第2話 小さな村の英雄
「ハーッハッハッハッ!! 昨日はこの村のカギが、オレ様の可愛い子分たちを痛めつけてくれたそうだな!? そのガキはどこだ!?」
「おお、おやめくだされ!!」
村長たちが野盗たちの対応をしていたが、危害を加えられるのはもはや時間の問題だろう。
僕は急いで野盗たちのもとへ駆けつけた。
「僕に何か用か?」
「お前がオレの子分たちを痛みつけたクソガキか!? このドブーラ様の顔に泥を塗りやがって!! お前を痛みつけてから、奴隷商に売ってやるぜ!!」
ドブーラと名乗った野盗の親玉は、啖呵を切った。
「おお!おやめくだされ!! この子は何も悪くはないのです!!」
「村長、下がって。やれるもんなら、やってみなよ」
僕はそう言うと、剣を抜いて前に出た。
「ハッ! 小僧のクセに肝が据わっているな。オメーらやっちめえ!!」
「へい!」
野盗たちが僕に襲い掛かろうとしていた。
しかし……。
「お、おい! おめーら、一体、どうしちまったんだ!?」
「なんで急に倒れたんだよ!?」
野盗の9人中4人が突然倒れた。
予想外の出来事に、ドブーラを含めた野盗たちは困惑する。
「テメーの仕業か!! 一体、何をしやがったッ!!」
「教えてやろうか。僕が今、魔法で睡眠させたんだ。でも、死んではいないから、安心しなよ」
「調子に乗るなよクソガキがッ!! こっちのほうがまだ人数は有利なんだよ!! オメーら、やっちめえ!!」
「へい!」
ドブーラの合図とともに、残りの野盗どもが持っていた武器で襲い掛かってきた。
しかし、僕はそいつらを難なく蹴散らした。
「ぐへぇ! な、なんなんだコイツ……ただのガキじゃあ……ねぇ……」
残るはボス一人。
しかし、ここで問題が起きた。
「いやあああああっ!!」
女の子の悲鳴が聞こえた。
嫌な予感がして振り返った。
「ハーッハッハッハッ!! 動くなよ、テメーら!!」
「「「しまった!」」」
なんとドブーラが、小さな女の子を人質に取っていたのだ。
ドブーラは短剣を構えていた。
「おお、サリー!!」
村長も心配した。
「小僧、武器を捨てろ」
なんてことだ。僕が戦っている隙にヤツは行動を起こしていたのだ。
さすがに1対4では時間がかかり過ぎたか。
いや、それよりも女の子を助ける方法を考えなくては……。
僕はドブーラの言う通り、とりあえず剣を落とした。
「お前が悪いんだぜ、小僧。オレ様を怒らせたお前に責任があるんだぜ。……おっと、妙な動きをするんじゃねーぜ?少しでも動いたらこのナイフをこの小娘にブッ刺すッ!!」
「いやああああ!! やめてえええええ!!」
「や、やめろッ! 僕が悪かったッ! 何でもする! だから、その子を離してくれー!!」
僕は露骨に懇願するような演技をした。
「おっ? 随分素直じゃねぇか。だが、その態度、どこか怪しいな。ひょっとすると、オレを騙そうとしてんじゃねぇだろうな? このオレ様を策に嵌めようとしているなッ!?」
なるほど、鋭いな。こいつはそれなりの修羅場を潜り抜けてきたと見た。だが……。
「いいや。もうお前は、僕の策に嵌まっているのさ」
僕はニヤリと笑い、ドブーラに言ってやった。
そして、ゆっくりと右手を前に出した。
「テメー、動くなっつったよなァ!? このナイフを小娘にブッ刺してや……ッ!? な、なんだッ……!? 右手が動かねえ!? ……ハァ!?」
ドブーラは自身の右腕を見て驚愕した。
なんと、右腕には蔦が絡まっていたのだ。
実は僕が土魔法【生命創成】で蔦を生やし、こっそりドブーラの両腕と両脚に絡ませたのだ。
つまり、先程やった僕の演技は、ドブーラの注意をそらすために過ぎない。
「小僧、何をやったッ!?」
「だから言っただろう。お前は僕の策に嵌まっていると。それより、その子は返してもらうぞ。【瞬間移動】」
僕は右手を伸ばし、サリーを引き寄せた。
サリーは僕に抱き着いた。
「ファイン兄ちゃん!!」
「よしよし、もう大丈夫だからね」
「兄ちゃん、助けてくれてありがとう!!」
僕は動けなくなったドブーラにゆっくりと近づいた。
ドブーラは僕を見て、怯えていた。
「や、やめろ!さっきは悪かった! だ、だから、許してくれー!!」
「こう見えて僕は今、かなりムカついているんだ。だから僕はお前を許さない」
僕は自身に【身体強化】をかけ、ドブーラの太い腕をへし折った。
「ぎゃああああああ!!!」
「二度とこの村に近づかないと誓え。でなければ次は、腕の一本や二本じゃ済まされないぞ?」
「ち、誓います!! 誓います!!」
「よし、部下たちが目を覚ましたら、彼らにも言ってやるんだ。いいな?」
「は、はいっ!!」
「よし、【眠れ】」
僕はドブーラを眠らせた。
「や、やった! やったぞ!! ファインが野盗たちをやっつけてくれたぞー!!」
「ファインの兄貴! やっぱ兄貴はすげーよ!!」
「兄貴! 尊敬してます!!」
「ファインはこの村の【英雄】じゃ!!」
「え、英雄……!? そんな大げさな。僕は当然のことをしたまでだよ」
「何を言う。お前がいたおかげでわしらは無事生き延びたのじゃ。それを英雄と言わずして何という?」
「そ、そうか。でもみんなが無事で良かったよ」
村のみんなが僕を称えていたが、僕は照れくさかった。
その後、偶然通りかかった冒険者たちにドブーラたちは拘束された。そして、王都の冒険者ギルドに引き渡されたという。