第23話 問題児
新しい話を追加します。
いつもの学園生活。
今日は剣術の授業だ。
「よーし、全員集まったな。今から剣術の授業を行うぞ。まずはこの模擬剣を持て。初めて剣を握る者もいるだろうから、簡単に説明するぞ」
男性教師が説明を行う。
ところで、剣術はルナの得意分野だ。
ルナは木製の剣を持つと、早々に素振りを始めた。
彼女の剣のフォームは美しい。
得意な剣にルナも気合いが入っているようだ。
男子生徒たちはルナの凛々しさに魅了されていた。
「ルナ様ってほんといいよなぁ。成績優秀で強くてスタイル抜群で、おまけに可愛いし」
「才色兼備っていうのは、まさにこのことなんだろうな。俺たちにとっては高嶺の花だけど」
男子たちはそんな会話をしていた。
ルナの長い髪がそよ風で靡く。それと同時に、ルナのスカートが舞い上がった。
その光景に男子たちの視線が集まった。
「あっ……」
ルナはすぐに両手でスカートを押さえた。
そのため、中はギリギリ見えずに済んだ。
もっとも、周りの男子たちは残念そうにしていたが。
その直後、教師から声がかかった。
「よーし。各自、剣の扱いに慣れたな? 次は模擬戦だ。誰でもいいから、二人一組になれ」
教師は突然、模擬戦をやるよう生徒たちに指示を出す。
少し早すぎではないか?
事実、そう言った声が生徒たちからも上がる。
しかし、生徒たちはすぐに気持ちを切り替えて二人一組になった。
その様子をしばらく見ていると、後ろから声をかけられた。
「ファイン君、模擬戦の相手になってもらってもいいかな?」
「いいよ」
僕はルナから模擬戦の相手に指名された。
そして、ルナは模擬剣を構えた。
「準備はいい?」
「いつでもどうぞ」
まずは様子見で僕が先手を取る。
僕は上からの斬撃を出すが、ルナは当然のように剣でガードする。
ルナは剣を弾くと、カウンターで横斬りを放つ。
僕はそれを回避して、一旦後ろに下がる。
すると、ルナは僕に近づいて刺突を放つが、僕はそれを剣で受け止める。
攻撃を防がれたと見るや否や、ルナは一旦僕から離れた。
ルナの戦い方が攻撃寄りから、防御寄りに変わりつつある。
前回の特訓で教えた通り、ヒット&アウェイを実践しているようだ。
僕は前進して突きを出すが、ルナは身を引いて回避する。
その直後、ルナは素早い身のこなしで急に前へ飛び出して来た。
そして、そのままの勢いを保ったまま、刺突を行う。
僕は咄嗟にガードする。
ところが、刺突かと思いきや、ルナは急に下からの突き上げに切り替えた。
僕のガードは崩され、剣は宙を舞った。
「これで、この間の借りは返したね」
僕はルナに一本取られた。
「ねえ、ファイン君。手抜いた?」
「さあね」
僕はそう答えた。
授業終了後、僕はルナに話かけられた。
「ねえ、ファイン君。1ヶ月後に学園内で【闘技祭】があるのは知ってる?」
「ああ、知っている。年に1回アドヴァンスド学園で行われるイベントのことだろう?」
「そうよ。闘技祭はトーナメント制で、武器や魔法の使用はオッケー。学園に所属する生徒なら参加は誰でもオッケーよ。騎士団や貴族、そして王族などの方々も来賓としてこられるわ。そして、優勝すれば王国騎士団に推薦されるかもしれないわよ」
「興味ないな。僕は将来、冒険者として自由気ままに旅をするつもりなんだ」
「そっかぁー。私は将来、王国騎士団に入りたいから、闘技祭に出るんだけどね」
ルナは闘技祭に関する詳細を話してくれた。
■■■■■
放課後。
校舎裏で、不良らしき男が他の生徒たちと喧嘩をしているのを目撃した。
喧嘩と言うよりは、不良が一方的に攻撃していると言ったほうが良い。
容姿は長く伸びた刺々しい赤い髪に、如何にもと言った感じの鋭い目つきである。
身長は180cmと高く、先述の目つきとも相まって威圧感を醸し出している。
しかし、知らんぷりして素通りするのも後味が良くないため、僕は不良を止めることにした。
「学園内で喧嘩とは、見苦しいな」
「あん? 誰だ、てめぇは?」
「その辺でやめておけ」
「てめぇには関係ねぇだろうが!」
そう言うと、不良は僕に標的を変えて来た。
不良はいきなり右ストレートをかます。
速いパンチだ。
しかし、僕は不良の攻撃を難なくかわす。
「なに!?」
不良は自分の攻撃が避けられたことに驚いているようだ。
その後、不良は連続的にパンチを出す。
しかし、当たらなければどうという事はない。
「ちょこまかと……!!」
そう言うと不良はもう一度右ストレートを出した。
そして、僕は不良のパンチを受け止め、不良の顔面寸前で僕の拳を寸止めした。
「てめぇ、オレのストレートを受け止めるとは……何モンだぁ?」
不良は自分の腕に自信があったようで、パンチが受け止められたことに驚いているようだ。
もっとも、ただのストレートに過ぎないが。
「てめぇ、名前は?」
「ファイン・セヴェンス」
「そうか、てめぇが噂の……。オレの名は、ギルバート・ヴァレンタイン。今年の闘技際に出る男だ。てめぇも男なら、闘技際に出な。決着はそこでつけようや」
「いいとも」
不良は自らギルバートと名乗った。
不良のくせに、意外と律儀なんだな。
そして、ギルバートは踵を返して去って行った。
僕はボコボコにされていた生徒たちに声をかけることにした。
「大丈夫か? ……ん?」
だが、声をかけた直後に気が付いた。
よく見ると、生徒の一人は赤い髪で見覚えのある人物だった。
なんと、生徒の正体はアッカスだったのである。
そして、残りの二人はその取り巻きたちだった。
「げっ、アッカス……」
「貴様、なぜボクたちを助けた?」
アッカスから助けた理由を問われた。
「特別な理由はない。ただ、僕は目の前の不正や悪事は見過ごせない性格だ。それだけのことだ」
「ふん、感謝はしないがな」
「好きにしろ」
そう言って僕はその場を去った。
その後すぐに校門を出た。
校門を出たところで、ルナが僕の隣にやってきた。
「ねえ、放課後空いてる?」
「空いているけど……」
「じゃあさ、近くのカフェ店に寄って行かない?」
「いいよ」
放課後、ルナの勧めで近くのカフェ店に一緒に行くことになった。
そして、彼女にギルバートについて話を聞くことにした。
「聞きたいことがある」
「なに?」
「ギルバート・ヴァレンタインという生徒について知っているか?」
「ええ、知っているわ。彼は普段から素行が悪く、遅刻や授業をサボることは日常茶飯事よ。本来なら2年生なんだけど、昨年に生徒との喧嘩で、貴族の子をボコボコにしたせいで留年しているわ。その強さはお察しの通り、学園で1、2を争う程と言われているわ」
「相当な強さのようだな。それで、ギルバートの戦闘スタイルは?」
「大剣を使った戦いを得意としているそうよ。パワーはもちろん、スピードも並みの生徒では敵わないわ。そして、炎系の魔法を使うって話を聞いたことがあるわ」
「なるほど。情報提供、感謝する」
「ところで、どうして急にギルバート先輩の話を?」
「ああ。先程、ギルバートに絡まれた。決着は闘技際で着けようって話になった。面白そうだから、僕も出ようと思う」
「そうなんだね。ギルバート先輩はとても強いから、気をつけてね。それに、闘技祭には私も出るから、もし当たったらよろしくね」
「ああ」
その後、僕たちはカフェ店を後にした。
ルナの情報により、ギルバートとの戦い方がある程度見えてきた。
それに、強敵はギルバートだけではない。
闘技祭にはルナも出ると言うので、彼女の強さを考えると、確実に決勝戦まで勝ち進むだろう。