第21話 人魔大戦
今回は、ストーリー中ちょくちょく出てくる【人魔大戦】についての話を深掘りしたいと思います。
「また人魔大戦かよ!」って思った方は、読まなくても問題ありません。
まあ、人魔大戦は大昔の話ですし、現在とは特に関係のない話ですので。(笑)
正直、長文で退屈だと思います。
それでも、興味がある方は、読んでいただけると幸いです。
今日は歴史の科目がある日だ。
ユウリ先生が、授業を進める。
「今からおよそ300年前に、人類と魔族との間で戦争がありました。この戦いを【人魔大戦】といいます。この戦争で、魔族は暴虐の限りを尽くしました」
今日は【人魔大戦】についての授業だ。
しかし、僕は人魔大戦についてはよく知っている。
そのため、僕は退屈で欠伸が出た。
「そんな中、一人の人物が人類を率いて戦いました。彼は後に【英雄】と讃えられます。さて、ここで皆さんに問題です。その【英雄】の名前は何でしょうか?」
ユウリ先生が問題を出してきた。
すると、一人の生徒が得意げに手を挙げた。
「はい、アッカス君」
「答えは、賢者ユシウスです」
アッカスは自信満々に答え、これ見よがしに前髪をかき上げた。
しかし……。
「残念、不正解です。教科書をよく見ましょう」
「なっ……!?」
名前を間違えるとは、初歩的なミスだな。
一体、どこで間違った名前を憶えたのか。
僕は呆れて欠伸が出た。
「おやおや? 退屈そうにしている子がいますね~。それじゃあ、ファイン君に答えてもらいましょうか」
欠伸をしている僕を見て、先生が当ててきた。
先生も意外と鬼だな。
とはいえ、せっかく知っている問題なので、僕は答えることにした。
「答えは、大賢者ユリウス・ローランドです」
「正解です」
せっかくなので、僕は偉そうな貴族に一泡吹かせてやろうと思った。
そこで、僕は続けて人魔大戦についての少し詳しい解説をする。
「ユリウスは大賢者の名の通り、魔道の天才でした。彼は仲間を率い、魔族を次々に倒していきました。そして魔王アガレスと戦い、苦戦しながらもこれを倒しました。ここまでが、【第一次人魔大戦】の話です」
「ふむふむ……」
「ところが、魔王はまだ死んではいませんでした。第一次人魔大戦終結から数ヵ月後、倒したはずの魔王アガレスが突如復活を果たします。そして、魔法放送にて全世界に宣戦布告します。大賢者ユリウスは再び魔王と対決します。ところが、魔王アガレスは以前よりもパワーアップしていたので、ユリウスは苦戦を強いられました。そして、相討ちという形でユリウスは再び魔王を倒すことに成功しました。これを【第二次人魔大戦】といいます」
「す、すごい……。とても詳しいんですね」
僕は教科書を読まずにスラスラと答えた。
こんな芸当ができるのは、人魔大戦のことを良く知る僕くらいであろう。
アッカスの方を見ると、不快感を露わにしていた。
それを見て、僕は思わずにやけてしまった。
■■■■■
その日の放課後。
廊下を歩いていると、ルナに声をかけられた。
「やっほー♪」
「ルナか」
「ファイン君はホント凄いよね。剣も使えて、魔法も使えて。おまけに歴史にも詳しいし。そうだわ! 【人魔大戦】について、もっと詳しい話を聞かせてよ。私、もっと“この世界の歴史”について知りたいの!」
「この世界の歴史について、か。きっと退屈な話になるぞ?」
「大丈夫よ。私、ファイン君の話なら何でも聞くわ! そう言うことで、今から30分後に寮の前に集合ね!」
ルナはそう言うと、駆け足で行ってしまった。
それから30分後、僕とルナは私服に着替えて寮の前で合流した。
「それじゃあ、行きましょうか」
「行くって、どこへ?」
「商店街の喫茶店よ。せっかくだから、喫茶店の方が楽しめるかなって」
ルナの勧めで、喫茶店で話をすることになった。
「それじゃあ、人魔大戦についてのより詳しい話を始めようか」
「うん、よろしくね!」
「今から僕が語る【人魔大戦】は、ユリウス自身が書いた【日記】の記録も加味した話になる。したがって、より詳しい人魔大戦の話ができると思う」
僕は魔法鞄から、ユリウスの日記を取り出した。
「ちょっと待って。ユリウス様の日記って……そんな物、どこにあったの?」
「孤児院の裏の地下書庫、僕の秘密基地さ。言い忘れていたが、大賢者ユリウスの魔道書もその地下書庫で発見した」
「ええーっ!? それじゃあ、その地下書庫って言うのは、ユリウス様が遺した場所ってこと……!?」
「そういうことになるな」
「す、すごいね……」
ルナは目を丸くして驚いていた。
「それじゃあ、本題に戻るとしよう」
僕は改めて、ルナに人魔大戦のことを語り出した。
■■■■■
【人魔大戦】は今から300年以上前に起きた、人類と魔族の凄惨なる戦いだ。
その始まりは、今からおよそ303年前にさかのぼる。
きっかけは、嵐による大洪水だ。
これにより、川や海の近くでは民家が流され、多くの死者行方不明者が出た。
それから数週間後、グランヴァル帝国で巨大地震が起きた。
数十年に一度あるかないかのレベルだ。
この地震により、大地は割れ、一部の地域では地形が変化するほどだったらしい。
もちろん、死者行方不明者の数は計り知れない。
この地震による揺れは、震源地から数百キロ離れたところにまで及んだそうだ。
巨大地震から数か月後、人々はようやくかつての暮らしを取り戻しつつあった。
その矢先だった。
魔王アガレスと名乗る者が突如、全世界に向けて魔法放送を行う。
魔族は人類に宣戦布告すると。
魔王アガレスは、漆黒のフード付きローブを全身に纏い、髑髏の顔をしていたという。
その姿は、歴史の本や教科書などにもイラストとして書き記されていることが多い。
人類は確信した。これまでの大災害が全て魔王のせいだと。
大災害の起きた時期と、魔王の出現した時期を考えれば辻褄が合う。
そのため、これまでの大災害は、のちに【魔王災害】と呼ばれるようになった。
全人類は、総力を上げて魔族に立ち向かう。
ところが、魔族の力は人智をはるかに超えていた。
そのため、人類は瞬く間に魔族に蹂躙されていった。
しかし、とある人物が現れた。
それが、かの有名な大賢者【ユリウス・ヴァン・ローランド】である。
ユリウスは数名の仲間を率いて立ち上がった。
そのうちの一人が、勇者【デウス】であったという。
デウスは、グランヴァル帝国出身の男だそうだ。
彼は最初、平凡で頼りない若者だったらしい。
そして、平民の出身ということで、仲間からも快く思われていなかったそうだ。
それでも、デウスは血の滲むような努力をしたという。
ユリウスも影ながら、デウスを見守っていた。
たゆまぬ努力の成果が実り、デウスはやがて人類最強の男になった。
そして、仲間からも認められたという。
デウスは、ユリウスにとって良き戦友であり、良きライバルでもあったという。
なお、デウスの事については、ユリウスの日記には記録されていた。
ところが、歴史の教科書にはデウスのことは一切記載されていなかった。
そのため、歴史の表舞台から抹消された可能性がある。
その理由は、やはりデウスが平民だからという差別意識からだろうか。
ユリウスはデウスら仲間とともに、次々と魔族を倒して行き、少しずつだが人類側の劣勢を覆して行った。
ちなみに、魔族は太陽の光に弱いという。
そのため、日中に人間界を襲撃する際は、闇魔法で暗雲を発生させて大空を覆っていたそうだ。
ユリウスたちは四天王を次々と倒し、エノウ大陸北東の海に浮かぶ【魔大陸】に乗り込む。
そして、ついに魔王アガレスと対峙する。
しかし、アガレスは魔族の王ということで、四天王を凌ぐ強さを誇っていた。
それでも、ユリウスはデウスらと力を合わせて魔王と死闘を繰り広げた。
そして、ユリウスたちはついに魔王アガレスを倒すことに成功した。
ここまでの話が、のちの時代に【第一次人魔大戦】と呼ばれる戦いである。
戦いの後、ユリウスはローランド王国に戻り、王から【大賢者】の称号を頂く。
一方、デウスも祖国であるグランヴァル帝国に帰ったという。
だが、終戦から数日後に、衝撃的な知らせがユリウスのもとに届く。
デウスが死んだというのだ。
どうやら、デウスは賊討伐時に戦死したらしい。
ユリウスは、何かの間違いではないかと聞く。
“アイツ”が賊如きに後れを取るはずがないと。
しかし、返答は非情なものだったという。
それでもユリウスは、戦友デウスが今も世界のどこかで生きていると信じた。
……そして、大賢者ユリウスの日記はここで終わっている。
戦争終結から数か月後。
倒したはずの魔王アガレスが、再び全世界に向けて魔法放送を行った。
今度こそ全人類を滅亡させると。
そう、魔王アガレスは復活したのだ。
魔族は再び人類に戦争を仕掛けた。
対する大賢者ユリウスも、再び仲間を率いて魔王に立ち向かった。
しかし、魔王アガレスは以前よりもパワーアップしていたためか、ユリウスの仲間たちは瞬く間に殺された。
勇者デウスがいなかったということも大きいだろう。
ユリウスもパワーアップした魔王を前に、苦戦を強いられた。
そして、大賢者ユリウスと魔王アガレスの魔力が激しくぶつかる。
その結果、古代から存在した浮遊大陸が沈み、天変地異が起きたという。
人類はただただこの戦いを遠くから見守るしかできなかった。
ところが、最後に黒くて巨大な光が発生し、魔王アガレスが飲み込まれる姿を確認したらしい。
最終的に、ユリウスは辛うじて魔王アガレスを倒すことができたらしい。
しかし、この戦いでユリウスも力尽き戦死してしまった。
この戦いはのちに、【第二次人魔大戦】と呼ばれることになる。
そして、ユリウスは世界を救った【英雄】として今でも語られることになった。
これが『英雄たちの伝説』である。
「……と、これが人魔大戦の詳細だ」
「……」
普段は賑やかなルナも、すっかり話にのめり込んでおり、最後のほうは話を静聴していた。
「す、すごい……。人魔大戦には、教科書には書かれていないそんな真実があったなんて……。興奮のあまり、今夜は眠れないかも!」
話が終わると、いつもの元気なルナに戻っていた。
「楽しんでもらえたようで何よりだ」
「うん! 今日はとても楽しかったわ。ありがとう!」
それから、僕とルナは喫茶店を後にし、寮に帰った。
今回の話はこれで終了です。
いかがだったでしょうか。少しでも楽しんでいただけたのなら幸いです。
それでは、今回もご覧いただきありがとうございました。
次回もお楽しみに!