力を借りるべく神殿へと向かった。
【精霊】とは、六大属性を司る力を持つ者のことである。
そのため、精霊は神に近い存在だと言われており、各国の神殿に一体ずつ祀られている。
本体は【精霊界】に存在するため、複数の人間との契約も可能だという。
ただし、精霊と契約するには高い魔力が必要とされている。
そして、魔力の低い者には視認することすら出来ないそうだ。
「すまないな。本当はみんなの出発を見送りたいのだが、私は明日にも部隊を率いて出発せねばならないのでな。責めてものお詫びとして、神殿までは送らせてくれ」
「謝ることはないわ、お父様。それよりもお父様の方こそ、ムリはしないでね?」
「ははっ、ありがとう。でも私はそれ程ヤワじゃない。心配には及ばないよ」
城から歩くこと数分、【水の神殿】に到着した。
神殿は白くて大きな建物であり、周りを水で囲まれている。
中に入ると、神官が迎えてくれた。
「ようこそ。国王陛下から話は聞いております。さあ、こちらへどうぞ」
神官に、神殿の中央へと案内された。
「出でよ、水の精霊ウンディーネよ」
神官が名前を呼ぶと、水流とともに水の精霊【ウンディーネ】が姿を現した。
全身が水のような青色で、その姿はまるで神話に出てくる人魚のようだった。
「私をお呼びですか?」
「彼らに力を貸してほしいのです。何でも、これから世界へと旅立つそうです」
「いいでしょう、私の力をあなたたちに貸し与えましょう。三人には強い魔力を感じます。私の力を利用したいときは、いつでも呼ぶといいでしょう」
そう言うと、ウンディーネは消えていった。
しかし、不思議な力を感じていた。
ステータスウィンドウを開くと、『精霊』という項目があった。
それを確認すると、ウンディーネの文字があった。
僕たちは、確かに水の精霊ウンディーネと契約することができたのだ。
すると、神官がこんな提案をしてきた。
「せっかくですから、ここで『クラスチェンジ』していくのはいかがでしょうか?」
「クラスチェンジ?」
「見たところ、あなた方はなかなかの強さを持っているようですし、クラスチェンジすれば更なる強みやスキルを獲得できることでしょう」
「わかりました。お願いします」
せっかくの機会なので、僕たちはクラスチェンジを行うことにした。
「では、神に祈りなさい。一人につき、新たなクラスは2択に1つです。どちらか好きなほうを選ぶと良いでしょう」
神官の言う通り、目を閉じ強く念じた。
すると、僕の頭の中に【魔法戦士】と【魔術師】という二つのクラスが浮かんできた。
なるほど、現在のクラスが【魔法使い】なので、新クラスも同じ系統のようだ。
僕は、剣と魔法の両面で活躍できるように【魔法戦士】を選ぶことにした。
目を開けると、何となく新クラスになったという気分を感じた。
一方で外見的な変化はなかった。当たり前だが。
帰り道、また三人で会話した。
あと少しで出ていく学生寮への帰り道で。
「ルナとセレーネのクラスは何? 僕は魔法戦士だけど」
「私は【騎士】よ」
「私は【僧侶】です」
「そうなんだ。二人とも、イメージピッタリだね」
「ふふっ、ありがとう」
僕は旅に出る前に、パーティー名を決めようと思った。
「ところで、せっかくだから自分たちのパーティー名を決めようと思うんだが……。パーティー名は【クルセイダー】にしようと思う」
「クルセイダー? それは、ちょっと……。【星の英雄たち】にしましょう」
「スター・ヒーローズ? 何か変な名前……」
「えー?」
「でも悪くはないかな」
「本当に?じゃあ決まりね!」
僕たち三人のパーティー名は、ルナの考えた【星の英雄たち】に決まった。
寮に着き、セレーネが先に部屋へ戻った。
「では、また3日後」
「ああ」
ルナはなぜか部屋へ戻ろうとはせず、寮の前で立ち止まった。
「この寮も、もう少ししたら出ていくのよね」
「ああ」
「寂しくなるわね」
「そうだな」
すると、ルナは僕の前に立った。
「ねえ、ファイン君」
「ん?」
「私、騎士としての誓いを立てようと思うわ」
「どうしたの、急に」
「せっかく騎士のクラスを授かったんだもの。一度はやってみたいの。それに、長らく一緒に旅をするのだから。さあ、早く!」
そう言うと、ルナは自分の剣を渡し、僕の前にひざまずいた。
こういうことは初めてなのでよく分からないが、取り敢えずやってみるか。
僕は剣を抜き、ルナの肩に向ける。
「汝を我が騎士に任命する。弱き者に優しく、強き者には勇ましく、迷うことなく己の信念を貫き通せ」
「私、ルナ・セラフィーは騎士として、あなたの剣となり盾となることをここに誓います」
ルナが立ち上がった。
「……こんな感じでいいのかな」
「うん、いいと思うわ。これからまたファイン君と一緒だね。よろしくね!」
ルナは嬉しそうな笑顔を見せてくれた。
その笑顔は、何だかいつも以上に輝かしく見えた。