第22話 学園の天使たち
ある朝、校舎裏を歩いていると、アッカスたち3人組が集まっていた。
しかし、彼らの視線の先をよく見ると、一人の女の子が囲まれていた。
「ねえ、キミ~、これからボクたち一緒に遊ばない?」
「ごめんなさい。これから授業ですので……」
「そうつれないこと言うなよ~、悪いようにはしないからさぁ!」
女の子はどう見ても困惑しているが、アッカスは執拗に絡む。
僕はアッカスに近づき、肩を掴んだ。
「その辺でやめないか? その子が困っている」
「あ?誰に向かって口を利いて……なっ!? き、貴様はッ……平民!」
「ファイン・セヴェンスだ。君は人の名前を憶えられない程、記憶力が悪いのかな? 偉そうな貴族くん?」
「な、なんだと……!」
アッカスは僕を見て驚きを隠せなかった。
驚きというよりは、むしろ恐怖に近い感情を出していた。
無理もないだろう。入学試験日にコテンパンにやっつけてやったのだから。
一方、僕は相変わらずアッカスに平民と呼ばれ続けて、少しイラッと来た。
しかし、ここでキレたら相手と同じになると思ったので、僕は煽ってやることにした。
僕とアッカスは、しばらく睨み合った。
「チッ、今日のところはこれくらいで観念してやる。行くぞ、お前たち!」
しばらくすると、アッカスたちは僕の圧力に耐えられなくなり、退散した。
僕は女の子のほうを向いた。
容姿は色白肌に淡い金髪ロング、そしてブルーグリーンの瞳である。
身長は150cmくらいで顔には幼さを残し、触れただけで壊れそうな繊細な雰囲気を醸し出している。
そして、よく見ると耳が長いため、この子はエルフのようだ。
白の女子生徒用制服に、黒タイツと茶色のローファーを着用している。
僕は、エルフの女子生徒に話しかけることにした。
「大丈夫かい?」
「助けていただき、ありがとうございます。私の名は、【セレーネ・ホープ】と申します。以後お見知りおきを、ファイン様」
「どういたしまして」
セレーネと名乗った女の子は、僕に感謝の言葉を述べた。
セレーネは幼い容姿とは裏腹に、大人のように落ち着いた喋り方であった。
明朗闊達なルナとは、対照的な印象だ。
ところで、僕の頭には疑問が浮かんだ。
「そう言えば、どうして僕の名を?」
「ふふっ、入学試験で1位を取っていたではありませんか。それに、ルナさんとの決闘でも勝たれたと。学園中で噂になっていますよ」
「マジか。そんなに有名になっていたのか。ところで、その長い耳……セレーネはエルフかい?」
「ええ。正確には“ハーフエルフ”ですわ」
「そうか。ところで、僕に『様』はいらないよ」
「いいえ、ファイン“様”と呼ばせてください。あなたは私にとっての【英雄】なのですから」
「そうか。セレーネがそう呼びたいのなら、好きにするといい」
「ありがとうございます。それに入学試験日にファイン様は私を助けてくださいました。でなければ、私は今頃この学園にはいませんでした。本当にありがとうございました」
セレーネに入学試験の日に助けられたと言われ、僕の頭には『?』が浮かんだ。
だが、その疑問はすぐに消え去った。
「ああ! あの時の金髪の女の子か! でも、僕は別に助けた覚えはないよ。ルナが現れただけだから、偶然の結果だよ」
「それでも、助けていただいたことに変わりはありません」
「そうか。なら感謝はルナにするといい」
「そうですね。ところでファイン様、突然ですが私とお友達になっていただけませんか? せっかくのご縁ですし、ファイン様と仲良くなりたいのです」
「いいよ」
「ありがとうございます!」
セレーネは僕と友達になりたいと言う。
僕は二つ返事で承諾すると、セレーネは喜んだ。
「それではファイン様、またお会いしましょう」
「ああ」
セレーネは身を翻して去って行った。
■■■■■
午前の授業終了後、廊下を歩いているとルナが僕のもとへやって来た。
「ねえ、ファイン君。一緒にランチ食べようよ」
「いいよ」
「私もご一緒させてください」
すると、そこへ現れたのはセレーネだった。
「あなたは誰?」
「私はセレーネ・ホープと申します。よろしくお願いします」
「セレーネちゃんって言うのね? 私はルナ・セラフィーよ。よろしくね」
僕たちは食堂へ行き、3人でランチを食べることになった。
「これにしよう」
この日は、メニューの一つにハンバーグ定食があった。
そのため、僕はハンバーグ定食を注文することにした。
そして、ルナはスパゲッティを、セレーネは白身魚の料理を注文した。
この日は運よく空いているテーブルがあったため、僕たちはそこに座ることにした。
ルナとセレーネは、隣り合って座った。
早速ランチを食べることにした。
「ファイン様、はいっ。あーん……」
「ああっ!」
セレーネは白身魚をナイフで切ると、フォークで刺して僕の口元へ近づけた。
それを見たルナも、慌てた様子でパスタをフォークに巻き付けて僕の口元に近づけてきた。
「あーん……」
「ええっ!?」
ルナとセレーネは、お互い睨み合った。
二人の視線と視線の間には、見えない電流がぶつかり合っているように見えた。
ルナはむっとした表情を、セレーネはなぜか不敵な笑みを浮かべていた。
僕は困惑した。
女の子のフォークに口を付けたら、間接キスになるじゃないか。
そのため、僕は遠慮することにした。
「あ、あのさ、異性の食器に口を付けるのは、言いにくいんだけど、その……良くないと思うよ。だから、遠慮しておくよ」
「「ええーっ!? そんなぁ……!!」」
僕が遠慮すると、二人はがっかりしていた。
それを見た僕は、なんだか申し訳ない気持ちになった。
「わ、わかった。食べるから! そんなに落ち込まないで!」
「本当にですか!?」
「ああ。でも、責めて僕の食器に移して欲しい」
「わかった、そうするわ」
僕は二人に分けてもらったランチを食べた。
「うん、美味しい。二人とも、ありがとう」
「よかったね」
「よかったです」
ルナとセレーネは、笑顔を取り戻していた。
ハッ……!
僕はなぜか、周りの男子たちから視線を向けられた。
その視線が痛かった。
「今日の昼食は美味しかったですね」
「ええ、そうね」
「もしよろしければ、これからも3人で一緒にランチしませんか?もちろん、ファイン様やルナさんが良ければの話ですけれど」
「私はいいわよ」
「僕もいいよ」
「本当ですか!? 嬉しいです。ところで、ルナさん。私とお友達になっていただけませんか?」
「何言ってるの? 私たち、もう友達でしょ? セレーネちゃん」
「そうですね。ルナさんの言う通りです」
「それで、せっかく友達になったんだから、私のことは『ルナ』って呼んで欲しいな!」
「はい、ルナ!」
「それじゃ、また今度ね。“セレーネ”」
今日のランチはいつもより楽しむことができたので、僕は良かったと思った。
そして、一時は睨み合っていた二人だったが、ルナとセレーネはすっかり仲良くなっていた。それは、僕としても嬉しい限りだった。