第158話 すれ違い
フォースター王国騎士団とミネルバ、そして僕ら星の英雄たちはエルトリア王都の城にある会議室に呼び出された。
魔王討伐を前に、エルトリア王家に謀反を働いたゲブに関する作戦会議を行うのだろう。
「では、これより逆賊ゲブ討伐の為の作戦会議を行う。初めて会う者もいるだろうから、一応自己紹介をしておく。私はライズ・フォン・エルトリアと申す。エルトリア王国の第一王子して王太子だ。よろしく頼む」
今回のリーダーはライズ・フォン・エルトリア。
エルトリア王国の第一王子にして、王太子である。
年齢は、恐らく二十代前半と思われる。
ニーナ王女の兄ゆえに、同じオレンジ髪と青色の目が特徴的だ。
彼はこの国の騎士団長で、剣の達人でもあるという。
ゼオン帝国との戦いでは常に最前線で活躍し、幾多の戦いで勝利を収めてきたそうだ。
今回はライズ王太子が主体で作戦会議を行う。
「今回の作戦では、あらかじめ来ていただいたフォースター王国の騎士団にも加わってもらう。代表者たちには簡単に自己紹介をしてもらおうか」
「私はフォースター王国騎士団所属の聖騎士エリーゼ・ロックストーンと申します。エルトリア王国のために、精一杯戦う所存でございます」
「私はフォースター王国の冒険者パーティー【ミネルバ】のリーダー、アリシア・エルフィードです。よろしくお願いします」
「それから、急遽の作戦に加わることになった者も何名かいる。その代表者に一言自己紹介してもらう」
ライズ王太子はそう言うと、僕に目線を送ってきた。
そのため、僕はその場で席を立った。
「私はエノウ大陸のローランド王国から参りました、星の英雄たちのファイン・セヴェンスと申します。よろしくお願いします」
「では、改めて作戦会議を行う。諸君らも知ってのとおり、ゲブ・スポイルが我々エルトリア王家に反旗を翻した。そこで国王よりゲブの討伐を命じられた。ゲブ・スポイルは元エルトリア王国軍所属で、ゼオン帝国との戦いでは軍師を務めていた男だ。そして、自軍の方が数的不利な状況でも必ず勝利を納めてきた天才軍師だ。ゲブの戦術は、まず森や山などの見通しの悪く閉塞的な地形に敵を誘導する。そして逃げ道を塞いだところで、高所から矢や魔法による攻撃で敵を各個撃破してきた。これがゲブの戦術だ。ちなみに、ゲブには部下のヴァイス・シュトロームという壁役がおり、敵の攻撃を一切通さない鉄壁の防御力を誇っている。特に防衛戦でその真価を発揮する。ヴァイスの守備力があったからこそ、ゲブは数々の戦いで勝利を納めてきたと言っても過言ではないだろう。ゆえに、敵に回ったゲブはかなり手強い。各員、気を引き締めて欲しい」
味方だと頼もしいが、敵に回るとかなり厄介。
ゲブはまさに、その典型的な例であろう。
ゆえに、ゲブとの戦いにおいて苦戦は必至だろう。
「国王から、逆賊ゲブとそれに加担する者は全員処刑せよとの命令が出ている。捕らえ次第、その場で即刻処刑しても構わない」
「同感です。親愛なるニーナ王女殿下の名誉を傷つけられたのです。逆賊ゲブを許すわけには行きません!」
「そうね。アイツは生かしておいても、ロクなことにならないわ」
「よーし。そうと決まれば、王女様に歯向かったゲブの野郎は、オレ様が成敗してやるぜ!」
「私も精一杯努力いたします」
「でも、本当にそれでいいのかしら……」
ゲブの討伐に対して、続々と賛成の意見が出る。
そんな中、ルナはボソッと迷いの言葉を口にする。
「それではダメです。今は人類同士で争っている場合ではありません。協力して魔王に立ち向かわないと……!」
「しかし、ゲブは生かしておいても、どの道エルトリア王家に歯向かうことになる」
「ファイン殿と言ったか? 貴公はエノウ大陸では英雄と謳われたそうだが、今回の作戦におけるリーダーは私だ。よそから来た貴公は言葉を慎んでいただきたい」
「くっ……! 何とかして、ゲブ殿を味方にできるように説得できないのですか?」
「ファイン、アンタは一体どっちの味方なのよ!?」
「僕はどちらの味方でもありたい。僕だけでも、ゲブ殿を説得しに行きます!」
僕が席から立ち上がると、エリーゼさんは突然僕に剣を向ける。
「ファイン殿、いくらあなたと言えども、勝手な行動は許さない!」
現場にただならぬ緊張感が発生する。
あのエリーゼさんが、僕に敵意を向けて来たのだ。
「やめなさい、エリーゼ!」
「やめましょうよ!」
「おいおいおいおい! 仲間割れはよくねーぜ!」
「エリーゼさん……!? なぜ……」
「私はフォースター王国の聖騎士エリーゼ・ロックストーンだ。友好国エルトリア王国王家のために……ニーナ王女に歯向かったゲブを成敗するために戦う!」
「エリーゼさん、剣を納めてください。僕たちの敵はあくまでも魔王です」
「あなたが大人しく席に座れば剣を納めよう。今はゲブたちを討伐するのが優先だ」
「魔王はどうするのです!? 僕たちがこんな事をしている間に、魔王のせいでまた多くの犠牲者が出るかもしれないのですよ!?」
「あなたの言い分は分かる。だが、今はゲブたち反乱軍を何とかしなければならないのだ!」
ゲブを討伐するべき意見と、魔王を倒すべき意見がぶつかり合う。
すると、アリシアさんが突然席を立つ。
「剣を納めてください、エリーゼさん。確かに、ゲブは無視できません。ですが、ファインさんの言うことも無下にはできません。こうして、人類同士で争っている間に魔王は何か仕掛けてくるかもしれません」
「ボ、ボクもアリシアの意見に賛成だよ!」
「あたしもだニャ!」
アリシアさんは、魔王への備えをするべきだと言う僕の意見に乗ってきた。
それに続き、ミーナとフランも僕の意見に賛同する。
「……エリーゼ殿、ひとまず剣を納めよ。今は味方同士で争っている場合ではない」
「はっ、申し訳ございません」
「だが、今は逆賊ゲブを捕らえるのが先決だ。それを忘れるな、ファイン殿。魔王のことは後回しだ」
この分からず屋め。
魔王アガレスがどれだけ危険か知らないくせに、よくそんな事が言えたものだ。
「……仕方がない。こうなったら僕一人でゲブ殿の説得に行きます!」
僕はそう言うと、転移で単独行動に出る。
城の外に出た後は厩舎に向かい、そこから自分の馬を回収する。
とりあえず、王都から北へ進むことにする。
ゲブたちはまだエルトリア北部にいるはずだ。
なんとか彼らを説得して、魔王侵攻への備えを行わなくてはならない。
今は人類同士で争っている場合ではないのだ。