第17話 ファインの過去
今回は、昔の主人公についてある程度掘り下げていきます。
僕の名は、ファイン・セヴェンス。
小さなイナ村の孤児院で育った孤児である。
そのため、実の両親は僕自身も知らない。
今回は、そんな僕の幼少期について語ろう。
僕は生まれて間もない赤子の頃に、村の外れに捨てられていたそうだ。
足には、【ファイン】と書かれた名札が括り付けられていた。
ちなみに、【セヴェンス】という姓は、孤児院での7番目ということを示す。
村は小さく決して裕福ではなかったが、村の人たちや孤児院の先生たちは優しくて温かい人たちばかりだ。
しかし、孤児院にはいじめっ子たちがいた。
それが、ジャン・ワンスとネオ・トゥースだ。
彼らは今でこそ僕を兄貴と慕っているが、昔は僕をいじめていたのだ。
ジャンはガキ大将気質で、いじめの内容は悪口や殴る蹴るといった暴行が多かった。
そして、ネオは後ろでそれを見て笑っていた。
ある日、教会のセイン神父に相談した。
「どうして僕はこんなにも不遇なのでしょうか? 両親はいないし、いじめられるし……」
「この世に生を受けたことを感謝しなさい。あなたは生きているだけで無限の可能性があるのですよ。そして、いじめっ子たちを見返せるように、これから努力するのです」
セイン神父はそう言った。
感謝……? 無限の可能性……?
冗談じゃない。こんな僕にどうしろと?
当時の僕はそんな風に考えていた。
ある日、僕はいつものようにジャンとネオにいじめられていた。
「おいファイン! 相変わらずお前は弱いな!」
「ギャハハハハ!」
「や、やめてぇ……」
ジャンはいつものように僕に暴力を振るい、ネオは横で笑っていた。
そのとき、セイン神父の言っていた『無限の可能性』という言葉が僕の脳裏をよぎった。
そこで僕は、思い切ってジャンに反撃した。
まずジャンのパンチを避け、カウンターでジャンの顔面をぶん殴った。
「いってええええええ!!」
ジャンはたじろいだ。
僕は続けざまにジャンに飛びつき、そのまま馬乗りになった。
「このっ! このっ!!」
そして、何度もジャンの顔面をぶん殴ってやった。
ジャンの顔面はパンパンに腫れあがっていた。
「わ、悪かった……。おれが悪かった。だから、もうやめてくれぇ……」
ジャンは完全に降参していた。
ネオに至っては、涙目になってオドオドしていた。
なんだ、弱いのはこいつらの方じゃないか。
こいつら全然大したことないじゃないか。
それ以来、ジャンとネオはもう僕をいじめなくなった。
■■■■■
僕が5歳の頃。
ある日、孤児院の裏を散歩していた。
石畳を歩いていると、突然足を取られた。
よく見ると、自分が踏んだ所の石畳が沈んでいた。
そして、孤児院裏に突如地下への階段が現れ、降りると扉があった。
扉を開けて中に入ると、壁にかけられたランプに火が灯った。
しかし、不思議なことに恐怖や不安はなく、むしろ謎の安心感すらあった。
その地下室の中は、書物が保管されている【地下書庫】だった。
早速、僕は一冊の本を取った。
「ユリウス・ヴァン・ローランド……?」
そう、それはかの有名な【大賢者】の魔道書であった。
ユリウスが遺した数々の魔道書には、下級魔法から上級魔法などの、ありとあらゆる魔法の術式が載っていた。
このうちの一つに、必殺魔法【稲妻斬撃】も入っていた。
また、魔法は頭に術式を思い浮かべて発動するとも書いてあった。
いわゆる、【無詠唱】である。
「すごい。こんなに複雑な魔法式が、こんなにたくさん……」
この頃から、僕は本格的に魔道の勉強をすることになる。
ちなみにこの頃、僕は既に文字の読み書きはある程度習得していた。
僕は暇さえあれば、この地下書庫で魔道書を読み、魔法の実践練習を行った。
その結果、自分で言うのも何だが、僕は数多の魔法を使えるようになった。
魔道書のほかには、【人魔大戦】に関する本も保管されており、歴史についてもある程度は勉強できた。
後は、戦術指南書やモンスターの弱点など、数々の書物が保管されていた。
なお、この頃に僕がよく行方を眩ますという理由で、僕に付きまとう子がいた。
その子は、地下書庫の扉を開けようとするが、なぜか開けることはできなかった。
そして、僕が扉を開けると彼も一緒に入って来た。
しかし、『不気味な雰囲気がする』と言ってすぐに地下書庫から出て行った。
どうやら地下書庫は僕以外“招かれざる客”ということらしい。
6歳になった頃、僕はより実践的な魔法の訓練を行いたいと思った。
そこで、イナ村から北へ10分歩いた所にある『オー森』に行くことにした。
森の中には、ゴブリンやスライムといった下級モンスターが棲息している。
森に入り、早速ゴブリンを見つけた。
ユリウスの戦術指南書には、『魔法使いは敵と距離を保って戦う』と書いてあった。
そのため、僕はゴブリンより離れた位置から魔法を放った。
「【火球】!」
火球の威力は抜群で、ゴブリンは一撃で死んだ。
その後も、僕はゴブリンやスライムたちを屠ってやった。
森に入るようになって数日が経った。
僕はこの日の訓練を終えて、村へ帰ろうとしていた。
「……!」
向こうから、微かに叫び声が聞こえた。
それもモンスターではなく、人間の声だった。
僕は叫び声が聞こえた方向へ走った。
ジャンとネオが、3体のゴブリンに囲まれていた。
「母ちゃーん!!」
「助けてー!!」
僕は、雷魔法を使うことにした。
「【稲妻矢】!」
僕が魔法名を呼ぶと、ゴブリンたちの頭上に小さな雲が現れた。
そして、小さな稲妻がゴブリンたちを直撃した。
小さくても威力は抜群で、ゴブリンたちは丸焦げになって死んだ。
「あ、兄貴……」
「え?」
「ファインの兄貴……! 助けてくれてありがとう! オレ、今日からあなたのことを“兄貴”って呼ばせていただきます!!」
「オイラも兄貴って呼びます!」
「ファインの兄貴はオレたちの【ヒーロー】だぜ!!」
「ええーっ!?」
なんと、ジャンとネオは僕のことを兄貴呼ばわりしていた。
そう、この頃から二人は僕のことを兄貴と呼んで慕うようになったのだ。