第33話 褒賞
僕たちは王都を救ったことで、国王に呼ばれていた。
現国王の名は、【ゼフィール・ヴァン・ローランド】である。
国王は、王都を救った僕に褒賞を与えたいという。
僕たちは、セラフィー公爵に案内されて城へ来た。
そして、玉座の間にて。
玉座には、国王ゼフィールが座していた。
白銀の髪に髭を生やしており、赤いマントと王冠を着用している。
年齢は50歳を超えているという。
今から20年以上前に先代国王が亡くなり、ゼフィールが現国王として即位した。
国王の隣には、大臣らしき人物も立っていた。
セラフィー公爵は国王の前に跪く。
僕たち3人も、それに続くかたちで跪いた。
「陛下、モンスターの群れから王都を守った者たちを連れて参りました。こちらの3人です」
「よく来たな、面を上げよ。……お主が例の巨大竜を倒したという【英雄】か」
「はい。ファイン・セヴェンスと申します」
「ファインよ、この度は魔物の群れから王都を守ってくれたこと、国民を代表してわしからも礼を言う」
「いえ。当然のことをしたまでです」
「はっはっはっ。そう謙遜するでない。お主は失われた魔法と言われる【転移】で、そちらの仲間たちと共に戦場に颯爽と現れ、巨大竜を倒したと聞いておる。お主らがいなければ、今頃【ローランド】はなかったであろう。そのことで、お主らに褒美を与えたいと思っておるのじゃが、何か欲しいものはないかね?」
国王は僕たちに褒美を与えたいと言う。
国王の立場からすれば、当然の行動だと言えよう。
しかし、僕はこう答えた。
「必要ありません。先程申し上げたように、私は当然の事をしたに過ぎません」
「なんじゃ、要らぬと申すのか。ならば、白金貨100枚はどうじゃ? それなら、当分は生活に困らぬじゃろう」
「いりません」
嘘だろ。白金貨100枚ってことは、即ち100万ゴールドもらえるってこと?
僕は平静を装ってはいるが、内心かなり動揺していた。
とは言え、そんな大金を渡されても困るので僕は断った。
今はお金に困っていないし、この前ギルドから報酬をもらったばかりだからだ。
「何と、要らぬと申すのか? こんな大金、そうそう手に入るものではないぞ。ならば、『男爵』の爵位はどうじゃ? これでお主も貴族の仲間入りじゃぞ」
「結構です。僕は今の身分で満足しています」
だからいらないって。
しかも爵位って、お金以上に不要な物だ。
すると、国王は次にとんでもない提案を出した。
「ではこれならどうだ? 我が娘を、お主の嫁にするというのは」
え? 今なんて?
今、とんでもない言葉が聞こえたぞ。
国王の娘……つまり、王女様をお嫁さんに出してくれると?
「「そ、それだけはダメです!!」」
「控えよ、国王陛下の御前ぞ!」
ルナとセレーネが、なぜか息を合わせて拒否する。
そして、今まで無言だった大臣が初めて口を開いた。
「構わぬ。ファインよ、よく考えてみればお主の歳に、嫁はまだ早すぎたようじゃな」
そりゃそうだ。
だいたい僕は将来、冒険者として世界を旅するのが夢なのだから。
そもそも、平民と王女様とでは釣り合わなさすぎるだろう。
「ならば、これならどうじゃ? お主は冒険者としても活動していると聞く。そこで、国からお主らの冒険者活動を『サポート』するというのはどうかの?」
「サポート……ですか?」
「うむ。具体的には武器や消耗品などの物資の無償提供を行うというもの。それに加えて、依頼内容によっては騎士団や冒険者からの人材派遣も行う。悪くはない話であろう?」
ふむ、確かに悪くはない話だ。
その方が大金や爵位よりは、僕にとっては有益な話だ。
「わかりました。その話、ありがたく承諾させていただきます」
「うむ、決まりじゃな。『サポート』を受けたい場合は、ギルドの受付に話すが良い。わしからもギルドマスターには話をつけておく」
「ありがとうございます」
僕はとりあえず了承することにした。
サポートを受けることはないだろうが、いざという時には頼りになるだろう。
そして、白金貨100枚もきっちり渡された。
「ところで、弟のガルムは今頃どこでどうしているのやら……。20年以上前に城を飛び出して以来、一度も帰って来てはおらぬ。噂では王族という身分を隠して冒険者をやっていると聞くのだが……。おっと、お主にこんな話をしても仕方あるまいな。すまんすまん」
国王ゼフィールは、行方不明になっている弟の心配をした。
ローランド王国には、かつて第二王子がいたと言う。
それが、ガルム・ヴァン・ローランドである。
ガルム王子はよく城を抜け出して外に遊びに行っていたと言う。
とは言え、少し話を聞いた程度なので、その点についての詳細は僕にも分からないが……。
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学園に入学してから2週間余りが経過したが、この短期間で本当に色々なことがあった。
盗賊団を捕まえたり、モンスター群を退治したり……。
そして何より、ルナやセレーネを始めとした大切な仲間と出会った。
ディオーランはいなくなってしまったが、僕は彼の分まで生きようと思う。
帰り道、ルナが話はじめた。
「ファイン君、この2週間でいろんな出来事があったね」
「そうだね」
「冒険者として活動したり、決闘したり、稽古つけてもらったり……。何より、ファイン君やセレーネと出会った。私、二人ともっと仲良くなりたいと思ってるわ。だから、これからもよろしくね!」
セレーネも会話に加わった。
「私も皆さんと出会って間もないですが、もっと皆さんと仲良くなりたいと思っております」
僕たち3人は改めて友情を分かち合った。