第28話 モンスターの群れ
第1章も、いよいよ佳境です。
今回の話は、考えるのに少し苦労しました。
いつものように学園生活を送る僕たち。
今日は地理の授業だ。
「私たちの暮らす土地は【エノウ大陸】と呼ばれています。大陸の南東部に私たちが住む【ローランド王国】。その北に【グランヴァル帝国】があります。大陸中央部に【カグラ公国】。南部に緑の王国【フォースター王国】。南西部に砂漠の国【ジャズナ王国】。そして、北西部に氷と雪の【アンシャント地方】があります。また、エノウ大陸北東の海には、魔族が住んでいたとされる【魔大陸】があります。今度の小テストに出るので、皆さん復習しておいてくださいね~」
授業が終わった。
授業後、ルナはユウリ先生に話しかけた。
「ユウリ先生」
「はい、何でしょう」
「先生は、世界を旅したことはありますか?」
「ありますよ。私はフォースター王国に行ったことがあります。フォースター王国は自然豊かで素敵な国でしたよ。ご飯も美味しかったですし、ルナさんもいつか行ってみてください」
「はい! フォースター王国、いつか行ってみたいです!」
僕とディオーランは、その会話を傍で聞いていた。
ルナとユウリ先生は笑っていた。
だが、そんな二人の笑顔を曇らせる報告が入る。
「ユウリ先生」
「レナ先生、どうなさいましたか?」
「王都の北にモンスターの大群が迫ってきているようです」
「あら、怖いですね……」
「中にはドラゴンやミノタウロスなど強力なモンスターもいるようです。今は王国騎士団や冒険者たちが応戦しているので大丈夫ですが、念のため生徒たちには学園内にとどまるように伝えておいてください」
「わかりました」
モンスターの大群が王国に迫ってくることは、今まで一度もなかったはず。
ましてや、ドラゴンやミノタウロスなどの強力なモンスターが急に現れることなど、あり得ないはずだ。
……嫌な予感がする。
「た、大変です!!」
すると、別の教員が慌てた様子で駆けつけた。
「たった今、早馬が来て、街の南側からもモンスターの群れが迫ってきているとの報告が!!」
「何ですって!?」
「騎士団と冒険者の殆どは王都の北側に行っており、南側は完全に手薄とのこと! 騎士団の一部を向かわせるとのことですが、このままでは……」
「ユウリ先生」
「はい」
「至急、生徒たちを連れて避難してください。教員は学園に残り、迎撃に当たります」
「そんな! 無茶です!!」
「そんなことはわかっています! でもここで教員たちが応戦すれば、時間稼ぎくらいにはなります。その間に生徒たちを安全な場所へ!」
しかし、多勢に無勢。
教員たちとて、モンスターの大群と戦って勝てる可能性は皆無だということはわかっているはずだ。
だが、僕が戦ったら……?
僕は下級魔法を初め、空間魔法や稲妻斬撃、そして無詠唱などあらゆる魔法をユリウスから受け継いでいる。
それに、セラフィー公爵も言っていた。僕は『特別な存在』だと。
僕ならやれる、モンスターの群れを相手にできる。
そのため、僕はモンスターの群れを迎撃すべく、王都の南側へと転移した。
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僕は王都を囲む壁の外へと来ていた。
門兵はとっくに逃げた模様。
さすがに少人数でモンスターの群れと戦うのは怖かったようだ。
向こうからモンスターの大群が近づいてきているのが見えた。
ゴブリンやコボルトなどの下級モンスターから、ベヒーモスやミノタウロスなどの上級モンスターまで様々だ。
詳細は不明だが、ざっと見ただけでも百体以上はいるだろうか?
その光景は異常としか言いようがなく、間違いなく王都を狙う何者かの陰謀によるものだろう。
おそらくはグランヴァル帝国か、あるいは別の誰かの仕業だろう。
考えてもしょうがないので、僕は右手を上にかざした。
この攻撃で、僕はできる限り戦力を削るつもりだ。
空全体を覆う雷雲が現れた。
「稲妻斬撃!!」
モンスター群の中央に向かって、稲妻が何度も直撃した。
これで、敵の半分は死滅した。
逆に言うと、半分はまだ生き残っているということだ。
生き残ったモンスターたちは僕を敵と認識したようで、走って向かってきた。
稲妻斬撃は強力な反面、魔力消費量が激しく連発はできない。
また、発動に少し時間がかかるのも難点だ。
そのため、僕は剣や連発できる下級魔法などを駆使して戦うことにする。
「火球!」
僕はまず、ゴブリンやコボルトといった下級モンスターから倒すことにした。
体力のある上級モンスターよりも、下級モンスターから優先的に倒した方が敵の総戦力を低下させられると考えたのだ。
しかし、敵の数が一向に減らない。
そこで僕はモンスター群の懐に入り、剣で敵を倒すことにした。
所詮、僕にとっては雑兵の集まり。
上級モンスターといえども、一体一体に大した強さはなく、次々と斬り伏せた。
これで十体程の敵を倒したはずだ。
しかし、ここでアクシデントが起きた。
「しまったッ!!」
一体のモンスターが王都へと向かった。それはベヒーモスだった。
ベヒーモスは四足歩行のためか、巨体の割に足が速い。
そして、攻撃力と防御力が高いのは言うまでもない。
僕はベヒーモスの前に瞬間移動し、眉間に氷魔法を放った。
「行かせるかッ! 氷の槍!」
ベヒーモスは倒れた。
どんなにタフな奴でも、頭部が弱点になっていることが多いのである。
だが、今のベヒーモスの行動で確信が持てた。
やはり“誰か”がこのモンスターたちをけしかけている……と。
その証拠に、ベヒーモスは戦っている僕を無視して街へ向かった。
そうでなければ、迷わずに僕を攻撃してくるはずだ。
しかし、普通の人間にはこんなにモンスターの大群を操るのは、不可能なはずだ。
モンスターを呼び寄せる道具でも使ったのか。あるいは……。
魔族。
その言葉が僕の脳裏をよぎった。
そして、今の出来事をきっかけに、周りにモンスターたちが集まってきた。
「まだこんなにいたのか!」
初めのほうこそ、僕は善戦していたはずだった。
しかし、敵の数が多いので、僕は次第に追い詰められて行った。
そして、一体の敵を斬り伏せたところで、背後に気配を感じた。
後ろにいたのは、ミノタウロスだった。
ミノタウロスは右腕を大きく上げ、斧を振り下ろそうとしていた。
僕は振り返り、反撃しようとしていた、その時だった。
「ギャアアアアアアアアア!!」
突然、ミノタウロスの右腕が切断されたのだ。
ミノタウロスは悲痛な叫び声を上げていた。
「モンスター相手なら、手加減せず全力で戦えるわね」
その声には聞き覚えがあった。
声が聞こえた直後、ミノタウロスは切り裂かれてバラバラになった。
普通なら返り血を浴びるところだが、僕は結界でそれを防いだ。
「氷結剣!」
現れたのは、ルナだった。
ルナは氷結剣で周囲のモンスターたちを凍らせた。
「もうっ! 私たちを置いて行くなんて、水臭いじゃない!」
「ルナ……!? ダメだよ、君のような女の子がここへ来ては……」
「女の子だからって甘くみないでよね! それにここへ来たのは私だけじゃないわ」
振り返ると、ディオーランとセレーネ、そしてなぜかアッカスとその取り巻き達もいた。
「よう、ファイン。無事でなによりだぜ!」
「私もお供させていただきますわ、ファイン様」
「みんな……ありがとう!」
アッカス達はさて置き、ディオーランとセレーネが加わってくれたのは心強い。
すると、アッカスはディオーランに近づいた。
「ディオーラン、今まですまなかった!」
なんと、アッカスは頭を下げ、ディオーランに謝罪したのだ。
「今までボクがキミにしてきた仕打ちは、到底許されるものとは思ってはいない。けれど、ボクは心からキミに謝罪するよ。本当にすまなかった!」
「アッカス……もういいんだ。それよりも、早くあのモンスター共を倒して、平和を取り戻そうぜ!」
「ああ!」
ディオーランたちは前を向いた。
「さあ、行こうぜファイン。俺たちが集まれば、あんなモンスターなんか目じゃないぜ!」
「ああ。みんな……行くぞっ!」
僕、ルナ、ディオーラン、アッカスとその取り巻きたちは前線で戦った。
僕は剣で戦いつつ、魔法を併用して敵を蹴散らす。
ディオーランも剣を使い戦う。
ルナは剣技を駆使して戦った。
セレーネは補助魔法で後方から援護に徹する。
セレーネのクラスは【癒し手】だ。
実はこの前、セレーネは強くなりたいと僕に頼んだので、こっそり猛特訓していた。
その甲斐もあって、セレーネは無詠唱やより多くの回復・補助魔法がつかえるようになった。
「稲妻撃!」
「氷結剣!」
この辺りの強力なモンスターはあらかた倒した。あとはゴブリンなど下級モンスターが数体残るのみ。
ところが、遠くから地響きが聞こえてきた。
ドスン、ドスンと、明らかに巨大なモンスターの足音だった。
しかし、見た限りでは近くに巨大モンスターの姿は見当たらない。
そこで、僕は上空から確認することにした。
「あれは……!!」
王都の北西に、巨大なドラゴンの姿を確認した。
僕は降りて、仲間たちに報告した。
「北西の方角に、巨大なドラゴンが現れた」
「なにっ!? 本当か、それは……」
「だが、ここからでは走っても間に合わない。そこで、転移して何人かで向かおうと思うのだが……」
僕がそのあとの発言を躊躇うと、ディオーランは察したのか口を開いた。
「行けよ、ファイン。止められるのはお前とルナだけだ」
「ディオーラン!?」
「ここは俺たちに任せな。雑魚相手なら、俺とアッカスくらいにもできる。そうだろ?」
「ああ、もちろんだ!」
「ディオーラン、アッカス……ありがとう! 後は頼んだ!」
「おうっ! 生きて帰れたら、うまい飯を奢ってくれよ!」
「ああ、約束する!」
ディオーランは、僕に向かってグッドサインした。
そのため、僕もグッドサインで返した。
「ファイン様、私もお供させていただきます」
「わかった。二人とも、僕につかまって」
ルナとセレーネは、僕と手をつないだ。
「転移!」
僕たち3人は、巨大ドラゴンのもとへと向かった。
王都をドラゴンの脅威から守るために。
次回へ続く!