第25話 ギルバート・ヴァレンタイン
「大丈夫か? ディオーラン」
「ああ、大丈夫だ」
僕は一応ディオーランの心配をするが、彼は大丈夫そうだ。
「しかし、ギルバート・ヴァレンタイン……予想以上の強さだった。気をつけろよ、ファイン。ヤツは手強いぞ」
「大丈夫さ、勝算はある」
僕とディオーランは、観客席に戻る。
いよいよ準決勝が始まる。
第一試合では、まずルナとBブロックを勝ち抜いた者の戦いが行われた。
「勝者、ルナ・セラフィー!」
結果はもちろん、ルナの勝利である。
これによって、ルナが決勝まで勝ち進むことが確定した。
次は、いよいよ僕の出番だ。
「ではこれより準決勝第二試合を行います。出場選手は、ファイン・セヴェンスとギルバート・ヴァレンタインです」
僕の対戦相手となるのは、Dブロックからディオーランを倒したギルバート・ヴァレンタインである。
「お前と相対するのを楽しみにしていたぜ、ファイン・セヴェンス!」
「ああ、僕もだ。ギルバート・ヴァレンタイン」
「せいぜい楽しませてくれよ?」
ギルバートは不敵な笑みを浮かべながら言った。
「二人とも、位置についてください。準備はいいですか? レディー、ゴー!」
「それじゃあ、オレから行くぜ!!」
審判が開始の合図をかけると同時に、ギルバートが先制攻撃を仕掛けて来た。
ギルバートは背中から、幅広の両刃剣を抜いて走って来た。
僕は氷の矢を3発放って迎撃した。
しかし、ギルバートはそれをかわし、尚も僕に迫ってくる。
そして両手に剣を構え、上からそれを振り下ろして来た。
僕は、ギルバートの剣戟を右方向にかわした。
凄まじい一撃により、地面が抉れた。
「なかなかやるじゃあねえか。今のオレの一撃をかわすとは。そして何より、お前無詠唱で魔法を使えるのか」
「そっちこそ、あの魔法をかわすとはやるな」
「当然だぜ。それよりまだ勝負はついていないぜ!」
ギルバートは剣を地面から抜くと、僕に向かって再び振り回した。
僕はそれを躱して、ギルバートの後ろに回り込み、距離を取った。
今度は火球の弾幕で攻撃する。
ギルバートにはやはり躱され、接近されてしまう。
僕は剣戟を回避し、後方に下がる。
「ちょこまかと……!」
ギルバートは剣を構え、僕に向かってダッシュする。
次は、頭上から稲妻矢の雨を、ギルバートの進路上に降らせる。
これなら回避はできないだろう。
しかし、ギルバートは稲妻矢を当然の如く躱し、なおも僕に向かって走ってくる。
回避困難なこの攻撃を避けるとは、やはりギルバートは只者ではないようだ。
「どうした? 魔法ばかりじゃあ、オレは倒せないぜ!」
ギルバートは僕に肉薄すると、剣を振り下ろす。
僕は剣を抜き、ギルバートの攻撃をガードした。
「なに?」
「残念ながら、僕の特技は魔法だけじゃないんでね」
「フッ、なるほど。どうりで剣を持ってきている訳だ。そう来なくっちゃあな!」
ギルバートは驚きの表情を見せるが、すぐに僕と対等な条件で戦えることに喜びを示した。
お互いに一旦距離を取った。
そして少しの間、僕とギルバートは見合ったまま静止する。
ここから先は、剣による直接対決となる。
「それじゃあ……行くぜ!」
ギルバートの合図で、お互い同時に動き出す。
ギルバートは両手に剣を持ち、自身の右側に剣を構えた。
薙ぎの構えだ。
そして、ギルバートは右薙ぎを放つ。
僕はしゃがんで避けると、ギルバートの懐に潜り、左下から斬撃を放った。
予想外の動きにギルバートは驚くが、すぐにジャンプして紙一重のタイミングで避けた。
なかなかの反射神経だ。
今の動きは、並みの人間には到底できない動きであろう。
ギルバートは空中で回転しながら体勢を整え、僕から距離を取って着地した。
僕はギルバートに追撃を入れるべく、ダッシュで接近する。
すると、ギルバートも僕に向かって走る。
僕の戦い方は本来ヒット&アウェイだが、せっかくの機会なので正面からぶつかり合うことにした。
ギルバートに接近したところで、僕は袈裟斬りを放つ。
相手も剣で攻撃し、僕の剣戟を相殺した。
「ヘッ! お前、さっきのディオーランって奴よりも強そうだな! こりゃ楽しめそうだぜ!」
ギルバートは笑いながら言う。
さすがにギルバートのパワーは、ルナより上か。
一方、スピードは彼女に比べると劣っている。
ただ、それでも並みの戦士よりは速いため、攻撃を当てるためには一工夫が必要だ。
そして、今回は魔法縛りがないため、少しばかり楽に戦えるはずだ。
僕はギルバートと剣による攻防に臨む。
しかし、次第に僕が優勢になる。
どうやらギルバートよりも、僕の方が剣の腕でも上のようだ。
ギルバートはまた接近してきた。
そして、斬撃を放とうとする。
「忘れたのかい? 僕の特技は、剣だけじゃないぞ」
そう言って、僕は稲妻矢を放った。
稲妻がギルバートに当たった。
「ぐおっ!?」
ギルバートはダメージを受ける。
しかし、この闘技場……いや、学園全体には防御結界魔法が張られているため、怪我をすることはない。
ましてや、致命傷に至ることはない。
ただし、痛みは感じる上に、ダメージがあまりに大きい場合には気絶してしまうが。
とは言え、魔力の高い僕が稲妻斬撃を放った場合はどうなるか分からないので、それを使うのは控えておく事にする。
「どうやらお前の力、想像以上に侮れんようだな。こうなったらこれを使わせてもらうぜ」
ギルバートはそう言うと、剣を頭上に掲げた。
剣の周りに渦状の炎が発生する。
ディオーランを倒した“あの技”を使う気か。面白い。
「バーニングブラスト!!」
ギルバートは技名を叫びながら、剣を振り下ろした。
激しい炎が渦巻きながら、物凄い勢いで僕に向かってくる。
しかし、僕は剣を鞘に納め、その場で待ち構えた。
「火球!」
僕は右手を前に出し、火球を放つ。
炎に対しては、火属性の魔法で返すのが礼儀か。
「ハッ! そんなちっこい火の玉じゃあ、オレのバーニングブラストは消せないぜ!」
「それはどうかな?」
僕の放った火球が、ギルバートの爆炎とぶつかった。
そして、二つの炎は相殺して消えた。
「なにッ!?」
予想外の事態に、ギルバートは驚愕する。
バーニングブラストには相当な自信があったのだろう。
ちなみに、下級魔法の火球でバーニングブラストを相殺できた理由は、僕が火球により強力な魔力を込めていたからである。
「くそっ! こうなったら本気を出させてもらうぜ! 【身体強化】!」
ギルバートは身体強化をかけた。
先程までと比べ、パワーもスピードも上昇している。
「どうした? 守ってばかりじゃあ、オレには勝てないぜ!」
ギルバートの猛攻撃により、次第に僕は防戦一方になる。
だが、それは長くは続かなかった。
なぜなら……。
「身体強化!」
そう、僕も身体強化が使えるからである。
僕は猛スピードで動き、剣で絶え間なくギルバートを攻撃する。
ギルバートは何とか剣で防御するが、反撃すらままならない。
今度は逆に、ギルバートが防戦一方となった。
これによって、形勢は再び逆転した。
「まさか、身体強化まで使えるとはな……! こうなったら、オレのとっておきの技を使わせてもらうぜ!」
そう言うと、ギルバートは剣を上に構えた。
渦状の炎が、剣の周りに集まってくる。
しかし、炎は先程とは比べものにならないほど大きい。
とっておきと言うことは、もしやバーニングブラストとは別の技か。
「オレをここまで追い詰めたお前に対し敬意を込めて、オレの全身全霊の必殺技を見せてやるぜ。お前にこれが躱せるか?」
ギルバートは不敵な笑みを浮かべる。
「ドラゴンインパクト!!」
ギルバートは剣を振り下ろした。
燃え盛る炎が、ドラゴンとなって僕に向かってくる。
それも物凄いスピードだ。
これはさすがに躱せない。
僕は顔の前で両腕をクロスし、せめてもの防御を行う。
そして、僕はドラゴン状の炎に飲み込まれた。
不敵な笑みを浮かべて勝利を確信していたギルバートの顔は、次第に驚きの表情へと変わって行った。
「なにッ!? バカな!? 何で無傷なんだよ!?」
ドラゴンインパクトを喰らって尚、無事でいた僕に驚愕するギルバート。
実は技を喰らう直前に、僕は結界を張って防御していたのだ。
つまり、僕はドラゴンインパクトの直撃を受けていないのだ。
「稲妻矢!」
僕は魔法を唱え、ギルバートの頭上から稲妻矢を降らせた。
ギルバートはすぐさま後ろに下がって避けた。
「う、動けん!?」
「かかったな、【麻痺罠】だ。実はさっきの剣戟の際にこっそりと仕掛けておいたんだ。そして、稲妻矢でトラップの位置に後退するよう、君を誘導したという訳さ」
「いつの間に!?」
「さて、それじゃあフィニッシュと行こうか」
僕は剣を抜き、動けないギルバートに向かって走って近づいた。
そしてすれ違いざま、剣の連撃を与えた。
ギルバートはその場に倒れた。
「勝者、ファイン・セヴェンス!」
ギルバートを倒したことによって、僕は決勝戦へと上り詰めた。
決勝戦では、先に進んでいるルナが待ち構えている。
ルナは僕との特訓により、魔法が使えるようになった。
きっと、以前にも増して手強くなっていることだろう。