第18話 邂逅
オー森に行くようになって、数日の時が経った。
僕は、ゴブリンやスライム程度なら余裕で倒せるようになっていた。
さすがに下級モンスターは、僕くらいでも楽勝だった。
より強力なモンスターと戦い、さらにレベルアップしようと僕は思った。
そこで、森の奥へ行ってみることにした。
看板には、『この先、ブラッディウルフの住処 C級以上の冒険者を除き立入禁止とする』と書かれていた。
僕は森の奥へ進むことにした。
森の奥は木々が生い茂っており、まだ真昼だというのに薄暗かった。
僕は早速、ブラッディウルフ1匹に遭遇した。
ブラッディウルフも僕を見て、臨戦態勢に入る。
ブラッディウルフの弱点は火属性と、ユリウスの指南書に書いてあった。
そのため、僕は火球を放ち、先制攻撃する。
しかし、ブラッディウルフは素早い動きで火球を避け、そのまま僕に飛びついて来た。
僕は何とかブラッディウルフの攻撃を避け、一旦距離を取った。
そして、もう一度火球をブラッディウルフに対して放った。
しかし、ブラッディウルフはまた避けて、僕に飛びついて来た。
二度も同じ手が相手に通じるわけがない。
そんなことはわかっていた。だから……。
ブラッディウルフは僕の目の前まで来た。
しかし、ブラッディウルフが僕に到達することはなく、空中で動きを止めた。
よく見ると、ブラッディウルフの脚に蔦が絡んでいた。
そう、これは僕が【生命創成】で生やした蔦だ。
ただし、この魔法は発動に時間がかかるのがネックだ。
そこで、あらかじめ死角から蔦を生やし、ブラッディウルフが近づいたところで一気に蔦を成長させたのだ。
僕は動けなくなったブラッディウルフに火球を放ち、とどめを刺した。
ブラッディウルフは死んだ。
■■■■■
僕は10歳になり、相変わらず森には足繫く行っていた。
その頃には、ブラッディウルフすらも余裕で倒せるようになっていた。
この日も森へ行き、モンスターたちを屠っていた。
ところが、嫌な気配を感じたので、僕は先へと走って行った。
すると、そこには巨大なドラゴンがいた。
よく見ると、数人の騎士たちが応戦していた。
「ば、馬鹿なッ!? 何故こんなところにドラゴンが!?」
あり得ないはずの現実に、騎士たちも狼狽していた。
今までこの森にドラゴンが現れるなんてことは、一度もなかったはずだ。
すると、ドラゴンが大きく息を吸った。
「まずいッ! 来るぞッ!! 防御結界魔法を展開しろ!!」
騎士団のリーダー格らしき人物が指示を出す。
それに合わせて、騎士たちは両手を前にかざした。
その直後、ドラゴンは口から火炎のブレスを放った。
騎士たちはブレス攻撃をなんとか凌いだ……かに見えた。
しかし、現実は優しいものではなかった。
「「「ぐわああああああ!!」」」
叫び声と共に騎士たちは吹き飛ばされてしまった。
残るリーダー格の騎士は立ち上がるが、ダメージは小さくない模様。
なんてことだ……。
このままでは騎士たちが成す術もなくドラゴンに殺されてしまう。
ここは僕が戦うべきなんだろうが、こんなちっぽけな僕に何ができるのだろうか……?
いや、違う。やるんだ、僕が!
僕には、心強い『味方』がいる。
ユリウスがくれた魔法があれば、きっとあのドラゴンを倒せる!
僕は、心のどこかでそう確信していた。
気が付いたら、僕はドラゴンの前に立ちはだかっていた。
対するドラゴンも僕を見て、臨戦態勢に入る。
「き、君! 危ないから下がっていなさい!!」
騎士団のリーダーは必死に叫ぶ。
しかし、僕はその警告を無視し、右手を天高くかざした。
頭上には、黄色い魔法陣が現れた。
そして、雷鳴と共に厚い雲が現れ、晴れ渡っていた真昼の青空を覆った。
雲の中を無数の稲光が走った。その直後……。
ズドーン!!
巨大な稲妻がドラゴンを直撃した。
「グオオオオオオオオッ!!!」
ドラゴンは苦悶の声を上げ、地面に倒れた。
僕は【稲妻斬撃】で、ドラゴンを倒すことに成功したのだ。
「き、君は一体……?」
騎士のリーダーは怪訝そうに僕を見つめた。
その騎士は、白銀の鎧兜を身に纏っており、背中には赤いマントを羽織っていた。
だが、先程のドラゴンの攻撃により、ボロボロになっていた。
おっと、そうだ。まずは治療が先だな。中には瀕死の騎士もいるようだった。
僕は心の中で魔法を思い浮かべた。
【特級治癒】!!
「なっ!? これは……!?」
「す、すごい……。俺たちの傷が……回復している!」
ボロボロだった騎士たちは、たちまち回復していった。
そして、騎士のリーダーが身に纏っている鎧兜も、輝かしい白銀を取り戻した。
騎士は兜を脱いだ。
その素顔は金髪碧眼で、中年の男性だった。
「君のお陰で命拾いしたよ。ありがとう。騎士団を代表して例を言う。だが、君のような子供がなぜこのような危険な場所にいる? それに先程の高度な魔法……あのような代物は子供が到底習得できるような魔法ではないはずだが……?」
騎士の質問に、僕は答えた。
「毎日魔法の訓練をしています」
「……そうか。君の答えに噓偽りはないようだ。だが、君がただの子供ではないことも事実だ。ところで、まだ名前を聞いていなかったな。君の名前は?」
騎士が僕の名を尋ねてきたので、こう答えた。
「名乗るほどの者でもありません」
「そうか。私の名は……」
しかし、僕は記憶力が悪いので、その騎士の名をすぐに忘れてしまった。
「とにかく、君のお陰で、こうして今日も家族のもとに帰ることができそうだ。改めて例を言うよ。実は、私には君と同じくらいの『娘』がいるんだ。娘にも良い報告ができそうだ」
騎士は続けてこう言った。
「さらばだ、少年。私はいつか必ず君の力になることを約束しよう」
そう言うと、騎士たちは馬に乗って去って行った。
それから数日後、イナ村には台車に載った大量の食糧や、衣類など物資が贈られてきた。
それと一緒に、一枚の手紙が添えられていた。
『“名も無き小さな英雄”へ、感謝の証として物資を贈る。王国騎士団一同より』
それからというもの、イナ村は少しずつだが豊かになっていった。
あれから年月が経ち、15歳になった僕は王都へ行き、学園に入学した。
こうして今の僕が存在するのも、当時の自分が努力し、大賢者ユリウスを始めとした『仲間』たちの支えがあったおかげだと思う。
これからも感謝と努力の気持ちを忘れずに、頑張りたいと思う。