第16話 稽古
決闘した日の午後、僕はルナに稽古を申し込まれた。
昼食後、僕とルナは学園に戻ることにした。
学園の校舎裏には稽古場があり、休日でも開放されている。
そこで、僕とルナは稽古場に向かった。
運がいいのか、この日は誰もいなかった。
僕とルナは、倉庫にあった訓練用の木剣を持った。
「じゃあ、まずはいつも通りに攻めてきて」
「うん、わかったわ」
早速、ルナは僕に向かってきた。
「はあああああっ!」
ルナは上から斬撃する。
僕は攻撃を回避し、ルナの背後に回り込む。
ルナは振り向いて横斬りで攻撃する。
僕は身を後ろに退いて回避した。
「せいっ! やあっ! はあっ!!」
ルナは攻撃を続けた。無論、僕は回避や剣での防御を行う。
ルナの弱点、というか改善点はもうわかっている。
そろそろ、フィニッシュといこうか。
僕は一旦、ルナから距離を取った。
「はあああああっ!!」
すると、ルナがまた向かってきた。
ルナが横から斬撃してきた。
それと同時に、僕はルナの剣を蹴り上げた。
「きゃっ!」
ルナの剣は宙を舞い、後方の地面に突き刺さった。
「ルナ、君の戦闘スタイルは【攻撃重視型】だ。それ故に、防御が疎かになってしまっている。常に敵にくっついていたら、やられてしまう危険があるだろう?」
「確かにそうだわ。でもどうすればいいの?」
「そこで、次からは【ヒット&アウェイ】……即ち、攻撃したら離れるということを意識するんだ」
「なるほど」
「それからもう一つ。ルナは剣戟時に力を入れ過ぎているように感じた。そこで、出し切る力は本気の9割までにするんだ」
「なぜ9割までなの?」
「100%以上の力を出すと、力が安定せずにかえって力を発揮できなくなる。したがって、100のパワーを出したければ、自分の限界値は110以上に鍛えると良い」
「なるほど……。アドバイスが適格だわ。ファイン君に稽古頼んで正解だったわ!」
僕の指導に、ルナは目を輝かせている。
ルナは再び僕に向かって攻撃してきた。
僕はルナの攻撃をガードし、反撃に移る。
しかし、ルナに避けられてしまう。
そして、そのまま僕の剣戟の間合いから離れた。
ルナはすぐさま僕に再度接近し、攻撃してきた。
僕はまた防御してから、反撃する。
ルナにはまた距離を取られた。
ルナの動きが今までよりも格段に良くなっている。
というか、以前よりも強くなっている。
もとからルナは強かったが、ヒット&アウェイを覚えたことでさらに強くなった。
「いいぞ、今までよりも動きが良くなっている。攻撃したら後退することを意識するんだ」
「えっ? こ、交代?」
ルナはなぜか目を丸くした。
そして、剣を降ろして僕の方に歩み寄ってきた。
「ハイタッチ!」
「えっ……?」
ルナは突然、僕にハイタッチしてきた。
僕もつられて手を合わせてしまった。
「えっ? いや、その“交代”じゃなくて……」
「……あっ! ごめんなさい! 攻守交代と間違えちゃったわ!」
ルナは片目を閉じ、舌を出していた。
どうやらルナは天然さんのようだ。
とりあえず、休憩することにした。
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休憩中、ルナが話しかけてきた。
「ねえ、ファイン君。あなたの魔力はいくつだっけ?」
「僕の魔力はAだ」
「そうだったよね。すごいな~。ちゃんと魔法が使いこなせて」
ルナはそう言うと、しゅんとした表情になった。
しかし、僕はルナの発言が訝しいと感じた。
「どういうことだ?」
「入学試験の日のこと……憶えてる? 魔力測定で水晶が割れたことを。つまりね、私の魔力は測定不能だったの」
「そういえば……。でも魔力測定器が割れたってことは、ルナは規格外の魔力の持ち主ってことでは? もしかしたら、ルナの魔力はS級かもしれない。だとしたら、これは凄いぞ」
若干興奮ぎみの僕に対して、ルナの表情は相変わらず曇っていた。
「でもね、私は魔法を使うと、暴走してしまうの。だから、私は魔法を使えないの」
「魔法を使うと暴走してしまう? それは魔力コントロールが正しくできていないからだろう。魔力が高すぎが故の“弊害”だろうな。よし、今度は魔力コントロールの訓練をしてみよう」
「うん、お願いね!」
「まずは空気中に漂う魔素を体内に取り入れ、魔力に変換する練習から始めよう。そして、魔素を取り入れたら、体内でグルグルと循環させるイメージで」
「わかったわ」
そう……。
この世はありとあらゆることが【循環】することで成り立っている。
簡単な例を挙げよう。
雨が降ると、地上に水源ができる。そこから水蒸気が蒸発し、そして雲となってまた雨が降る。
一日は朝・昼・晩と時間が流れ、そして夜が明けて翌日には再び朝を迎える。
もっと身近な例を挙げるとすると、私たち人間は体内で血液が循環することによって、呼吸で取り入れた酸素と二酸化炭素を行き来させ、生命活動をおこなっているのだ。
これらが、【循環】の法則。
5分ほど魔力コントロールの練習を行った。
ルナが苦しそうにする。
「うっ、少し苦しいわ……」
「魔素を体内に入れ過ぎたのかもしれない。そういう時は、少し体外に出してみよう」
「うん。……あっ、少し楽になったかも」
「よし、魔力コントロールは十分そうだね?」
「うん。できたわ」
「それじゃあ次はいよいよ魔法の実践だ」
「うん!」
僕がそう言うと、ルナはニコニコしながら頷いた。
魔法が使えるようになるのが楽しみなのだろう。
「私、下級の攻撃魔法なら一通り覚えたわよ!」
「そうか。魔法の実践訓練を行う前に一つ聞きたいんだけど、ルナの加護属性は何?」
「私の加護属性? 水属性だけど、どうして?」
「ならルナには【氷の刃】を習得してもらおうか。自分の加護属性と同じ属性魔法を使うと、威力が15%上乗せされるんだ」
「そうなんだ、初めて知ったわ。ファイン君って物知りね! あっ、魔法使いだから当たり前だよね」
僕は倉庫から幾つか的を取り出し、稽古場に設置した。
「あの的に向かって氷の刃を撃ってもらう。せっかくだから、【無詠唱】もこの際習得してみよう。コツは、頭の中で術式を思い浮かべること」
「うん、わかった。やってみるわ」
ルナは目を瞑った。
そして左手を前に出し、右手を添えた。
それから5秒ほど経った時だった。
「【氷の刃】!」
ルナが魔法名を叫ぶと、手の先から青色の魔法陣が現れた。
そこから、寒風と共に魔法陣から氷の刃が3発高速で発射された。
そして、的は真っ二つに切り裂かれた。
す、すごい……。
魔力コントロールの練習を少ししただけなのに、ここまで強い魔法を出せるなんて。
さすがはS級魔力の持ち主だ。
いや、それよりもルナの成長性がずば抜けて高いということだろうか。
「や、やった……! やったわ! 私、ちゃんと魔法が使えるようになったわ!!」
そう言うと、ルナは僕に抱きついてきた。
異性に抱き着かれて、僕は内心ドキドキしていた。
「これも、ファイン君のお陰よ。ありがとう、ありがとう……」
ルナは感動のあまり、涙を流していた。
その後もルナは魔法の練習を続けた。
何回か続けていくうちに、最初のころよりも魔法の扱いが上達していった。
そして、ルナは氷の刃以外の攻撃魔法に加え、治癒や解消といった回復魔法もマスターした。
その頃には既に夕方になっていたので、僕とルナは寮へ戻った。