第31話 決着の時
アッカスは【火炎爆弾】を放った。
しかし、僕はギリギリで回避する。
その直後、僕の数メートル後方で火の玉は爆発した。
【火炎爆弾】とは、火属性の上級魔法である。
巨大な火の玉を放ち、着弾時に爆発を起こす強力な魔法だ。
ただし、消費精神力が多いうえに、弾速も遅い。
僕は火炎爆弾を回避したが、アッカスはすかさず右手でパンチする。
アッカスの拳は僕の右頬に命中した。
「ぎゃあああああああっ!!!」
叫んだのは、アッカスだった。
アッカスは苦痛のあまり、表情を歪める。
「き、貴様、何をしたんだ!? なぜボクの方が、ダメージを受けてる!?」
「教えてやろうか。僕は顔面の周りに【結界】を張っていたんだ。それも鉄以上の強度のな。その結界に攻撃した場合、衝撃は全て自分に返ってくる。言いたいことはわかるな?」
「!?」
「今のリアクションを察するに、君は全力でパンチしてきたようだな。学園に防御結界があって良かったが、これが実戦の場だったら君の手は骨まで砕けていただろうな。ところで、【火炎爆弾】まで使えるとは思わなかった。少しは褒めてやるよ。だからもう一度、撃ってこい。僕は、【火球】で対抗するよ」
「ハッ、何だって?【火炎爆弾】に【火球】で対抗するってか!? 面白い、やってみろよ!! 負けるに決まってるがなぁ!!」
アッカスは長ったらしい詠唱をした後、【火炎爆弾】を発射した。
僕も予告どおりに【火球】を放った。
お互いの魔法が闘技場の中央でぶつかる。
しばらくすると、爆発が起きた。
「なにぃ!? 【火炎爆弾】を【火球】で相殺しただと!?」
「違うな。よく見ろよ」
【火炎爆弾】は消滅したが、僕の【火球】はまだ消えていなかった。
いや、それどころか勢いは減衰することなく、そのままアッカスに命中した。
「グハッ!! バ、バカな!? 下級魔法が上級魔法に勝るはずはないのに!!」
そう、アッカスの言うことは正しい。理論上だが。
では、なぜ下級魔法が上級魔法に勝つのかと言うと、単純に魔力の差だ。
弱い【火球】でも、魔力を込めれば威力は高くなる。
一方、アッカスも上級魔法【火炎爆弾】を習得してはいたが、肝心の魔力は高くなかったようだ。
「それじゃあ、そろそろフィニッシュと行こうか」
僕は右手を前に出した。
火の玉が現れ、どんどん大きくなっていく。
「なにぃ!? バカな!? なぜ貴様が『それ』を使える!? しかも、無詠唱で……!!」
「忘れたのか? 僕は【魔法使い】だぞ。出せて当然だろう。お前にできて、僕ができない訳がないだろう? ところで、さっきお前はルナに対して『偽りの貴族』だとか何とか言っていたな。そのことで僕は相当ムカついているんだ。僕のことを悪く言うならまだしも、友達の名誉を傷つけられたことを僕は許さない」
「ま、待ってくれ!! あれはちょっとした冗談のつもりだったんだ!! ボクには悪気はなかったんだよ!! だ、だから、許してくれーーッ!!」
「冗談? 今更冗談で済ませられると思っているのか? 言っておくが、僕はお前を許す気はないんだ。それじゃあ、負けた後できっちりルナに謝罪しておくんだ」
「ま、待て!!降参す……」
僕は【火炎爆弾】をアッカスに向かって放った。
「ぎゃああああああああああああ!!」
【火炎爆弾】はアッカスに着弾すると、そのまま爆発した。
そして、アッカスは場外に吹き飛んだ。
アッカスは衝撃で気絶してしまった。
そう言えば、アッカスは直前に何か言っていたような……。まあいいか。
「そこまで! 勝者、ファイン・セヴェンス!!」
「おおおおおおおおおお!!」
当然の結果ではあるが、僕はアッカスに勝った。
観客席からも勝鬨の声が上がった。
その後、アッカスはルナに暴言を吐いたことを謝罪した。
そして、アッカスは決闘で負けたことにより、取り巻きたちからも見限られたようだ。