第29話 災害級
ファインたちが去ったあと、ディオーランたちは残存勢力の掃討を行っていた。
モンスターたちはたまらず、森へ逃げて行く。
「逃げるだと? 追いかけるぞ、アッカス! このまま生かしておいて、また後で被害を出すわけにはいかない!」
「おう!」
追いかけるディオーラン達。
ディオーランは前線で剣を構えて戦う。
森の奥から、またモンスターたちが現れる。
「チッ! まだこんなに魔物がいたのか! アッカス! 援護を頼む! ……アッカス?」
ディオーランはアッカスに援護を求める。だがここで、異変に気が付く。
近くには、一緒に戦っていたはずのアッカスの姿はない。
すると、突然後ろで爆発が起きる。
「ぐわっ!?」
一瞬、何が起きたのかと思うディオーラン。
後ろを振り返った。
やったのは……アッカスたちだった。
「アッカス……!? なぜっ……」
「ギャハハハハ! まだわからないのか、ディオーラン! ボクはなぁ、お前が気にくわないんだよ!! お前はいつもいつも、ボクの『先』を行く。昔っからそんなお前のことが気に入らなかったんだよ、ディオーラン!!」
そう、アッカスはまだディオーランを認めてはいなかった。
アッカスたちはディオーランに向けて火球を放ち続ける。
ディオーランは心の中で思った。
(クッソォ、やっぱり、平民と貴族は分かり合えないのかッ……!!)
ディオーランは自然と悔し涙が流れてきた。
アッカスは最後に、火属性上級魔法【火炎爆弾】を放った。
ディオーランは凄まじい火炎に焼き尽くされてしまった。
一方、その頃……。
王都の北側にて。
白金騎士にして、ローランド王国の騎士団長【アポロ・セラフィー】は、剣と盾を携えて応戦していた。
そこには、ギルドマスターのジョージも一緒だった。
ジョージは両手に大剣を構えていた。
王国騎士団と冒険者同盟は総合的に見れば、辛うじて互角以上に戦っていた。
しかし、怪我人も多数出ており、中には戦えない程重傷の者もいた。
死者が出ていないのは、責めてもの救いだった。
アポロとジョージは、往年の技量を以てなんとか無傷で済んでいる。
それでも、モンスターの大群を相手に、二人はやはり消耗しつつあった。
冒険者の中にはヒーラーも数人いるが、ローランド王国は魔法よりも剣を得意とする者ばかりで、ヒーラーの人数は圧倒的に足りていない。
「ギルドマスター、今までこの土地にこのようにモンスターの群れが押し寄せてきたことがあったか?」
「私の知る限りでは一度もありません。となるとやはり、王都を狙う“何者”かの仕業かと」
「ギルドマスターもやはりそう思うか」
アポロたちも『この現象』が誰かの仕業だということは薄々勘づいてはいる。
……この戦いの様子を、何者かが離れて見ていた。
その者は、フードを深く被っており、顔は見えない。
戦っているうちに、同盟軍はなんとか魔物の群れを退けた。
そう思っていた矢先、突然大きな地響きが起きた。
「な、なんだッ!?」
「セラフィー将軍!! あ、あれを……!!」
「!?」
一人の騎士が、とある方向を指差して伝える。
漆黒で巨大なドラゴンが北西から現れた。
なぜこんな場所に?
巨大ドラゴンは、5年前にアポロが戦ったものよりも3倍大きい。
しかし、この大陸にこんな個体はいないはずだ。
ドラゴンは足音をたてながら、近づいてきた。
「な、なんなんだ、アイツは!?」
「あんな化け物が現れるなんて、聞いてないわよ!!」
「怯むなッ!! 弓兵と魔法使いはドラゴンに狙いを定めろ!! 何としても王都を死守するのだ!!」
「ギルドマスター!」
「将軍、やはり、誰かが魔物たちを仕向けているのは間違いないないようです。そうでなければ、あんな“化け物”が現れるはずありません。……撃てーーッ!!」
ギルド長の命令で、アーチャーと魔法使いが攻撃する。
「そ、そんな……!!」
「ダメだ、やっぱり効いていねぇ!」
矢と魔法の攻撃に、竜は無傷である。
同盟軍には動揺の声が上がった。
「怯むな!! 再度矢と魔法を装填せよ!!」
同盟軍は再度攻撃する。がやはり駄目である。
ドラゴンは口を大きく開け、ブレスを吐いた。
青白い炎が目前まで迫ってきた。
もうダメかと思った、次の瞬間……。
炎のブレスは目の前で防がれた。
その直後に、無数の稲妻が竜めがけて落ちてきた。
一体何が起こったのかと皆思った。
「お父様、大丈夫!?」
アポロの後ろから、少女の声が聞こえた。
「その声……ルナ!?」
アポロが後ろを振り返ると、3人の少年少女たちがいつの間にか立っていた。
そう、ファインたちが来たのだ。
■■■■■
僕、それにルナとセレーネの3人は巨大竜のもとへ【転移】した。
僕たちの目の前には、セラフィー公爵がいた。
竜は口を大きく開け、息を吸い込んだ。
「セレーネ、結界を!」
「はい」
僕が指示を出した直後、竜は口から青白い炎のブレスを吐いた。
しかし、セレーネの結界によりブレス攻撃を無効化することに成功する。
その直後、僕が【稲妻斬撃】で竜を攻撃する。
効いてはいる。が、ダメージが浅い。
もっと連続して攻撃したいところだが、確実にダメージを与えられる稲妻斬撃は連発できない。
とはいえ、通常の魔法ではあの巨大竜に大したダメージは与えられないだろう。
「お父様、大丈夫!?」
「その声……ルナ!?」
ルナは嬉しそうにセラフィー公爵のもとへと向かった。
「お父様! 良かった、怪我はないようね?」
「あ、ああ。それよりどうしてここに?」
「ファイン君の魔法で、私たち3人で転移して来たのよ!」
「ファイン君が? どおりで……」
「感動の再開は後だ、ルナ! セレーネは負傷している人たちへ回復魔法を!」
「はい!」
僕が回復魔法の指示を出すと、セレーネは杖を両手で構え天に掲げた。
「特級治癒!」
辺り一帯に緑色の光が広がる。
「み、見ろ! 俺たちの怪我が完全に治ったぞ!」
「女神様……!」
「あ、ありがたや……!!」
騎士や冒険者たちの負傷が完治した。
感動の声が多数上がった。
「皆さんは後ろへ! 行くぞ、ルナ、セレーネ!」
「「ええ!」」
「ルナは前衛、セレーネは後方支援を頼む!」
僕が前へ出ると、ルナとセレーネはそれに続いた。
「いいか、アイツの弱点は『頭部』だ。それ以外の部位に攻撃は効かないから、気をつけてくれ」
「わかったわ」
「それから、アイツの弱点属性はドラゴンだから、おそらく【水属性】だと思う」
「オッケー!」
ルナは【氷の刃】を竜に向けて放った。
しかし、ドラゴンには腕で防がれた。
続けて、僕は【睡眠】をドラゴンに向かって放つ。
しかし、効いていない。やはりこれだけ巨体だと状態異常は効かないみたいだ。
今度はドラゴンが、その巨大な足で踏みつけてきた。
僕は後ろに回避した。
ルナは回避も兼ねて、高くジャンプした。
「はああああっ!!」
そして、ルナはドラゴンの顔の前まで肉薄し、そのまま斬りかかろうとしていた。
しかし、ドラゴンはまたブレスを吐こうとしていた。
「しまった!」
炎のブレスにルナが飲み込まれたかに見えた。
しかし、間一髪のところで僕が【瞬間移動】し、ルナを連れ戻した。
「迂闊だぞ、ルナ」
「ありがとう、ファイン君。気を付けるわ!」
ルナは【風斬刃】で攻撃する。風の刃がドラゴンに向けて3発放たれた。
しかし、ドラゴンは両腕で身を守ったので、致命傷には至っていない。
今度はドラゴンが口から紫色の霧状ブレスを吐いた。
「セレーネ!」
「はい!」
セレーネの結界で霧状のブレスは防がれた。
今のは見た目からして、猛毒のブレスであろう。
もし吸っていたら、全身を猛毒に侵されて死んでいただろう。
それにしても、セレーネは非常に頼もしい存在だ。
自分の役割をきちんと果たしている。
もしセレーネがこの場にいなければ、僕とルナの負担はより大きかったであろう。
いや、今はそんなこと考えている場合ではない。目の前の敵に集中せねば。
僕はドラゴンの頭部に向かって、【氷の槍】を3発放った。
しかし、またドラゴンにガードされた。
ここで、僕はある発見をする。
「そうか! やっぱりだ!」
「どうしたの? ファイン君」
すると、ドラゴンは激しく咆哮してきた。
凄まじい轟音と振動が、心臓にまで響いた。
僕は味方を覆う【防音結界】を張った。
なんとか、ドラゴンの咆哮を防ぐことが出来た。
しかし、僕の精神力は残り少なくなり、少しの疲労感と苦しさを覚えた。
「くっ、魔法を少々使い過ぎたか……!」
「ファイン君、大丈夫!?」
「ああ、何とか僕は大丈夫だ。それよりも聞いてくれ。アイツの頭部を狙うと、必ず腕で防御する。したがって、普通に戦っても致命傷を与えるのは難しい」
「どうするの?」
「そこで、ある“作戦”を思いついた。まず僕が魔法でヤツの頭部に攻撃する。その直後にルナ、君の『とっておき』の技をアイツに放つんだ!」
「えっ?」
「僕との決闘で、君が最後に放った『あの技』をあのドラゴンに向かって放つんだ!」
「そうか! それだわ! やってみるわ!」
作戦会議終了後、ドラゴンは再び炎のブレスを吐こうとしていた。
その時だった。
同盟軍が矢と魔法を次々とドラゴンに向かって撃ち出した。
「矢と魔法をありったけ撃ち込めーッ!! 彼らを援護するのだ!!」
ギルドマスターが同盟軍に指示を出していた。
すると今度は、セラフィー公爵が走り出し、僕たちの前へ出た。
「剣技【大地裂斬】!」
セラフィー公爵は、右手に持っていた剣を思いっきり地面に突き刺した。
地面に亀裂が入り、そのままドラゴンに向かって行き、足元で地面が盛り上がった。
そして、ドラゴンはバランスを崩した。
「お父様!」
「子供たちばかりに負担はかけさせないさ! 行け、今だ!!」
「お父様、ありがとう!」
ドラゴンは何とか踏みとどまるも、僕はこの隙に魔法を放った。
「火球!」
僕が放ったのは、下級魔法だ。
下級魔法ではあのドラゴンに致命傷を与えられない。
しかし、それでいい。
ドラゴンに対し、少しでも隙を作れればそれでいいのだ。
ドラゴンは腕で火球を防御した。
しかし、その直後、ドラゴンの頭上に無数の剣が現れた。
ドラゴンもそれに気づいた。
だが、時すでに遅し。
「天使の刃!」
ルナの掛け声とともに、無数の剣がドラゴンめがけて降り注いだ。
ドラゴンは防御が間に合わず、頭部に剣の弾幕を喰らってしまう。
「ギャアアアアアアアアア!!」
ドラゴンはたまらず苦痛の叫び声をあげる。
だが、これで終わらせる訳にはいかない。
僕は右手をドラゴンに向かってかざした。
すると、魔法陣が現れ雲の中を稲妻が走った。
僕は手から全魔力を放出した。
「稲妻斬撃!!」
雲から稲妻が落ち、ドラゴンを何度も何度も直撃した。
「グオオオオオオオオオオオッ!!」
ドラゴンは断末魔の声を上げ、そのまま地面に倒れた。
僕たちは、ついに巨大ドラゴンを倒すことに成功し、王都を守ることに成功したのだ。
「オオオオオオオオオーーッ!!」
同盟軍からは勝鬨の声が上がった。
だが、僕はついに魔力切れを起こし、倒れそうになった。
しかし、ルナとセレーネが僕を支えてくれた。
「ファイン君、大丈夫!?」
「ああ。ありがとう」
「あなたは無茶をし過ぎです!! でも、みんなあなたのお陰で救われたんです」
「それを言うなら、セレーネの方だろう?セレーネの回復魔法でみんなの怪我が治ったんだ」
「何をおっしゃいますか。【特級治癒】は、ファイン様が教えてくれた魔法です。ですから、ファイン様が救ってくれた事実に変わりありませんわ。ありがとうございます」
「そうか。そうだね」
会話をしていると、セラフィー公爵が近づいて来た。
「みんな、よく頑張ったな。お疲れ様」
「セラフィー公爵、ありがとうございました。あなたの援護のお陰でなんとか勝てました」
「何を言う、勝ったのは君たちの実力だよ。決して、私の力などではないよ。見てごらん、みんな君たちを【英雄】と讃えているよ」
「彼らが街を守ってくれたんだ!」
「英雄様ー!!」
振り返ると、同盟軍が僕たちのことを【英雄】と呼んでいた。
僕はそのことが照れくさかった。
■■■■■
戦闘終了後、アッカスたちと合流した。
しかし、そこにディオーランの姿はなかった。
「ディオーランは?」
「残念ながら……ディオーランは死んだよ」
「え……?」
「あの後、森へモンスターの残党を追撃に行ったんだ。だが、森に強力なモンスターが現れ、ディオーランを焼き払ったんだ。そいつはあまりに強くて、ボクたちは逃げるしかなかった。ディオーランが未だに帰ってこないということは……」
「そんな……ウソでしょ!?」
「残念ながら、本当のことだよ。すまない、ボクの力不足だ」
それから、僕はディオーランの帰りを待った。
しかし、いつまで経ってもディオーランはかえってこなかった。
僕はディオーランの言葉を思い出した。
『例え俺が死んでも……俺のこと、忘れないでくれよ』
僕は友の死に、人知れず涙した。