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第20話 舞い降りた天使

 セラフィー公爵は言った。ルナは実の娘ではないと。

 その言葉は僕にとって、まさに青天の霹靂であった。

 セラフィー公爵は、真剣な眼差しで語りだした。


「あれは、10年前の……確か7月7日だったか。あの晩は雨期の終わりにしては、珍しく大雨だった。私は軍務を終え、部下たちと共に馬を走らせ、家路を急いでいたところだった。森の中を進んでいる最中、草の影に違和感を感じた。最初は気のせいだと思ったが、念のため馬を止めて確認した。すると、草の影にはなんと小さな女の子が倒れていた」

「……」

「不思議なことに、大きな葉っぱがその女の子を守るように覆い被さっていたのだ。それが、“あの子”との出会いだった。私はその子を呼んでみたが、返事はなかった。だが、目立った外傷はなく、寝ていただけのようで私はひと安心した。私はその子を連れて、急いでセラフィー邸に帰った。翌朝、事情を聞いてみたが、唯一憶えているのは【ルナ】という名前だけで、それ以外は何も憶えていないと言う。出身地も、実の両親のことも……」

「な……」


 僕はショックのあまり声が出た。

 ルナとヒナタは、血の繋がりがないというのだ。


「私は、公爵としての伝手を使い色々調べ回ってみたが、手掛かりは何も掴めなかった……。そこで、ルナに『君さえ良ければ、私たちの“家族”にならないか』と聞いてみた。すると、ルナは二つ返事で了承した。それ以来、我がセラフィー公爵家は笑顔が絶えない家になった。ルナは舞い降りた【天使】なんだ」


 セラフィー公爵は、嬉しそうな表情(かお)をしていた。


「ところで、セラフィー公爵家は代々騎士を輩出しているのだが、そこでルナにも剣を教えてみることにした。そして、兄たちと模擬戦をすることになったのだが……驚くことに、僅か5歳にして二人の兄を一瞬にして打ち負かしてしまったのだ」

「!?」

「試しに私が挑んでみたが、ルナは予想以上に強かった。5歳の女の子にしては、異常なまでにパワーもスピードも優れていた。しかし、私は今まで培ってきた経験により、辛うじてルナに勝つことができたのだ」


 なんということだ。

 ルナが強いことはわかっていたが、たった5歳で兄たちに勝ってしまう程とは。


「ところで、ルナは捨て子だったのだが……ある晩、ルナの部屋からすすり泣く声が聴こえてきたのだ。部屋に入り泣いている理由を聞いた。するとルナは、『私には本当の両親も、本当の兄妹もいなくて寂しい』と言った。そこで私は、私はルナを抱きしめてこう言った。『お前は一人ぼっちじゃない、私たち家族がいる』と。すると、ルナはいつもの笑顔を取り戻した」


 そうか……。ルナも寂しい思いをしていた時期があったのだな。

 僕はこの話の感想を述べた。


「あのルナにそんな過去があったとは……、驚きました。僕も両親を知らない孤児ですが、ルナにはちゃんと家族がいて羨ましい限りです」

「ファイン君、これからもルナと仲良くしてやって欲しい。ルナには友人が必要だ」

「はい」


 丁度いいタイミングで扉が開き、ルナが入室した。


「ヒナタは?」

「遊び疲れて、寝ちゃったわ」

「そうか。ありがとう」


 すると、セラフィー公爵はルナを呼んだ。


「ルナ、こっちへおいで」


 ルナは嬉しそうに微笑んで、“父親”のもとに向かった。

 そして、セラフィー公爵はルナを抱きしめた。


「ルナ、お前は私の最高の宝物だ。例え、血の繋がりはなくても、お前のことは本当の娘だと思っているからね」

「ありがとう、お父様! 私もお父様が大好きよ!」


 ルナは薄っすら涙を浮かべていた。

 僕は、仲睦まじい親子のことを微笑ましく思った。


■■■■■


 帰り間際、セラフィー公爵は僕とルナを見送ってくれるという。


「今日は色々とありがとうございました」

「何を言う。例を言うのはこちらのほうだよ。今日は本当に楽しませてもらった」

「お父様は、明日からお仕事?」

「ああ。何でも【グランヴァル帝国】の動向が怪しいらしい。我が軍の諜報部から連絡があった」


 グランヴァル帝国とは、ローランド王国の北に位置する大国である。

 その面積は、エノウ大陸で最も広い。

 ルナは不安げな表情でセラフィー公爵に問う。


「……戦争が始まるのかしら?」

「そうでないと願いたいが、帝国は軍備を整えているらしい。考えたくないが……戦争を企てているのだろうな」


 戦争か……。

 戦争は破壊と死をもたらすだけで、何も生み出さない愚かな行為だ。

 平和な世の中であって欲しいと、心から願う。


 今から15年前、王国と帝国の【王帝戦争】があった。

 しかし、帝国軍の圧倒的な軍事力により、王国軍は劣勢を強いられていた。


 そんな中、二人組のS級冒険者が颯爽と現れた。

 それが、剣士ランスロットと大魔道士ユグドラである。

 ランスロットは剣の達人で、王国では剣技の腕で右に出る者はいなかったらしい。

 ユグドラは女性魔法使いで、数多の魔法を使いこなしたそうだ。


 二人の活躍により、王国側は徐々に劣勢を覆して行った。

 そして、最終的には『休戦協定』の締結を行う運びとなった。

 ところが、戦争終結後にランスロットとユグドラは謎の失踪を遂げている。

 ちなみに、二人は兜や帽子で素顔を隠していたため、結局のところ素性はわからず終いである。


 セラフィー公爵はこんなことを言い出した。


「ファイン君、娘をよろしく頼む。いくら強いとはいえ、ルナは女の子だ。変な虫が付かぬよう、君がルナを守ってやってくれ」

「……? はい」

「お、お父様!? ななな、何をっ!?」


 僕はセラフィー公爵から、ルナを守るように頼まれた。

 しかし、ルナは非常に強いので、正直僕が守る程のことはないと思う。

 一方、ルナは何故か顔を赤くしており、明らかに動揺の色があった。


 その後、僕とルナは学生寮に戻り、休んだ。

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