第27話 ディオーラン・ブラスター
今回は、ディオーランの過去の話です。
(※閲覧注意!)
ある日の放課後、僕はディオーランと話していた。
「なあ、ファイン」
「どうしたんだい? ディオーラン」
「俺の過去の話聞いてくれるか? お前には本当の俺を知ってもらいたくてな。これから何があってもいいように」
ディオーランは、神妙な面持ちでそんなことを言う。
「何があってもって……。縁起でもないことを言うなよ。でも、僕だったら聞いてあげてもいいよ」
「ありがとな。……じゃあ、聞いてくれ」
僕はディオーランの過去の話を聞くことにした。
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俺の名は、ディオーラン・ブラスター。ブラスター家の一人息子として生まれた。
父・アリオンは農夫であり、優しくて思いやりのある性格だった。
母・ディオナは、父がいつも自分たちを養ってくれているので、感謝するようにといつも言っていた。
俺は、そんな両親のことをいつも尊敬し、そして感謝していた。
うちは決して裕福ではなかったが、この頃は幸せだった。
父さんはよくこんなことを言っていた。
「誠実で、思いやりのある人間になれ。困っている人がいたら、助けてやれ」
……と。
俺は父さんの言う通り、困っている人を見かけたら、率先して声をかけるようにした。
自分で言うのも何だが、当時の俺は素直で優しい子供だったと思う。
だが、俺が平民ということで、当時から嫌がらせをする奴がいた。
それが、アッカス・ヴァカダノーだ。
アッカスは当時から嫌味な“野郎”で、自分が貴族ということを笠に着るような奴だ。
俺はそれが悔しかったので、いつかアッカスを見返せるように自分の身体を鍛えることにした。
ある日、俺はいつものようにアッカスから嫌がらせを受けていた。
だが、アッカスはこんなことを言ってきた。
「お前ん家は父親が農夫だなんて底辺だから、貧乏な平民なんだよ!」
こともあろうに、アッカスは俺の父さんを侮辱したのだ。
俺のことならまだしも、父さんをバカにする奴は許せない。
俺はそのことが我慢できなくなり、カッとなってアッカスをぶん殴った。
アッカスは殴られた勢いで尻餅をついた。
だが、相手がアッカスだったとはいえ、俺は罪悪感に苛まれてしまった。
咄嗟だったとは言え、俺は父さんの言いつけを破って、“思いやりのない人間”になってしまったのだから。
「パパに言いつけてやるからなー!!」
アッカスはそう言うと、走ってどこかへと行ってしまった。
後日、アッカスとその父親らしき人が家を訪ねてきた。
どうやら、苦情を入れに来たらしい。
「お宅の息子が、うちの息子に暴行を働いたそうではないか? きちんと教育して欲しいものだね」
「先にケンカを売ってきたのはそっちだろう? しかも、僕の父さんを侮辱しやがって!」
「なんだと……!?」
俺はアッカスの父親に言い返してやった。
アッカスの父親は、言い返されるとは思っていなかったようで、悔しそうな表情を浮かべていた。
すると、父さんは俺の前に手を出して制止した。
「よせ、ディオーラン。……この度は、うちの息子が大変ご迷惑をお掛けしました。後で息子にも言い聞かせておきますので、今回はどうか、お引き取り願えないでしょうか?」
俺の父さんがそう言うと、アッカスの父親はこう言った。
「……わかればよろしい。私もあくまでも平和的に解決したいと思っているのでね。それじゃあよろしく頼むよ」
アッカスたちは家を去っていった。
「わかったか。平民は貴族に逆らえないんだよ」
アッカスは去り際にこう言ってきた。
俺が前に出ると、父さんは俺の肩を掴んだ。
俺は父さんに聞いた。
「父さんは何で言い返さないんだよ?」
「ディオーラン、大人は悪口を言われても我慢するものなのだよ。ここで言い返しても、相手と同じになってしまう。わかるか?」
「……」
父さんは優しい口調で俺に語った。
そして、続けてこう言った。
「でも、ありがとな。“我が家”を守ろうとしてくれて。お前のその気持ちだけで、父さんは嬉しい」
父さんは俺の頭を撫でた。
だが、アッカスが最後に言い放ったあの言葉……。俺の貴族に対する嫌悪感はさらに高まった。
俺が10歳の頃、父さんは突然病に倒れてしまう。
だが、ブラスター家は貧乏で治療する金もなかった。
やがて、父さんの病状は日に日に悪くなる一方であった。
ベッドに寝たまま、父さんは俺に言った。
「ディオーラン、お前は誠実で思いやりのある人間になれ。嘘はつくな、女性には優しくするんだぞ」
「はい……父さん……」
「俺は、お前の父であったことを誇りに思っているよ」
「父さん、俺も父さんの息子で幸せだったよ……」
「強い男に……なれよ」
「父さん……父さん……!!」
そして、大好きな俺の父さんは帰らぬ人となった。
それから数ヵ月後、父さんが死んだという噂を聞き付けたとある貴族が家にやってきた。
それが、【クロード伯爵】という貴族であった。
クロード伯爵は突然、俺と母さんに『家に来ないか?』と言う。
俺たち親子はクロード伯爵家に行くことにした。
クロード伯爵は、よそ者の俺たちを家族として迎え入れてくれた。
そして、伯爵家の人たちも温かい人たちばかりだった。
捨てる神あれば拾う神あり。
俺は、貴族にも良い人はいるんだなと思った。
母さんはクロード伯爵と再婚した。
そして、俺も【ディオーラン・クロード】として、クロード伯爵家の養子になった。
しかし、クロード家の正妻は快く思っていなかったようだ。
それもそうだろう。正妻からすれば、俺たちは“よそ者”なのだから。
12歳になると俺は“お義父さん”の勧めで、アドヴァンスド学園の中等部へ行くことになった。
平民の俺たちにここまで良くしてくれたお義父さんの期待に応えたいと俺は思い、ひたすら勉学に励んだ。
その結果、俺は学年で成績トップになり、両親たちも褒めてくれた。
ちなみに、中等部にはやはりアッカスもいたが、俺は文武ともヤツより上を行ってやった。
ところが、俺たちが伯爵家に来て4年が経った頃、お義父さんは病気で急逝してしまった。
悲しむ間もなく、クロード伯爵家の長男が当主の座を継承した。
長男が当主になってからは、俺と母さんに嫌がらせをするようになった。
長男は言った。
「父上の手前良くしてやってはいたが、本当はお前たちのことは良く思っていなかったんだよ。住まわせてもらえるだけありがたいと思え」
やがて、母さんもストレスの影響でか病気にかかり、帰らぬ人となった。
俺は、“孤独”になってしまった。
結局、平民と貴族は分かり合えないんだな、と俺は悟った。
それから、いつか貴族どもを見返すために、俺はひたすら勉学と鍛錬に励んだ。
卒業後、俺は高等部に入る。
その際、苗字は元の“ブラスター”に戻した。
俺が俺であるために、大好きな父さんのブラスター姓を受け継ぐために……。
■■■■■
ディオーランの話が終わった。
話が終わる頃には、独特の重い空気が漂っていた。
「なるほど、君も壮絶な過去を経験しているんだな」
「ああ。貴族は大嫌いだが、俺を育ててくれた父さんには“感謝”しているんだ」
そう言うと、ディオーランは少し嬉しそうな表情をした。
「なあ、ファイン」
「ん?」
「忘れないでくれよ? 例え俺が死んでも……。お前にだけは俺のこと、いつまでも憶えて欲しいと思っている」
「何言ってるんだよ、ディオーラン。君は死なないさ、絶対に」
「ふっ、そうだな」
ディオーランは、僕に忘れないで欲しいと言った。
その言葉の裏には、孤独でありたくないというディオーランの想いを感じた。
僕は“友”のことを永遠に忘れないであろう。
いかがだったでしょうか。
ディオーランも幼少期は苦労の連続だったのです。
今回の話はこれで終了です。ご覧いただきありがとうございました。