第32話 グランヴァル帝国
ローランド王国がモンスターの群れに襲われたあの日……。
グランヴァル帝国の帝都中心部にある城にて。
玉座には皇帝【ゴスバール・フォン・グランヴァル】が座していた。
年齢は40歳で、皇帝でありながら武術に長けた男だ。
15年前の王帝戦争終結直後に、父親である先代皇帝が亡くなった。
その際にゴスバールは皇帝の地位に就いた。
それからゴスバールは世界を侵略すべく、帝国軍の軍備増強に努めてきた。
そして、皇帝の前には屈強そうな男女5人が立っていた。
どうやら、彼らは将軍クラスの人物のようだ。
扉が開き、玉座の間に一人の兵士が入ってきた。
「陛下、例の者を連れてまいりました」
「ここへ通せ」
「はっ」
兵士に連れられて、一人の人物が入室した。
その者は漆黒のローブを全身に纏い、フードを深く被っているため顔はよく見えない。
フードの人物は、皇帝の前に跪いた。
「面を上げよ。……戦況はどうだ?」
「ローランド王国の王都エストに仕向けた魔物群ですが、王国騎士団の抵抗が予想以上に激しかったため、全滅しました」
「ほう」
「そこで、こちらの切り札となる【ダークドラゴン】を召喚しました。しかし、突如現れた謎の3人組によって、ダークドラゴンは瞬く間に倒されてしまいました。雑魚共が倒されるのは想定していましたが、ダークドラゴンまで倒されるのは、正直予想外でした」
「ふん、役立たずめ」
「おやおや、それは心外ですね。“我々”の力を侮ってもらっては困ります。あなたには、世界を掌中に収めてもらわねばなりません。我々はそのための『協力者』なのですから。では【あのお方】の為に、今後とも頼みますよ。ゴスバール皇帝」
フードの男は慇懃無礼な態度を取っていた。
男は意味深な発言をすると、身を翻した。
その際、男は不敵な笑みを浮かべるが、口元に八重歯が見えた。
また、フードの隙間から赤色の瞳がチラリと見えた。
そして、男は玉座の間から忽然と姿を消した。
「ところで、前線のレオナルドは?」
「モンスター全滅により、作戦は中止です。レオナルド将軍率いる部隊は、今頃は撤退しているはずです」
「そうか」
ゴスバールはレオナルドという人物の所在を問う。
すると、五人のうちの一人の男が答えた。
その男の名は、【炎のヴォルト】。六大帝将の一人である。
その身体は筋肉質で、大剣を使って戦うのが得意な戦士タイプである。
好戦的な性格ではあるが、根は真面目である。
【六大帝将】とは、皇帝が厳選した六人の将軍のことで、帝国軍の戦力の要となる人物たちのことである。
炎のヴォルトは自らの疑問を、皇帝に問いかける。
「陛下、なぜあのような者に頼るのですか? 我ら六大帝将の手にかかれば、あんなヤツに頼らなくとも世界は……!」
「ヴォルトよ、今後の戦いは貴公の頭のように単純ではない」
「くっ……」
「ワシは15年前の敗戦で学んだ。幾ら最強の帝国でも、その力には限界がある。だから、あのような『協力者』が必要なのだよ」
「はっ、浅慮でした」
「だが、ワシはあくまでもあやつを利用しているに過ぎん。ワシは利用できるものは何でも利用するつもりだ」
皇帝ゴスバールは玉座から立ち上がった。
「ワシは世界をこの手に収める! 父が成し遂げられなかった、『世界の支配者』にワシはなる!!」
ゴスバールは世界を支配することを誓う。
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一方、その頃……。
ローランド王国の王都エスト外れにて。
森の中では白髪に白髭の老将軍が、帝国軍の騎馬隊を率いて待機していた。
その名は【光のレオナルド】で、六大帝将の筆頭である。
レオナルドは帝国に30年以上仕えている経験豊富な老将軍で、年齢は50歳を超えている。
彼には派手な功績はないが、基本に忠実な戦い方を常に心掛けている。
そのため、年老いた現在でも帝国軍の戦線を支える重要な人物である。
その一方でレオナルドは好戦的な性格ではない為、今回の作戦には内心反対的だった。
今回の作戦は、モンスター群が王国騎士団を殲滅もしくは疲弊させたところで、帝国軍が街を一気に制圧しようと言うものだった。
しかし、ファインたちがドラゴンを倒したことにより、帝国軍は王都に攻めるのが困難になった。
一人の帝国騎士がレオナルドに話しかけた。
「将軍、モンスター群が王国騎士団によって全滅したようです。“作戦”は中止です」
「そうか。全軍、速やかに撤退せよ」
「はっ!」
作戦中止の命を受けて、レオナルドは内心安堵する。
レオナルドは馬を操り、帝国に帰還しようとした。
「おや?」
すると、森の中で一人の若者が傷だらけで倒れていた。
「魔物たちに襲われたのか?」
レオナルドはその若者を連れて、帝国に帰った。